「うまくいかなかったのは環境のせい」「自分ではなく相手が悪い」。何か問題やトラブルが起こったとき、その原因が周囲や他の人、環境など“自分以外”にあると考えやすい「他責思考」の人がいます。他責思考になる人は、自分の失敗を人に責められたり、指摘されたりした際にも、自分を守ろうとして他人のせいにする傾向があります。
こうした人が身近にいる人からは「無責任」「いつも人のせいにするから、一緒にいると疲れます」「正直、あまり関わりたくない」といったネガティブな印象を抱く人が多いようですが、他責思考が強い人の心理とはどのようなものなのでしょうか。心理カウンセラーの小日向るり子さんに聞きました。
「自己愛」や「自己防衛」が強い心理状態
Q.そもそも「他責思考」とは何ですか。
小日向さん「他責思考とは『問題が起きた原因や、問題が起きたことへの責任を他者や環境のせいにする』思考のことをいいます。この思考と対をなすのが『問題の原因や責任が自分にある』という思考で、これを『自責思考』といいます」
Q.他責思考は、どのような心理から来るものなのでしょうか。
小日向さん「大きくは2つの心理状態が考えられると思います。一つは『自己愛が強い』というパーソナリティーです。これは簡単にいうと『自分が大好き』という状態です。自己愛は自己肯定感を保つために必要なものですが、強すぎると“自分がかわいい”ゆえに、自分に不都合なことは全て他人や環境のせいにして自身をかばってしまいます。強度な自己愛は成育歴の中で形成されていくため、周囲の人を含めた環境が変わらない限り、他責思考に自ら気付くことはほぼないと考えます。
もう一つは『自己防衛が強い』という心理状態です。これは、自分に問題の原因を認めることで、怒られたり責任を取ったりするのが怖い、という恐怖心から自己防御が働き、他者に責任を求めてしまうものです。ただし、自己防衛からの他責思考は、仕事での大きなミスなど“ある出来事”に対してのみ働く場合があり、その人のパーソナリティーとして形成されてはいないこともあります。そのため、自己防衛がベースとなっている他責思考は、時間の経過とともに自責思考に変わることもあり得ます」
Q.他責思考になりやすい人の特徴はありますか。
小日向さん「虐待を受けて育った、いわゆる『虐待サバイバー』と呼ばれる人たちがいます。彼らは事実として自分以外の人や環境に問題があることが多く、そうした成育歴を持つと、他責思考は“生きるすべ”となります。その結果、虐待から逃れた後も他責思考が強くなる傾向があるといえるでしょう。
しかし先述したように、他責思考で生きることを認められ、その思考が定着して自己愛が過剰なままである人もいます。前者は『過酷な生い立ち』、後者は『恵まれた生い立ち』と呼ばれることが多く、それが真逆の状態であることを考えると、環境という観点からは、どのような環境であっても他責思考になり得ると考えます。
ただ、いずれにしても、極端な環境の中で育つと『自責』と『他責』の思考バランスを取ることが難しくなってしまうように感じます。本来、物事に対しては、ケースによって自責と他責のどちらも感じるもので、一方だけに偏るということはないのです」
治すためには「気付き」が非常に大切
Q.他責思考の人が家庭内や職場にいると「疲れる」「離れたい」と感じる人が少なくないようですが、なぜ、こうしたネガティブな気持ちになることが多いのだと思われますか。
小日向さん「問題となる事柄が全て『自分以外のものに責任がある』ということはあり得ません。家庭や職場などで他責思考の人と日常的に関わる人は、その人と接する時間が多い分、『常に自分は悪くない』という姿勢に疑問を感じることがストレスとなり、さらにそれを本人に指摘できない関係性の場合は疲弊を招くのではないでしょうか。
そもそも、それが自責であれ他責であれ、ネガティブな言葉を受け止めるということは、受け止める側にかなりストレスを与えるということは覚えておいた方がよいでしょう」
Q.他責思考は改善するものなのでしょうか。
小日向さん「自発的に気付くことが少ないため、まずは『他責思考である自分に気付かせてくれる存在がいる』ということが前提になるでしょう。そうした人がいて、その人のアドバイスを自身が聞こうと思えた時点で、既に改善は始まっていると思います。
もし、この記事を読んで自ら『自分は他責思考が強いかも』と思った人は、人間関係がうまくいかずに同じようなネガティブ体験を繰り返していないかを振り返ってみてください。他責思考が強い人と一緒にいると疲れてしまうため、周囲から人が離れていってしまうことが多いです。治すためには『気付き』が非常に大切です」
Q.他責思考の人に対して、どのような接し方をするとよいですか。
小日向さん「先述したように、他責思考の人がそれに気付いている可能性は低いです。そのため、その人と『深く関わりたい』と思っていなかったり、教育的な責任を担っていなかったりするのであれば、その場は受け流して疲れない程度に距離を置くのが適切です。
もし、改善してほしいと願う場合は、相手が他責思考を発したときからなるべく時間を空けずにアドバイスをするよう意識してください。プライドが高い人の場合は、敵意を向けられたり、言い合いになったりする可能性もありますが、それも想定内として相手と向き合っていく覚悟が必要です」
オトナンサー編集部