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世界最速! マッハ3の“黒い怪鳥”SR-71 なぜ“たった1機”だけ米国ではなく英国の博物館にポツンといるの? その数奇な運命とは

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イギリスで見つけた「世界最速の偵察機」

 イギリスのロンドンから北へ約70km、ケンブリッジ近郊にある「帝国戦争博物館ダックスフォード(IWM Duxford)」。ここには世界各国の軍用機が保存されていますが、そのなかでもひときわ異彩を放っているのが、アメリカ空軍のSR-71「ブラックバード」です。

Large figure1 gallery2 SR-71「ブラックバード」の機首にあるコックピット部分。前席がパイロットで、後席がRSOと呼ばれる偵察システム士官(布留川 司撮影)。

 SR-71は冷戦時代にロッキードが開発した戦略偵察機で、1966年に実戦配備されました。マッハ3を超える速度と、高度2万mを大きく上回る高空を飛行できる性能を生かし、敵の戦闘機や地対空ミサイルが容易には手出しできない場所から偵察活動を行いました。

 その速さは、ギネス世界記録にも認定されています。1976年には3529.56km/hという有人航空機の速度記録を樹立しました。またイギリスとも意外に古い縁があり、1974年9月1日にはニューヨークからロンドンまでをわずか1時間54分56.4秒で飛行。こちらも大西洋横断の最速記録としてギネス世界記録に認定されています。

 筆者も実際に目の前で見ましたが、黒一色の細長い胴体と巨大なエンジン、機首から左右へ張り出した独特な形状は、1960年代に実用化された航空機とは思えないほど未来的です。

 SR-71は全部で32機しか製造されておらず、現在はすべて退役しています。事故で失われた機体を除けば20機が現存しており、そのほとんどが博物館で展示されています。しかし、ダックスフォードの博物館にある機体以外は当然といえば当然ですがアメリカ国内にあります。では、なぜアメリカを代表する偵察機が例外的にイギリスにあるのでしょうか。

 実はイギリスはアメリカにとって単なる同盟国ではありません。冷戦時代、この世界最速機を実際に運用するための重要な海外拠点だったのです。

世界最速だけど「どこからでも飛べる」わけではない!

 SR-71は圧倒的な速度を誇りましたが、その性能と引き換えに、運用には特殊な支援が必要でした。搭載するプラット&ホイットニーJ58エンジンは、マッハ3級で飛行する際にはアフターバーナーを使用し続けるという、一般的なジェット機とは大きく異なる運用を行っていました。

Large figure2 gallery3 帝国戦争博物館ダックスフォードに展示されたSR-71「ブラックバード」の61-7962号機(布留川 司撮影)

当然ながら燃料消費量も多く、長距離の偵察任務では空中給油が欠かせません。そのため、SR-71が使用する特殊なJP-7燃料を給油できるKC-135Q空中給油機も運用されていました。

 現役時代のSR-71はカリフォルニア州のビール空軍基地を本拠地としていましたが、世界各地で効率よく偵察活動を行うため海外にも拠点を置きました。その代表的な拠点だったのが、太平洋方面の沖縄・嘉手納基地と、ヨーロッパ方面のイギリス・ミルデンホール空軍基地だったのです。

1978年にミルデンホール空軍基地にSR-71などの展開を支援する部隊が置かれ、1982年にはイギリス政府が2機のSR-71を同基地で恒常的に運用することを認め、ヨーロッパにおけるSR-71の重要な運用拠点となりました。

 ちなみにSR-71には「Habu(ハブ)」という、日本人にも馴染みのある愛称があります。これは沖縄に生息する毒蛇のハブに由来しており、黒く細長い形状のSR-71を見た沖縄の人々がハブを連想したことで、この呼び名が使われるようになったといいます。この愛称は部隊内にも定着し、実任務を経験した搭乗員が「Habu」と書かれたワッペンを身につける伝統まで生まれました。

イギリスにあるのは「偶然」ではなかった

 ただし、ミルデンホール空軍基地はSR-71が離着陸するだけの基地ではありませんでした。SR-71はアメリカ空軍でも唯一無二の航空機で、搭載するカメラ、レーダー、電子装置、J58エンジンなど、その多くが専用装備品でした。

Large figure3 gallery4 SR-71のフライトスーツに付けられたHABUのワッペン(布留川 司撮影)

その整備には空軍の整備員だけでなく、ロッキードをはじめ、エンジンやカメラ、電子戦装置などを担当するメーカーの技術者の協力が不可欠でした。そのため海外拠点にも、民間企業の技術者が「Tech Rep(Technical Representative:メーカー派遣技術者)」として派遣されていました。

つまりSR-71を海外任務で飛ばすには、機体と乗員だけでなく、整備員や空中給油機、メーカーの専門家まで含めた大規模な支援体制が必要だったのです。

 そして、現在ダックスフォードに展示されている「61-7962号機」も、現役時代にミルデンホール空軍へ展開した経歴を持つ機体です。1985年8月には、同基地に新しく完成したSR-71用施設へ、同機が最初に収容されました。

 同基地でのSR-71運用は1990年1月まで続き、冷戦時代にはSR-71が同基地を象徴する存在にまでなっていたといいます。

 アメリカ国外で唯一展示されているSR-71がイギリスにあるのは、決して偶然ではありません。この国は冷戦時代、世界最速の偵察機を長年支えた重要拠点のひとつであり、目の前にある機体自身もまた、かつてイギリスを「仕事場」にしていたのです。

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