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今でも現役!? 敵機の接近を“音”で探知する「空中聴音機」の過去と現在

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航空戦の鉄則「敵を先に見つける」

 今から一世紀前、航空機が戦場に初めて登場しました。このとき、軍隊に一つの課題が突き付けられました。それは「敵機をいかに早く発見するか」というものでした。

Large figure1 gallery4昭和天皇の観閲を受ける日本陸軍の「九〇式大聴音機」。第二次世界大戦頃までは航空機の早期発見に音響探知は真剣に取り組まれていた(画像:パブリックドメイン)

 戦闘機や爆撃機は、地上部隊とは比較にならない速度で戦場を通過します。発見が数分遅れるだけで、敵機は防空圏へ侵入し、爆撃を終え、あるいは味方戦闘機の迎撃可能圏から離脱してしまう。航空戦において「先に見つける」ことは、今日に至るまで戦闘の帰趨を左右する基本原則です。

 そのための航空機探知の歴史は、まず人間の目から始まりました。高所に配置された監視員が空を見上げ、双眼鏡で機影を探す。しかし、夜間や雲中では目視に頼ることができません。そこで軍が注目したのが、人間の「耳」であり、音響探知です。

 発想自体は極めて単純です。航空機にはエンジンがあり、プロペラや排気流が大気を振動させます。その音を地上で拾えば、まだ視界に入っていない航空機の存在を推測できます。第一次世界大戦中から、この原理を利用した航空機探知装置が真剣に研究されるようになりました。

 代表的だったのが、巨大なコンクリート製の「音響ミラー」です。湾曲した反射面に航空機のエンジン音を集め、焦点付近に配置した聴音員が音源の方向を判断します。さらに、ラッパを逆向きにしたような巨大な集音器も登場しました。今日のレーダーアンテナを思わせる外観ですが、電波ではなく音波を扱っていた点が大きく異なります。

 第二次世界大戦期にも、こうした聴音装置は利用されました。航空機の接近を音で察知し、その方向やおおよその距離を推定して、防空部隊へ警報を送るのです。聴覚に特に優れた人々が聴音任務に動員されることもあり、視覚障害者がその能力を生かして防空任務に従事する例もありました。

航空機の高速化によって「耳で探す」は過去のものに?

 しかし、音響探知には原理的な限界がありました。航空機は誕生から半世紀を経て高速化を達成し、第二次世界大戦後にその速度は音速(約1225km/h)に迫るようになります。

Large figure2 gallery5アメリカ軍の亜音速ジェット戦闘機F-86F「セイバー」。1950年代に入ると戦闘機の高速化が進んだ(画像:アメリカ空軍)

 すると音が届くまでの時間そのものが問題になります。ジェット戦闘機、そして超音速機の登場は、エンジン音を待ち受けて航空機を探すという方式に決定的な制約を与えました。

 そしてレーダーが実用化されると、音響探知は航空機警戒の主役から退いていきます。電波(伝達速度 約10億8000万km/h)ならばほぼ瞬間的に、そして昼夜や天候の影響を受けにくく、航空機までの距離や方向をより正確に把握できました。航空戦は「耳で探す時代」から「電波で探す時代」へ移行したのです。

対ドローンで再注目される音響探知

 一方で、音が航空戦から完全に消えたわけではありませんでした。その典型がヘリコプターです。音速よりも遥かに遅く低空を飛行し、地形にまぎれながら敵地上部隊に接近する必要があるヘリコプターにとって、騒音は大きな弱点でした。ローターやエンジンが発する音は、敵にとって格好の手掛かりとなるからです。

Large figure3 gallery6AH-64D「アパッチ」攻撃ヘリ。地表近くを比較的低速で飛ぶ攻撃ヘリにとって“音”は現在も重要な要素だ(画像:アメリカ陸軍)

 そのため軍用ヘリコプターでは、ローター形状、エンジン排気などを工夫し、可能な限り音響痕跡を抑える研究が続けられてきました。例えばAH-64「アパッチ」は、騒音の低減が図られていることで知られます。

 昨今では通常の航空機よりも遥かに速度の遅い小型ドローンの活用が広まっていますが、ウクライナではこれを早期に発見するために音響探知が試みられているという情報もあります。

 つまり「飛行機の音を聞く」という古い発想は、姿を変えながら現在にも生き続けています。レーダーが航空機を「見る」技術だとすれば、音響探知は航空機が空間に残す「存在の痕跡」を捉える技術です。第一次世界大戦の巨大なコンクリート製音響ミラーから、現代の低騒音ヘリコプターに至るまで、航空戦の歴史には一貫して「敵より先に気づく」という執念があります。空を飛ぶ機械が存在する限り、その機械は必ず何らかの音を発します。だからこそ航空戦では、目だけではなく、耳もまた敵を探してきたのです。

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