北海道新幹線の高速化を阻む主要因は、青函トンネルの前後で、在来線の貨物列車が線路を共用していることによります。将来「東京~札幌4時間半」を目指すうえで高速化は必須条件ですが、現実的な改善方法はあるのでしょうか。
計画通りなら航空機とも競争できる
東京~札幌間およそ1000km直結する東北・北海道新幹線。2030年度末の開業を目指して、新函館北斗~札幌間が建設中です。先行開業している新青森~新函館北斗間の輸送密度を見ると、2022年度は2817人だったところ、2023年度には4869人になるなど、コロナ禍から脱しつつあります。しかし2023年度は116億9500万円の赤字でもあり、人口238万人の札幌都市圏との直結が求められています。
北海道新幹線H5系(安藤昌季撮影)。
JR北海道によると、全線開業時には最高速度320km/hで東京~札幌間を4時間30分で結ぶ計画です。この場合、停車時間を含めた平均速度である表定速度は約230km/h。東北新幹線最速の「はやぶさ6号」とほぼ同じ表定速度です。
この「はやぶさ6号」は盛岡発東京行きで、大半の区間を最高速度320km/hで走りますが、高速試験車「ALFA-X」は最高速度360km/hの実用化に向けた試験をしており、より高速化できる余地があります。
長万部町が公表した「北海道新幹線札幌延伸時に貨物新幹線を実現する方策の提案」の補足説明では、大宮~札幌間で360km/h運転を行い、東京~大宮間を22分で運転できれば、東京~札幌間の所要は3時間44分のようです。航空機で同区間を結んだ場合、3回乗り換えで約3時間半ですから、乗り換えなしで3時間台なら、競争力は確保できるでしょう。
ただ、問題となるのは青函トンネルを中心とする約82kmの区間で、新幹線が在来線貨物列車と線路を共用していることです。
共用区間では、新幹線がトンネル内で160km/h、それ以外では140km/hに速度制限され、現行では共用区間の走行に32分を要しています。もし、この区間を360km/hで走れると所要時間は14分ですから、現状は18分ものタイムロスというわけです。
共用区間はトンネル部分だけではない
前出の「東京~札幌4時間半」も、大半の区間で320km/h運転している前提と見られ、貨物列車との両立が前提なら、もっと遅くなる可能性も高いです。第二青函トンネル建設が根本的な解決となりますが、巨額の建設費から実現の目途は立ちません。
以上を踏まえ、筆者(安藤昌季:乗りものライター)は北海道新幹線の高速化について改善策を考えてみます。それは「共用区間の短縮」です。
青函トンネルを走行する貨物列車(画像:PIXTA)。
青函トンネルの全長は約54kmですが、共用区間は前出の通り約82kmあります。多客期の青函トンネル内260km/h運転時でも、トンネル外の共用区間約28kmでは140km/h運転です。共用区間の分岐は、奥津軽いまべつ駅より手前の大平分岐部で行われていますが、これを短くすれば高速化と増発が可能です。
青函トンネルの断面図を見ると、トンネルに入って2km付近と51km付近は、地上すれすれを通っています。浅いトンネルであれば地圧は少ないため、浅い部分に接続線となるトンネルをつなげて在来線を分岐させれば、共用区間は82kmから49kmに短縮できます。
特に本州寄りの浅い場所は、JR津軽線の三厩駅から1km程度の位置と思われ、津軽線から接続線を建設すれば貨物列車を退避できます。現在、津軽線末端区間の廃線が議論されていますが、この区間を貨物メインとして電化してはどうでしょうか。
北海道側は、青函トンネルの出口付近に退避設備となる湯の里知内信号場があるため、そこまでは接続線を建設する必要はありませんが、こちらも廃止されたJR江差線を貨物専用で復活させ、トンネル内から接続線を延ばせば、共用区間を3km程度は短くできます。
2階建て新幹線の階下を貨物用に
また、現実性はより低いと前置きしたうえで、横取基地との接続線も考えられます。横取基地とは、青函トンネル内で保線車両用に分岐したトンネルで、竜飛横取基地と吉岡横取基地があり、上下線それぞれから分岐線が延びています。地上から両横取基地までの貨物列車接続線を建設できるなら、共用区間は21kmと大幅に減らせます。海底部をほぼ建設しないため、第二青函トンネル建設より工費は安いと思われます。
さらに、一部の貨物列車を、コンテナを搭載する2階建て新幹線に置き換えてのダイヤ確保も考えられます。「MAX」でおなじみE4系新幹線並みの車両限界なら、2階を客室にし、階下と平屋部分にコンテナをレール向きで搭載できるでしょう。
階下は長さ12m、平屋は4m程度の空間があり、幅は3.3m、室内高さは最大4.5m取れますから、階下には長さ3.6m、幅2.3m、高さ2.2mの12フィートコンテナ3個を、平屋(1扉とし片側のみ)には12フィートコンテナを1個搭載し、片側通路を確保できるはずです。
この場合、10両編成で最大40個の12フィートコンテナを搭載できます。ただし軸重を考えると、3軸ボギー台車が必要ですが……。在来線の貨物列車はコンテナを最大130個搭載可能で、その代替はできませんが、速達性の高い貨物を2階建て新幹線に逃がせば、共用区間を走る貨物列車数を減らせるかもしれません。
12フィートコンテナ(画像:JR貨物)。
この新幹線は、苗穂か函館の車両基地でコンテナを搭載し、そのまま仙台か東京まで走り、車両基地でコンテナを降ろすわけです。2階建てで最高速度300km/h以上は無理でしょうが、200km/h台でも停車駅を増やし、速達列車を避ければ、ダイヤの妨げにはならないでしょうし、画期的な高速貨物輸送が可能となる利点もあります。
なお、夜行列車として運転することも考えられます。そもそも新幹線は騒音などの観点から午前0時から6時まで、また供用区間は保守作業の観点から午前1時から3時半まで、それぞれ走行できません。そこで、例えば東京20時ごろ発→奥津軽いまべつ23時59分着→共用区間を通過→木古内に午前6時まで停車→札幌8時前着といった列車に2階建て新幹線を使えば、旅客・貨物とも効率的に運べるでしょう。
こうした方策を積み上げれば、新幹線と貨物列車の共存はしやすくなると考える次第です。