そろえたほうが効率的なのに?
同じ駅で電車を待っていると、さっき来た車両はピカピカの新型なのに、次に来たのはひと世代前の顔つき、ということがあります。
JR山手線のE235系電車と一世代前のE231系電車(画像:写真AC)
車種を統一すれば、整備の手順や交換部品をそろえられ、乗務員や検修担当者の教育もしやすくなります。しかし、多数の車両を短期間ですべて置き換えるのは容易ではありません。そのため、新型への更新が進む間は、同じ路線で新旧の形式が並んで使われます。
では、置き換えにはどれくらいの時間がかかるのでしょうか。そこには、鉄道ならではの事情が隠れています。
まず、新造車両の導入には多額の投資と長い準備期間が必要です。車両の製造だけでなく、搬入や試運転、乗務員・検修担当者の教育まで、やるべきことが続きます。必要な編成数が多い路線ほど、これらを一時期に集中させるのは難しくなります。
実例を見てみましょう。JR東日本は2018年、横須賀・総武快速線用として新型のE235系を11両編成51本、4両編成46本の計745両新造し、2020年度から順次落成させると発表しました。実際の投入は、初年度は8編成120両からのスタートでした。
このように、大量の車両を抱える路線では、置き換えに数年を要します。そのあいだ、旧型のE217系と新型が同じ線路を走る期間が生まれるわけです。
次に、車両は簡単には「寿命切れ」になりません。国税庁の通達では、運送事業用の電車の法定耐用年数は13年とされていますが、これは減価償却の計算に用いる年数で、物理的な寿命や廃車の時期を定めたものではありません。
実際の使用期間は、車体や機器の状態、修繕費、部品の確保、輸送需要、新型の導入計画などによって決まります。必要な検査や修繕を行い、安全な状態を保てるなら、法定耐用年数を超えて使われる車両もあります。
検査の存在も見逃せません。日本民営鉄道協会は、検査周期の一例として、重要部検査は4年または走行60万kmを超えない期間ごと、全般検査は8年ごとと紹介しています。ただし実際の周期や方法は、車両の構造や使用状況、事業者が定める実施基準によって異なります。
検査に入っている車両は営業運転に使えません。そのため各社は、運用と検査日程を調整しながら、必要な予備の車両を確保しています。段階的に導入した車両は製造時期や走行距離が異なるので、検査や機器更新の時期も自然とずれていきます。
世代交代は今も続いている
一方で、同じ形式が全国各地へ大量に投入された例もあります。国鉄の通勤形電車「103系」です。JR東日本によると、1963年に試作車、1964年に量産車が造られ、総数は3447両。国内の旅客車の単一形式としては最大で、関東はもちろん関西や九州にまで配属されました。
しかし、製造期間が長くなれば、その間に省エネ性能や安全設備、バリアフリー、車内サービスに求められる水準も変わります。旧来の形式を造り続けるより、新しい技術や基準を取り入れた形式へ切り替えるほうが合理的になる場合があるのです。
現に103系も新形式への置き換えが進み、JR東日本が2024年に更新した記事では、現役車両は50両を切ったと紹介されています。ある時点で形式がそろっても、次の世代への更新が始まれば、再び新旧が混ざる期間が生まれるわけです。
地方の鉄道では、他社で使われた車両を譲り受け、自社線向けに改造して走らせる例もあります。国土交通省の資料では、車両の購入費に加え、古くなった電機品の更新費や自社線を走るための改造費がかかるものの、新造より費用を抑えられる見込みだと説明されています。
ただし、異なる形式が増えれば、交換部品や整備手順、運転操作などが複雑になる面もあります。鉄道会社は導入費だけでなく、改造費や将来の保守のしやすさまで含めて車両を選んでいるのです。
同じ路線を走る電車の“顔”がそろっていない背景には、車両ごとの製造時期や状態、投資計画、新技術への対応など、複数の事情があります。駅で異なる“顔”がすれ違う光景は、鉄道車両が長い時間をかけて世代交代している、その途中の姿なのです。
