鉄道は雪に強いと言われますが、その運行を支えているのは、除雪車の存在があってのこと。過去には、トンデモない方法で雪を排するアイデアが考案され、実験されました。どのような方法だったのでしょうか。
140年前からあった!? 鉄道の「除雪車」
積雪量が多い日本。冬季になると列車の運行を阻む雪と鉄道の戦いが日夜繰り広げられており、線路上の雪を取り除くために「除雪車」も活躍しています。しかし過去には、トンデモない方法で雪を排するアイデアが考案されました。どのような方法だったのでしょうか。
現代の除雪車のイメージ(画像:PIXTA)
除雪車の歴史は古く、1881(明治14)年には、のちに幌内線(廃止)・函館本線となった幌内鉄道が日本で最初の除雪車とされる「雪払車」を製作。1911(明治44)年には、国鉄(鉄道院)がアメリカのラッセル・アンド・スノープラウ社から輸入した木製車両を「ユキ15形」(のちにユキ1形に改称)と名付けて使用を開始しています。
そして、1928年(昭和3)年には、国鉄初の単線用鋼製ラッセル除雪車「キ100 形」が登場。主力除雪車として全国に配備されました。これらの車両は、車両前部に装着した排雪板で前方の雪をかきわける「ラッセル車」です。
このほか、かきわけた雪の壁が高くなって除雪が困難になった際、雪壁を崩しながら中央に集める「マックレー車(かき寄せ雪かき車)」や、マックレー車がかき寄せた雪を前部に備えた巨大な回転翼で遠方に飛ばす「ロータリー車」、広く展開できる除雪板を持ち広範囲の除雪が行える「ジョルダン車(広幅雪かき車)」、かき込んだ雪をコンベアで運び、後部に連結した貨車に積む「スノーローダー車」などさまざまな種類が存在しました。
上記の除雪車は自身に動力を持たず、機関車などの動力車の推進が必要でした。これらは、鉄道車両においては貨車の一種である「雪かき車」に分類されます。
しかし、雪かき車除雪以外に用途がないことや、折り返し地点での除雪車と蒸気機関車の方向転換に手間がかかることから、1962(昭和37)年、国鉄は入換用ディーゼル機関車DD13形に除雪用ラッセルヘッドを装着したDD15形を開発。除雪装置の取り外しを容易な設計とすることで、冬季は除雪機関車に、それ以外は入換機として用いることができました。
進化しても基本は「かく」「飛ばす」
その後も、車軸にかかる重さ(軸重)が過大だったDD15形の欠点に対応した小型機DD21形、入換機DE10形の前後に、軸重を分散する台車付きラッセルヘッドを備えたDE15形、マックレー+ロータリー車の機能をひとまとめにした除雪用ロータリーヘッドを装着したDD14形などが誕生。さらに豪雪に対応できるよう、幹線用機関車DD51 に箱型車体を載せロータリーヘッドを装着したDD53形もわずかながら製造されています。
入換用ディーゼル機関車DD13形の前後にラッセルヘッドを装着したDD15形。17号機が三笠鉄道記念館に残されている。DD13形の改造ではなく、50両が新製された(遠藤イヅル撮影)
現在ではこのような除雪用機関車は、除雪用機械のENR-1000形(JR北海道・東日本。同型がえちごトキめき鉄道にも在籍)や、キヤ143形(JR西日本)、キヤ291形(JR北海道)などへの置き換えが進んでおり、次第に姿を減らしています。
2025年2月現在、JR では雪かき車は運用されていませんが、弘南鉄道や津軽鉄道では未だにキ100形が使用されます。このほか函館市電と札幌市電では「ササラ電車」も有名です。これは、車両の前後に「ササラ」と呼ぶ竹製のほうきを取り付け、それを回転させて雪を跳ね飛ばして除雪するもの。また福井鉄道では、車齢100年を超えたデキ11形電気機関車が、車体に排雪板を取り付けて元気に除雪で活躍しています。
「トンデモナイ風で吹き飛ばす」を考えた
このように、除雪車にはさまざまな形態がありますが、「かく」「飛ばす」以外に除雪する方法はないものでしょうか。そこで国鉄は、とあるトンデモなアイデアを考え出しました。
それは「大量の風で雪を吹き飛ばす」こと。現代では高性能なブロアーで風を送って雪を飛ばすのは、ひとつの方法ですので、どこがトンデモなの?と思ったかもしれません。
しかし、それが「貨車にジェット戦闘機用のジェットエンジンを搭載して爆風で雪を飛ばす」と聞いたら、「なんだそのロマンあふれる貨車は!」とツッコミを入れたくなるのではないでしょうか。
外見もスゲエ! ジェットエンジン貨車の正体
時は1961(昭和36)年。国鉄のボギー式無蓋車・トキ15000形(トキ17988)に、航空自衛隊の千歳基地から借りたジェットエンジンを載せた“トンデモ除雪車”が、国鉄大宮工場で製作されました。北海道に輸送したのち、札沼線浦臼駅付近などで実験が行われたそうです。
東海道新幹線の関ヶ原区間では融雪用スプリンクラーが導入されている(画像:写真AC)
外観もなかなかのキワモノ。トキ15000形に、ダクト込みで長さ3mほどのジェットエンジンを斜め下向きに搭載、反対側には作業員用の小屋も乗せられていたとのことです。貨車のため自力での走行はできず、機関車による推進は必須でした。
載せてあったジェットエンジンは600度の高温、秒速600mというとてつもない爆風を発生するため、その除雪効果は大いに期待されたのですが、実験の結果「まったく使い物にならない」ことがわかりました。
というのも、ジェットエンジンの風が強すぎて、雪だけではなく線路のバラスト(砕石)や、踏切で線路上に敷く板、周辺の設備などもすべて飛ばしてしまったというのですから驚きです。しかもジェットエンジンは囲いもなくむき出しで、騒音も凄まじく、燃料消費量も膨大。このアイデアが実用化されなかったのは、いうまでもありません。
ただ、この「ジェットで除雪」する話には、実は後日譚があります。
積雪量が多いことで知られる東海道新幹線 関ヶ原付近の積雪対策に、ジェットエンジンを搭載した自走可能なアメリカ製車両が用意されたことがあります。「ジェットスノーブロア」と名付けられ、実験が行われました。熱風の効果はそれなりにあったものの、やはり、あまりに大きな騒音が問題となり、こちらもお蔵入りに。その後、同区間には融雪用スプリンクラーが設置され、現在に至っています。
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風や熱による除雪を実用化した例は、海外では実在するようですが、航空機用のジェットエンジンを貨車へ無造作に積むなんて、ちょっと考えれば実験前、いや作る前にわかるだろうに(笑)……と思ってしまいます。しかし当時はこのような「トンデモ車両」が、日本のみならず海外でも、真剣に、しかも多く考察されていました。
試行錯誤の末、現在の一般的な手順に行き着いたことは、除雪に限らず身の回りにたくさんあります。先達の苦労あっての快適な生活があることを、私たちは忘れてはいけないと思います。