現在の空対空ミサイルの10倍近い射程
アメリカ空軍は2026年7月、将来の空対空ミサイル構想「空軍長射程兵器(AFLRW)」の検討を進めていることを明らかにしました。これは射程1000海里(約1850km)を目指す、途方もない計画です。
空対空ミサイルAIM-120を発射するF-16戦闘機。AFLRWは既存の空対空ミサイルをはるかに上回る超長射程を目指す(画像:アメリカ空軍)
現行の空対空ミサイルの射程距離は概ね50〜300km程度となっており、1850kmという数字は現実感を失わせるほど巨大です。例えば、大阪上空から発射すれば北京の近くを飛行する航空機を射程内に収める距離であり、もはや従来の空対空ミサイルという概念では説明できません。ちなみに、東京上空からだと上海近辺を飛ぶ航空機を狙うことが可能です。
アメリカ空軍は現時点でAFLRWの具体的な運用構想や設計思想を公表していません。以下は公開情報から導き出せる推測に過ぎませんが、アメリカがこの兵器で想定する相手は極めて明確です。それは中国人民解放軍です。
撃墜だけが目的ではない?
中国は世界最大級の空中情報収集能力を整備しています。およそ100機近い早期警戒機に加え、電子戦機や情報収集機を多数保有し、戦闘機部隊を数百km後方から支援できる体制を構築しています。これらの航空機は自ら戦うことはありませんが、戦場全体の「目」と「耳」として機能し、戦闘機部隊の戦力を何倍にも高める存在です。
中国の早期警戒管制機KJ-500。空軍や海軍航空兵に配備されている(画像:台湾国防部)
したがって敵戦闘機より先に、それら支援機を無力化できれば航空戦の優劣は一変します。しかし現代の早期警戒機は護衛戦闘機のさらに後方、安全圏で活動するため、従来の空対空ミサイルでは接近そのものが困難です。
ここで登場するのがAFLRWです。この兵器の真の目的は、必ずしも撃墜だけではありません。1850kmという圧倒的な射程を持つ兵器の存在そのものが、早期警戒機や電子戦機を大きく後退させ、レーダー監視範囲や電子戦支援能力を縮小させる抑止効果を持ちます。航空戦では「敵を撃墜する」こと以上に、「任務を不可能にする」ことが戦略的成果となる場合が少なくありません。
では、AFLRWはどのようなミサイルになるのでしょうか。通常の空対空ミサイルでは1850kmもの飛翔は物理的に不可能です。そのためAFLRWは、おそらく大型(場合によっては多段式)のロケットを備え、宇宙空間まで上昇し弾道飛行によって長距離を飛翔し、その先端部に空対空ミサイルあるいは誘導弾頭を搭載する構成になると考えられます。外観は空対空ミサイルというより、空中発射型弾道ミサイルに近いものとなるのではないでしょうか。
宇宙・航空・通信のネットワークが超長射程に不可欠
最大の技術的課題は、1850km先の航空機をどうやって「ロックオン」するのかという点です。現代のレーダーの索敵範囲はせいぜい数百kmであり、また「地球の丸み」によって長距離を捜索し誘導のための位置情報を得ることが困難です。
ASM-135対衛星ミサイルを発射するF-15「イーグル」。このミサイルは2段式ロケットとなっており、重量はおよそ1トンに達する。高度555kmの低軌道を飛翔する観測衛星の破壊に成功している(画像:アメリカ空軍)
そこで重要になるのが宇宙領域との連携です。近年アメリカ軍は多数の低軌道監視衛星によるリアルタイム追跡網の構築を計画しており、AFLRWもこうした衛星群からデータリンクを受け、飛翔中に目標情報を更新する仕組みを採用するかもしれません。つまり、この兵器は単独では成立せず、宇宙・航空・通信ネットワークが一体化して初めて能力を発揮する可能性があります。
現時点ではAFLRWの実用化どころか、いつ試作段階に進むのかさえ明らかではありません。しかし、その要求性能が示されたこと自体が重要です。アメリカ空軍は将来の航空優勢を維持するため、数千km離れた場所から敵航空戦力全体を機能不全に陥らせる戦い方を見据え始めているのです。
もしAFLRWが実現すれば、空中戦は「視界の彼方(BVR)」を超え、「地平線の彼方」を攻撃する時代へと踏み出すことになる可能性があります。
