3月3日から新東名高速道路における自動運転トラックの実証実験がスタートしました。運送業界では人手不足が騒がれていますが、高速道路での自動運転がそれを抑制する技術として期待されています。
今回実施された自動運転試験の目的とは?
3月3日から新東名高速道路における自動運転トラックの実証実験がスタートしました。運送業界では人手不足が騒がれていますが、今回の実証実験はそれを解決する策のひとつとされています。実証実験スタートに先立ち実施された現場公開では、実験内容と共に国土交通省が見据える将来のビジョンが見えてきました。
会場に並ぶ自動運転用のトラック(西川昇吾撮影)
この実証実験は新東名高速道路の駿河湾沼津SA~浜松SA間で行われました。同区間の第1通行帯を自動運転車優先レーンとして設定し、自動運転トラックが安全かつ円滑に走行可能かを実際に確認します。実証実験は平日の22時から翌朝5時までの時間帯で行われ、実施中は電光掲示板に「左車線自動運転実験中」と表示されます。
「実際に実証実験をしている時は左車線が走れなかったりするのでは」という疑問があるかもしれませんが、そのようなことはありません。実証実験車両の妨げにならないように協力をお願いするために優先レーンとして設定されるだけです。
実際に実験しているときでも、ドライバーは乗車していて、もしもの際の操作に対応できるようになっています。また、実証実験車両は「自動運転実証実験中」のステッカーが貼られているほか、車両によっては自動運転状態でターコイズ色の識別灯が点灯しています。
この実験は将来的に「トラックの高速道路移動は自動運転で完結させたい」というビジョンのもと実施されるもの。具体的な運用イメージとしては、一般道を含めた中継エリアまでは有人で走行し、高速道路のみの移動となる中継エリア間は自動運転で移動する形を目指しています。なお、中継エリアでの自動発着に関する技術も今回の実験検証内容に含まれています。
今回の実証実験では、協力者として「RoAD to the L4」と「T2」の2社が、それぞれ独自の自動運転トラックを走行させて実証実験によるデータ収集などを行います。試験の目的は、特定条件下においてシステムが全ての運転タスクを実施する「レベル4」の自動運転サービスを活用した、幹線輸送サービスの社会実装を目指すことです。
国土交通省や運輸業界がこのような高度な自動運転の実用化を目指す大きな背景は、人手不足にあります。
物流業界はドライバーの時間外労働上限の適用により生じる人手不足問題、いわゆる「2024年問題」が既に始まっており、実際に物流が滞り始めています。さらに、2030年頃には30万人程度ドライバーが不足するという試算もあります。特に長距離ドライバーの確保は年々困難になっているため、高速道路での自動運転化の実現は一刻も実現したい目標のひとつです。
長距離は自動運転が担当し、ドライバーにはそれぞれの地元に専念してもらう体制ができれば、「長距離は苦手なので地元で仕事したい」というドライバーなどを確保することもできます。
トラックが自動で動くのには路面情報の共有も重要
トラックでの自動運転を行うには、カメラやレーダー、レーザー光を使い対象物までの距離や形状を測定できる「LiDAR」など車両側の装備も当然必要ですが、道路側からの情報支援も重要となってきます。
自動運転用にトラックに付けられた装備(西川昇吾撮影)
今回実際の高速道路で実証実験が開始された大きな理由は、この道路側からの情報支援が重要だったためです。これは車両と道路、両方の情報を統合して利用することから「路車協調システム」とも言われます。
今回、実験で試される道路側からの情報は「先読み情報提供システム」と「合流支援情報提供システム」です。まず先読み情報提供システムですが、工事規制や落下物、停車車両などの情報を道路側で収集し、自動運転トラックに提供するというものです。
合流支援情報提供システムは、自動運転トラックが合流する時に本線側の情報を提供することで、スムーズに合流できるように支援するもの。また、自動運転トラックが本線を走行しているときに、合流車両の情報を受けて速度を調整して急減速を回避する狙いもあります。ちなみに実は、自動運転において合流はかなり難しい技術のひとつです。
トラックは乗用車と異なり素早い加減速や車線変更が難しいため、車両では検知しきれない範囲の情報がスムーズな運転には重要となってきます。安全かつ自動で走行する場合は、こうした路面側からの情報も欠かすことができません。
今回、新東名高速道路が実証実験の場として選ばれましたが、2025年度以降は東北道など他の高速道路での実証実験も計画しているとのこと。多くの高速道路で自動運転の実証実験が出来れば、高速道路での自動運転がより現実的な未来となることでしょう。