ミサイルの長射程化により前線近くでの行動が困難に
戦闘機が数時間にわたって制空任務や警戒飛行を続けられるのは、空中で燃料を補給してくれる大型空中給油機の存在があってこそです。アメリカ空軍が世界規模で航空優勢を維持できる理由も、KC-135やKC-46といった巨大な空中給油機群による空中補給網に支えられていると言っても過言ではないでしょう。
空中給油機や早期警戒管制機などの支援機は現代の航空戦に不可欠な存在。これまで敵ミサイルの射程圏外となる後方で運用されてきた(画像:アメリカ空軍)
ところが、この「空のガソリンスタンド」は航空戦力の中で最も脆弱な存在でもあります。空中給油機は大型で運動性能が低く、ステルス性能も持ちませんから、敵にとっては極めて狙いやすい標的となります。そのため、これまでは敵戦闘機や地対空ミサイルの射程外となる後方空域で滞空し、安全な場所で戦闘機に給油する運用が基本でした。
しかし航空兵器の射程は急速に延びています。中国のPL-17、ロシアのR-37Mのような超長距離空対空ミサイルは400km先の大型航空機を攻撃する能力を持ち、さらに地対空ミサイルも400km級の交戦距離を実現しつつあります。戦闘機が給油を受けるためには、より長い距離を後退しなければならず、その結果、実際の戦闘可能時間や作戦行動半径は縮小してしまうと考えられます。
この問題に対し、アメリカ空軍が近年進めているのが「大型航空機生存性システム(Large Aircraft Survivability System:LASS)」構想です。
LASSとは一つの装備品ではなく、空中給油機やAWACS、大型輸送機などの高価値航空機を敵ミサイルから守るための統合防御システムの総称です。その目的は安全のために後方へ退避していた大型航空機を、より前線に近い空域で運用可能にし、航空作戦全体の自由度を高めることにあります。いったい、どんな構想なのでしょうか?
敵ミサイルへの新たな対抗手段を開発する
最も理想的な防御方法が「撃たれないこと」であることは間違いありません。敵のレーダー探知範囲外で行動し、戦闘機による護衛を充実させることが依然として防御の基本となります。しかし将来の戦場では、前述の超長距離ミサイルの登場により、それだけでは十分ではないと考えられています。
赤外線レーザー妨害装置AN/AAQ-24を搭載したMC-130特殊作戦機。機体側面の小さな半球型の突起がAN/AAQ-24(画像:アメリカ空軍)
そこでLASSが目指すのは、「撃たれても生き残る」能力の獲得です。その中核技術として期待されているのがレーザー兵器です。ただし、多くの人が想像するようなSF映画さながらの高出力レーザー砲ではありません。現在、すでに「指向性赤外線妨害装置(DIRCM)」と呼ばれるレーザー妨害装置が実用化されています。
これは赤外線誘導ミサイルが目標を追尾するための赤外線シーカーへレーザーを照射し、追尾能力そのものを混乱させる装置ですが、LASSが目指すのはさらに野心的な能力です。飛来するミサイルそのものを高出力レーザーで加熱し、弾体やシーカーを破壊して迎撃する構想であり、これならばレーダー誘導型ミサイルに対しても有効です。
もっとも実現への道のりは容易ではありません。対空ミサイルは秒速1000mを超える速度で接近し、レーザー照射できる時間は限られています。しかも数km離れた極めて小さな目標へ十分なエネルギーを集中させ続ける必要があるため、高出力レーザーの小型化、電源供給、冷却能力、照準精度など、克服すべき技術課題は数多いと言えるでしょう。
もう一つ有望視される手段が迎撃ミサイルです。これは大型航空機自身が小型迎撃弾を発射し、接近する空対空ミサイルを空中で撃ち落とすという発想です。イージス艦が対空ミサイルで迎撃するように、航空機にも多層防御能力を持たせようという考え方です。しかしこちらも、高速で飛来する小型目標を短時間で探知・追尾し、自機から発射した迎撃弾で命中させる必要があり、実用化までにはなお相当の研究開発が必要とみられます。
それでもLASSが追求される背景には、高価値航空機は一機の喪失が非常に大きいという現実があるためです。アメリカ空軍はLASSの研究について2031年までに5億ドル以上を費やすことを計画しています。
