ご長寿兵器が話題になる一方で、制式採用されながら短命に終わるものもあります。そのひとつが、アメリカ海軍の小型水上戦闘艦、フリーダム級とインディペンデンス級です。就役からわずかな期間で退役開始する理由に迫ります。
もう退役? アメリカ海軍艦艇「LCS」とは
2020年6月20日(土)、アメリカ海軍は水上戦闘艦「LCS」(Littoral Combat Ships、沿海域戦闘艦)の1番艦「フリーダム」、2番艦「インディペンデンス」、3番艦「フォートワース」、4番艦「コロナド」の4隻を、2021年3月31日をもって実任務から外して、予備保管状態に置く方針を発表しました。
アメリカ海軍 フリーダム級LCS「フリーダム」(画像:アメリカ海軍)。
現代の軍艦は運用期間が長くなる傾向にあり、通常は30年以上運用されますが、「フリーダム」は2008(平成20)年の就役からわずか13年、「コロナド」に至っては2014(平成26)年の就役からわずか7年で、第一線を退くことになります。
20世紀末、アメリカ海軍は対テロ戦などの「非正規戦」や麻薬の密輸阻止といった、戦争以外の軍事作戦に奔走していました。アメリカ海軍は当時、これらの任務にイージス・システムを搭載するタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦とアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦、スプルーアンス級駆逐艦、オリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲートをあてていましたが、冷戦時代にソ連などとの正規戦を想定して開発されたこれらの水上戦闘艦は大きすぎて、迅速な展開が必要な非正規戦や戦争以外の軍事作戦には使いにくいと、同海軍は考えていました。
当時スプルーアンス級は2000(平成12)年ごろ、オリバー・ハザード・ペリー級も2010(平成22)年ごろには完全退役が見込まれていたことから、アメリカ海軍は両級を後継する、まったく新しいコンセプトの水上戦闘艦の建造を決定しました。その水上戦闘艦がLCSということになります。
アメリカ海軍は当初、ロッキード・マーチンの提案した半滑走船型案と、ジェネラル・ダイナミクスが提案した三胴船型の両案で2隻ずつを建造し、比較審査でどちらかひとつの設計案を選ぶ方針でしたが、2010年10月に方針を変更して、ふたつのタイプを並行して建造することとし、ロッキード・マーチン案の艦をフリーダム級、ジェネラル・ダイナミクス案の艦をインディペンデンス級と命名しました。
志は高かったLCSのコンセプトとそれが求められなくなった理由
LCSは、従来型の水上戦闘艦には標準装備されている対艦ミサイルや魚雷発射管などの兵装を持たない代わりに、高い指揮通信能力と情報共有能力を持ち、小型の艦艇で様々な任務に対応するため、必要に応じてヘリコプターと機雷捜索用のUUV(無人潜水艇)などを組み合わせた「対機雷戦モジュール」、ヘリコプター、30mm機関砲、対艦ミサイルを組み合わせた「対水上戦モジュール」、ヘリコプターと曳航ソナーを組み合わせた「対潜水艦戦モジュール」を、任務に合わせ載せ替えられるという野心的なコンセプトの水上戦闘艦として開発されました。
特徴的な三胴船(トリマラン)タイプのインディペンデンス級LCS「インディペンデンス」(手前)。奥は「フリーダム」(画像:アメリカ海軍)。
しかし2010年代に入ると、アメリカ海軍は固定兵装の貧弱なLCSでは、海軍力の急速な強化を進める中国には対抗が困難であるとの見方を強めます。また対潜水艦戦以外のモジュールの開発が難航したことや、小型で軽武装の艦艇であるにもかかわらず、調達価格が高くなってしまったこともあって、2014(平成26)年2月にチャック・ヘーゲル国防長官(当時)はLCSの建造を32隻で打ち切る決断を下し、その後LCSはミサイルフリゲート「FFG(X)」の建造に切り替えられることが決定しました。
就役済みと、すでに建造途上にあるLCSには、ノルウェーのコングスベルクが開発した長射程巡航ミサイル「NSM」(Naval Strike Missile)の搭載などによる戦闘力の強化が計画されていますが、今回、任務を外れて予備保管状態となる4隻は、LCSの大量建造にあたって必要なデータを収集するための試験艦という色彩が強く、5番艦以降に比べて改修経費が高くつくことから、アメリカ海軍は4隻を予備役として、浮いた運用経費をほかの艦艇や装備品などの調達などにあてる方針を示しています。
LCSをやめてどうするの? 日本の新造艦も実は…
LCSに代わって建造されるFFG(X)は、フランスとイタリアが共同開発し、フランス海軍でアキテーヌ級駆逐艦、イタリア海軍でカルロ・ベルガミーニ級フリゲートとしてそれぞれ採用された汎用水上戦闘艦「FREMM」をベースとしています。
FFG(X)は空母打撃群と行動を共にして、対空、対艦、対潜の各任務に高いレベルで対応することが求められており、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の最新仕様「フライトIII」に搭載されるSPY-6(V)1の派生型であるSPY-6(V)3レーダーを搭載し、アーレイ・バーク級などと同じミサイルの垂直発射装置(VLS)も搭載されることが決定しています。
海上自衛隊が建造を進める30FFMこと3900トン型護衛艦のイメージ(画像:三菱重工)。
海上自衛隊が建造を進めている「30FFM」(3900トン護衛艦)も、構想時にはLCSに近いコンセプトを打ち出していましたが、その後、建造当初は最低限度の装備のみを搭載し、後続の艦で順次ユニット化された装備を拡充し、その装備を既存の艦にも搭載していく「ベースライン」方式で建造される方向となっています。
30FFMは22隻の建造が計画されていますが、後期建造される艦は2020年11月に進水を予定している1番艦、2番艦とは、かなり様相の異なる艦になるのではないかと筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は思います。