バスを降りて絶句「あれ、上るのか…?」
高速道路の本線上にある停留所から高速バスに乗る場合、おっくうなのが地上から続く長い階段です。四国の景勝地に近い高速道路脇の停留所から乗車した際、まさかの“助っ人”が現れました。それは東京で見かけたことのある乗りものでもありました。
高速鳴門に到着する徳島バスの高速バス(大塚圭一郎撮影)
猛暑だった2026年7月下旬に徳島県を訪れた筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)は、高速鳴門バスストップ(徳島県鳴門市)から淡路島を通過して本州へ向かう高速バスに乗りました。JR四国鳴門線を終点の鳴門で下車した筆者は、徳島バスの18番系統観光港・鳴門公園行きに乗り、2つ目の「高速鳴門バス停前」で降りました。
バスの停留所名に「バス停前」と付いているのはユニークで、京成電鉄千葉線の京成千葉駅(千葉市)がかつて名乗っていた「国鉄千葉駅前」をほうふつとさせます。そんなことにほくそ笑んだのもつかの間、前方の景色に絶句しました。
頭上の高い位置に、高速バスが通る神戸淡路鳴門自動車道の高架が延びているのです。「あそこまで階段を上ったら何段あるのだろうか」と気が重くなりながら高速鳴門バス停前から歩くと、「高速バスのりば」の看板を掲げた鳴門市観光コンベンションの建物を見つけました。
まるでケーブルカーのようなイラスト、その正体は…
建物内にはいすが並んでおり、筆者と同じように本州への高速バスの到着を待つ人がいました。高速バスの利用者への案内では、「乗車予定時間の10分前にはご移動ください」と促しています。
停留所の方向には坂道が延びており、炎天下で上がっていく決意を固めた次の瞬間、「すろっぴーのりば」という見慣れない名前の看板が目に飛び込んできました。ケーブルカーのようなイラストが描かれており、「スロープカー無料」との記載も。高速バス利用者が無料で乗れる移動手段なのが分かりました。
思いがけない“助っ人”の登場に足取りも軽くなり、乗り場へ向かうとホームドアが付いたプラットホームが設置されています。ホームドアの脇には「ボタンを押すとスロープカーが降りてきます」と書いた看板とボタンがあります。
迷わずにボタンを押すと、1本のレールにまたがった自走式モノレール車両がゆっくりと下ってきました。
発車させるのは利用者!
やってきたスカイブルー色の車両は四方に大きな窓を備え、先頭には名称の「すろっぴー」の文字が躍り、側面には世界三大潮流に数えられる鳴門海峡の渦潮の絵と、鳴門市マスコットキャラクターの「うずしおくん」が描かれています。電気を動力源とし、屋根には太陽光発電のための太陽電池パネルを備えています。
運行中の「すろっぴー」(大塚圭一郎撮影)
停止後にホームドアおよび「すろっぴー」の扉が開き、車内に乗り込むと冷房が良く効いています。定員は20人で、両端に7つの座席があり、天井には通勤電車のようなつり革も6つあります。
筆者を含めて8人が乗車し、利用者が扉の脇にある操作盤の「上り」「下り」のボタンを押すと始動する仕組みです。高架上の本線の停留所へ向かうため、「上り」のボタンを押して出発です。
「すろっぴー」を設置したのは鳴門市で、地元の宣伝活動にも余念がありません。電気を動力としてゆっくりと上がっていくのと同時に、このように録音された音声が車内に響きました。
「本日は鳴門市にお越しいただき、ありがとうございました。渦潮の街・鳴門市はいかがでしたでしょうか。ここ鳴門市には、わかめ、ナシ、レンコン、鳴門金時など四季折々の新鮮な食材だけでなく、鳴門海峡の渦潮や大塚国際美術館、四国八十八ケ所霊場の1番、2番札所、サッカーJリーグ『徳島ヴォルティス』のホームスタジアムなどがございます。この魅力あふれる鳴門で、皆様のまたのお越しをお待ちしています」
音声が終わる頃に減速し、全長161m、高低差約20mを約1分半で結ぶ小旅行が幕を閉じました。大塚製薬の主力工場がある企業城下町だけに、途中では清涼飲料水「ポカリスエット」のロゴが描かれた大塚倉庫の建物が視界に入りました。水辺には造船所があり、船舶を建造中でした。
到着後は「高速バスのりば 東京・神戸・大阪・関空・京都行き」の看板に従って通路を歩き、神戸淡路鳴門自動車道の下を通って反対側に出ると高速バスの乗り場が待ち受けていました。
反対に、本州からの高速バスで高速鳴門に着いた場合には「すろっぴー」で下り、車内では乗客が鳴門市を訪問してくれたことを歓迎する音声が流れます。
似ているのは当然な「東京の兄弟」
速度は控えめだったものの、走りは威風堂々としています。運行時間は5時~翌日1時という20時間勤務の“働き者”で、高速バス利用者の補助役として坂を日々昇り降りします。
「すろっぴー」(左)の車窓からは大塚倉庫の建物や、造船所が見える(大塚圭一郎撮影)
スロープカーと呼ばれる「すろっぴー」ですが、法律上はエレベーターに分類されます。確かに乗り場のボタンを押して呼び、乗った後は車内の操作盤にある行き先ボタンを押すのはエレベーターと同じ。車内に扉の開閉ボタンが付いていたのも、エレベーターのかごと同じです。
この「すろっぴー」を一目見て、筆者が思い起こしたのはJR京浜東北線王子駅(東京都北区)の駅前にある桜の名所、飛鳥山公園の斜面に北区が約2億6000万円を投じて設けたスロープカー「あすかパークレール『アスカルゴ』」です。アスカルゴは王子駅前と飛鳥山公園の間を昇降することで、お年寄りや体が不自由な人、ベビーカー利用者でも気軽に訪問できるようにしています。
似ているのは当然で、製造したのは同じ福岡県飯塚市のスロープカーメーカー、嘉穂製作所でした。飛鳥山公園モノレールの運行開始が2009年7月なのに対し、「すろっぴー」の現車両は導入されたのは2012年11月のため3歳下の弟分になります。
ただ、「すろっぴー」の現車両は2代目で、初代車両が運転を開始したのは2002年4月。よって、スロープカーとしての歴史では「すろっぴー」が勝ります。四半世紀近い歳月にわたり、「荷物を持ったお客様にも停留所をもっと便利に楽しく利用していただくために、すろっぴーは毎日お客様の足となって活躍」(鳴門市)してきた貢献度は絶大です。
「すろっぴー」はきょうもスローながら着実にスロープを昇り降りし、高速バス利用者の縁の下の力持ちとして存在感を発揮し続けています。
