「もし夫が1回でも浮気したら、すぐ離婚する」「浮気されたら、夫を一生許せる気がしないから別れると思う」……こう考えている妻たちは決して少なくないと思います。そんな妻たちから見れば「信じられない」「あり得ない」と思うかもしれませんが、「何度も」「複数人と」浮気を繰り返す夫を、その都度許し続けている妻たちも存在します。彼女たちはなぜ、夫の度重なる浮気を許せるのか。「恋人・夫婦仲相談所」所長である三松真由美さんが知る実例から、その理由や背景を探ります。
結婚後すぐに訪れた不幸
友人の旦那さんや男性芸能人が浮気をしたと聞いて、「ひどい!」「最低、離婚よね」と思った後、「もし、私が浮気をされたら許すのか、離婚するのか」という2択を考えた経験はありませんか。「(浮気)サレ妻」に自分がなるなんて、考えただけでもむしずが走るもの。とはいえ、世の中には夫の浮気を許せる妻ももちろんいます。
タレントの川崎希さんは、あるインタビューで「アレク」こと夫のアレクサンダーさんの度重なる浮気に対して、「(夫は)30回以上浮気しているけれど、一緒にいる方が断然楽しい」と話しています。なぜ、川崎さんはそう言い切れるのか。「浮気を許せるか否か」は、本当に女性の性格によるものなのでしょうか。
みどりさん(55歳、仮名)と夫(57歳)はバブル世代の夫婦です。彼女がディスコ通いに明け暮れていたとき、夫に声をかけられました。チークタイムになった瞬間、「一緒に踊っていいですか」と誘う、当時の“あるある”なナンパです。
みどりさんは彼を「軽そうな男」と思い、タクシー代わりに使う男性、いわゆる「アッシーくん」や、ご飯をごちそうしてもらうだけの「メッシーくん」として付き合えばいいやと考えて交際をスタートしました。
みどりさんには当時、結婚を意識している「3高」(高身長・高学歴・高収入)の彼氏がいました。彼は商社勤務で、結婚すれば安定した暮らしを確保できます。しかし、その彼はなかなか結婚に踏み切りません。
当時は、女性に対して「25歳を過ぎたら“クリスマスケーキ”」(12月25日を過ぎて売れ残ってしまったクリスマスケーキの意)とやゆされる時代。それを恐れたみどりさんは、小まめに連絡をしてくれて、呼び出したらいつでも相手をしてくれる今の夫に乗り換えたのです。3高ではなく一般的なサラリーマンで、少々頼りないけれど、結婚はすぐにしてくれる、と。
みどりさんの不幸は、結婚後すぐに訪れます。
よきパパ、よき夫だけど「浮気男」
夫が結婚前から3股をかけていて、結婚後も関係を続けていたことが発覚したのです。驚いたみどりさんは「裏切り者」と泣き叫んで罵倒します。しかし、夫は彼女の姿を見て、逆に泣き始めました。
「僕は付き合っているとき、みどりの一番になりたかったのに、みどりが商社マンに夢中だったから寂しかったんだ。僕がみどりを世界一愛しているのに。だから(他の)2人と付き合っていた」と。
その言葉を聞いた途端、みどりさんは申し訳ない気持ちでいっぱいになったそうです。「そうだ、彼を振り回していたのは自分だった。結婚を決めるときも商社マンとてんびんにかけた。悪かったのは私だ」と。彼女は「私も打算的な女だったよね」と反省し、「浮気相手2人とは別れる」と宣言してもらって、夫を許すことにしたのです。
事件の半年後、妊娠。夫は大喜びし、つわりで苦しむみどりさんを支え、家事を一手に引き受けます。当時はまだまだ、亭主関白な夫が多い時代です。浮気を許してよかったと思った直後、再び彼の浮気が発覚します。
「妊娠中の私がいるのに、他の女とエッチなことをしているなんて許せない」と責めると、夫は「つわりに苦しんでいるみどりを見ているのがつらくて、つい魔が差した。妊娠が分かってから、ずっとできなかったし。彼女のことなんて何とも思ってない。愛しているのはみどりだけ」。
そして、みどりさんは考えます。「確かに妊娠してから、夜の営みどころか、キスもしていなかった。若い彼がずっとしないなんてつらいよな。大目に見るか」。結果、また夫を許しました。
みどりさんは出産後、子どもを保育園に預けて職場復帰します。女性の活躍がまだまだ難しい時代の最中、彼女は優秀な社員として昇進していきました。そんなみどりさんを支え、育児や家事を全面的にバックアップしてくれたのが夫でした。
家ではよきパパであり、よき夫。しかし、相変わらずの浮気男であることには変わりありませんでした。女性の影が見えるたびに「いくつになってもモテるんだ…」ともはや、畏敬の念すら覚えるといいます。そして、「こんなに自分を好きでいてくれて、よいパパでいてくれる人は他にいない」と浮気を許し続けました。浮気のたびに夫はひざまずき、「世界一愛しているのはみどりだけだから」と愛の言葉を繰り返すそうです。
「今日は排卵日だから」と言うと帰りが遅くなる夫
先日、由岐さん(39歳、仮名)から、「離婚を決めた」と報告がありました。私のところに相談に来てから約2年です。
由岐さんと夫(40歳)は6年の交際期間を経て結婚。交際中も、彼に対して「浮気か?」と思ったことは何度かありました。サバサバしている由岐さんは、際立った行動をしないのであれば別にいいやと目をつぶっていましたが、不妊治療をスタートしてから、夫の態度が変わり始めます。
「今日は排卵日だから」と言うと必ず帰りが遅くなり、帰ってこない日もありました。こうした状況が毎月続くので「本当は子どもが欲しくないの?」と尋ねると、夫は「いや、欲しいよ」と答えます。しかし、排卵日に彼はやはり家にいない。由岐さんが「欲しくないなら、欲しくないって言えばいいじゃん」と怒ると、「排卵日の由岐は般若みたいで怖くて、したいと思えない。だから無理」。
「自分の態度が悪かったんだ」と由岐さんは反省し、それからは排卵日を告げず、自然に夜の営みができるように気を使いました。しかし、それでも、夫は排卵日あたりにしようとはしません。
そんなある日、夫の浮気が発覚。問い詰めると「子どものことを言い出してから、由岐が切羽詰まっていて、リラックスできなくて。それで他に女を求めた」。
由岐さんが思い悩みながらも夫婦仲回復への努力をする一方、夫は開き直ったかのように浮気を継続。「もう無理なんだ」と由岐さんは離婚を決意しました。夫はあっさり離婚届に判を押したそうです。
パートナーの浮気発覚時に見極めなければならないこと
みどりさんと由岐さん、2人の夫たちはあまりにも違います。決定的な差は何でしょうか。
みどりさんの夫は妻を尊重し、幸せな家庭を築きたいと努力しています。その姿を彼女も認め、幸せを感じています。みどりさんの仕事を応援し、かわいい子どもと自分を愛していると言ってくれる夫に満足しているのです。
対して、由岐さんの夫は浮気が見つかっても怒らない妻を見て、自分勝手な行動を繰り返し、妻と分かり合おうとする態度がありませんでした。私は由岐さんからしか話を聞いていないので夫側の真意は分かりませんが、離婚した妻の口から出るのは罵詈(ばり)雑言ばかり。由岐さんが結婚生活に幸せを見いだせず、満足していなかった証拠です。
パートナーの浮気発覚時に見極めなければならないのは、「自分自身が幸せと思える日々を過ごせているかどうか」です。「第三者から見てどうか」なんて全く関係ありません。夫婦の常識は夫婦で決めることだから。
先述の川崎希さんは夫について、「浮気をしても自分の容姿は褒めてくれるし、レディーファーストだし、理不尽なことを言っても許してくれる」と、よい点を言葉にしています。浮気への怒りを封じ込める威力を持つ「“理想の夫”要因」がいくつもあるということです。
そして、「ホテルに行く前にデートされるのは嫌だ」という浮気の線引きが明確にできています。恋愛モードにならず、ホテルで過ごすだけならOKという川崎さんならではの線引きがあり、アレクさんはそれを理解している。バレたときには「やっぱり君が一番」と妻をたたえる。そして、妻は「数多くの女と比較されても私が頂点にいる」という優越感を味わう――。お二人にとって浮気はもはや、夫婦仲を新鮮にキープするためのイベント的な役割なのかもしれません。
以前、“性愛の巨匠陣”である山本晋也監督、溜池ゴロー監督とそれぞれ対談したとき、お二人とも「嫉妬は最高のセックスレス防止」ということを話されていました。川崎さん夫妻の関係性は、ルールのある浮気で嫉妬心を引き出し、愛を活性化していると受け取ることができます。浮気相手の女性には失礼極まりないことですが…。
夫の浮気で「サレ妻になるのは絶対許せない!」と憤慨せず、「いや、待て。これをきっかけに私たち、一皮むけるかも」と考えてみる方法です。ただし、夫がアレクさんのように日頃から、妻を心地よくさせておかないと意味はありません。浮気夫を許すか、制裁するか。今回のお話が、いざというときの参考になればと思います。
「恋人・夫婦仲相談所」所長 三松真由美