スウェーデン空軍を支える日本の翼
戦後の日本が製造した航空機のなかで、最も成功した機種ともいわれる三菱MU-2。1963(昭和38)年の初飛行から1986(昭和61)年の製造終了まで、762機が生産されました。驚くべきことに、その90%以上が世界26か国へ輸出されています。すでに日本で使われている機体はありませんが、製造終了から40年が経過した今も、海外では一部の機体が現役で飛び続けています。
サーブ社のMU-2B(細谷泰正撮影)
なぜこの古い機体が、今なお必要とされ続けているのでしょうか。
欧州で最大のMU-2ユーザーは、独創的な戦闘機を輩出してきたことで知られるスウェーデンのサーブ社です。同社はMU-2Bを5機保有し、そのうち4機が現在も飛行しています。その任務は、スウェーデン空軍のレーダー訓練を支援するという特殊なものです。運用されるMU-2は、右翼に電子戦ポッド、左翼にチャフ散布ポッドを懸架して飛行します。
サーブ社が50年超という機齢のMU-2を選び、使い続ける理由は、その機体の丈夫さにあります。翼下のパイロンに重いポッドを装着して飛行する任務に適しており、なかなか代替となる機体が見つからないため、当分の間はMU-2を使い続ける予定だといいます。
MU-2が成功した要因のひとつに、競合機種を上回る巡航速度と、短い滑走路でも離着陸できる優れた性能が挙げられます。この性能を実現したのが、特徴的な機体制御方式でした。
通常の飛行機は、機体の傾き(ロール)を制御するために主翼後縁にある「補助翼」を使いますが、MU-2は補助翼の代わりに「スポイラー」を使用します。この方式を採用したことで、主翼後縁のほぼ全幅にわたって強力なフラップ(高揚力装置)を装備することが可能となり、卓越した離着陸性能を実現できたのです。
しかし、このスポイラーを用いる方法は、通常の補助翼方式に比べて厳格な速度制御が求められます。これに不慣れなパイロットによる事故が多発した時期もありました。ただ、後にMU-2の飛行特性と、それに対応したパイロットの訓練方法が確立されるにつれて事故は減少し、MU-2の持つ高い性能が再認識されることとなりました。
現代に蘇る? MU-2「改」のポテンシャル
そして筆者はサーブ社での実績と評価を見るに、MU-2は生産再開を検討する価値があるのではないかと考えています。
例えば、エンジンを現在のTPE331シリーズから、より経済的で汎用性の高いPT6シリーズに換装。プロペラも複合材料を使った新型に取り替え、計器類を最新のグラスコックピットに近代化すれば、同クラスの競合機に対して有利な機体となることは間違いないでしょう。
また、MU-2はこの規模の機体としては珍しい高翼配置のため、胴体が地面から低い位置にあります。これは乗客の乗り降りを容易にするだけでなく、ストレッチャーの搬入もしやすいため、救急搬送といった用途にも最適です。
もちろんMU-2が現実的に再生産されるという情報や公式発表はまったくありませんが、全世界で注目されるだけでなく、日本の航空機産業が復活する足掛かりにもなり得るポテンシャルを持った機体であることは間違いないでしょう。
