国鉄型205系はデビューから約40年が経過し、運行しているのはJR東日本の仙石線と南武支線の一部、富士急行線のみです。しかし赤道を越えた先のインドネシア・ジャカルタでは、最大勢力として活躍中です。
そもそも205系とは
205系電車は1985(昭和60)年に誕生した、国鉄初の軽量ステンレスボディの通勤形車両です。201系電車のデザインを踏襲しつつも、制御装置はコストを抑え、台車は構造を簡素化したことで、乗り心地の改良と軽量化、機器の低価格化と省エネ化を実現しました。
JR埼京線を走っていたクハ204-143を先頭とした編成。8両へと組み替えている。前面窓の「08」表示は8両編成を表わす。マンガライ駅(2025年2月3日、吉永陽一撮影)
205系は国鉄の分割民営化後、JR東日本とJR西日本へ集中的に継承されています。JR東日本では代表格の山手線をはじめ、埼京線、横浜線、南武線、京葉線、武蔵野線、相模線など。ラッシュ時対応の6ドア車も誕生しました。JR西日本では京阪神を結ぶ緩行線などに使用されました。
また103系電車などの置き換えのため、中間車を先頭車化改造した車両が八高線や鶴見線、南武支線、仙石線に投入。一新されたフロントマスクが特徴です。
205系は国鉄末期からJR化後にかけて約1460両が製造され、首都圏と京阪神地区の顔となるほどの一大勢力を誇りましたが、後継となる新型車両の登場によって置き換えられ、2025年2月現在ではJR東日本の仙石線と南武支線、JR西日本の奈良線、中小私鉄への譲渡車両として富士急行線に残るのみです。
国内ではもはや“風前の灯”の存在ですが、一方の国外では大活躍しています。その場所は日本を南下して赤道を越えた、インドネシア・ジャカルタです。
首都ジャカルタには、都市間を結ぶ約477kmの「KCIコミューターライン」電鉄路線網があります。日本の円借款による援助と技術協力は1970年代から続けられ、2000(平成12)年以降は日本の中古電車が譲渡され、KCIコミューターラインで活躍してきました。
なぜ、これほど多くの車両が譲渡されたのか
先陣を切った都営交通6000形電車は、東京都とジャカルタが姉妹都市の関係であることから、メンテナンス不足と車両数確保に悩むインドネシア側の緊急的な要望と、耐用年数の残る6000形の譲渡話がまとまって“渡航”。中古車両のサポートとして、交通局から数名の技術者が派遣され技術指導を行いました。その結果、車両のメンテナンスと運用は安定していき、さらなる中古電車の譲渡が進んだのです。
マンガライ駅で並ぶ205系と6000系。双方ともコミューターラインの顔である(2025年2月3日、吉永陽一撮影)
ジャカルタで活躍する日本の中古電車は、東急電鉄が8000系と8500系。東京メトロが5000系(東葉高速鉄道1000系を含む)、6000系、7000系、05系。JR東日本が103系、203系、205系と多岐に渡ります。2025年現在は、203系、205系、05系、6000系(東京メトロ)、7000系、8500系が活躍しています。このなかで最大両数を誇るのが205系です。
205系は製造総数の約半数にのぼる合計約800両が譲渡されました。2013(平成25)年11月に最初の180両が新潟港より輸送され、これには6ドア車も含まれていました。日本では6ドア車が消滅しましたが、ジャカルタではラッシュ時に大活躍しています。
譲渡車両は製造時期によって差異があり、埼京線用車両のなかにも、元・山手線で使用された客用ドア窓が小型タイプの初期車も含まれます。武蔵野線用車両は通称「メルヘン顔」と呼ばれる、フロントマスクが一新された先頭車両もありました。
KCIコミューターラインはラッシュ時、100%を超える乗車率が慢性化しており、ラッシュ緩和を目論んで、205系を12両編成化して対応しています。12両貫通、6両+6両、8両+4両とバリエーションは豊富で、中間となった先頭車の一部車両は、部品を温存するためか前照灯などが撤去されており、6ドア車を組成した編成と、4ドア車で統一された編成が混在しています。
なお続く部品供給と技術支援
ただし全205系が12両編成ではなく、8両編成、10両編成も存在し、例えば大動脈路線のボゴール線では、ボゴール~マンガライ間の区間運用に8両編成が投入されています。筆者(吉永陽一:写真作家)がマンガライ駅で見かけた光景では、夕方のラッシュ時に混雑する12両編成のボゴール行きを下車し、折り返し運用で空いている8両編成へと、駆け足で乗り換える乗客達の姿がありました。
元・JR武蔵野線用の通称「メルヘン顔」。独特なブラックフェイスと丸目前照灯が目を引く。205系の中でも少数派だが、待っていれば出会える存在だ。ボゴール駅にて(2025年2月3日、吉永陽一撮影)
KCIコミューターラインは、205系より先に譲渡されたチョッパ制御車が次々と運用を離脱しており、車両不足に陥っています。本数確保のために短編成化して対応していますが、大混雑するラッシュ時の短編成列車では焼け石に水です。
インドネシア政府は日本の中古車両輸入を取りやめ、今後は新車の輸入と国産化へシフトしました。中国CRRCの新車が3編成、国産INKA製の新車が12編成導入される予定で、新車導入によって混雑が緩和するか、これからの焦点となっていきそうです。
ところで、205系は車両譲渡と技術支援がセットで実施され、JR東日本の関係者が技術支援のバックアップを行っています。2014(平成26)年、JR東日本とインドネシア鉄道(PT.KAI)ならびにKCIコミューターラインは協力覚書を締結し、2023年には3回目の協力覚書を再締結しました。
内容は、JR東日本社員による車両メンテナンス、点検整備の技術支援、検修、部品調達などで、205系の初譲渡から12年経過した2025年でも、継続的な部品供給と技術支援が行われています。205系はKCIコミューターラインのフラッグシップとなり、継続的な支援によってメンテナンス不足を抑制し、安定的な運行と利用者の信頼向上に貢献しています。
実際に現地を訪れると、どの路線にも205系が発着し、その多さに改めて驚かされます。編成に組み込まれた車両の差異は、趣味的視点で眺めても飽きることはありません。車体はコーポレートカラーである赤帯をまとい、その姿が京葉線を連想させます。
これから新車が続々と登場してきますが、205系はジャカルタ首都圏の主役としてまだまだ大活躍していくことでしょう。
※一部修正しました(3月9日、17時05分)