冬の低温や雪は、パイロットが操縦するにあたり、どういった違いがあるのでしょうか。冬ならではの離陸や巡航、着陸の際のポイントや違いを聞いたところ、その差は、飛び立つ前の段階から始まっていました。
四季がある日本ゆえに気象の変化も大きく…
冬の低温や雪は、飛行機の運航にとっても大きな影響を及ぼします。場合によっては、雪による視界不良などの理由で欠航となることも。
では、パイロットにとって、冬場の運航はほかの3シーズンと比べてどういった違いがあるのでしょうか。ANA(全日空)の現役機長に聞きました。
ANAのボーイング747-400型機(画像:ANA)。
パイロットによると、操縦自体は夏と冬に大きな差はないとしつつも、冬場は特に上空のジェット気流(偏西風)が強まることから、十分な注意が必要とも。日本はとくに、四季の変化が大きいぶん、上空のジェット気流は強い傾向で、年間を通じて気象の変化も大きいそうで、「日本を飛ぶパイロットは海外のパイロットよりも多くの気象知識・経験を有しているのでは」と話します。
また、冬の運航の際、航空業界では「コールド ウェザー オペレーション(Cold Weather Operation)」というポイントがあるといいます。
「降雪・積雪時の出発は、今後の天候の予測をはじめ、機体除雪の実施、離陸性能の確認、追加手順の確認などコックピットでの作業量が非常に多くなります。冬季期間しか経験しない状況なので、毎年秋には必ず『コールド ウェザー オペレーション』の手順について教材ならびに自学自習で確認し、実際のフライトでも通常以上にふたりのパイロットでしっかり確認をしながら進めていきます」とのこと。
では具体的に、飛行機を操縦する際には、どのようなポイントが違うのでしょうか。
違いはたくさん! 冬特有のフライトの工夫とは
ANAのパイロットによると、冬季運航の際には、たとえば出発時、到着時のフラップ(主翼についた高揚力装置。低速の際に展開することで、翼の面積を増やし揚力を得るために用いる)を出し入れするタイミングに違いがあるといいます。
「出発時は通常、自走を始めるときにフラップを降ろしますが、降雪、積雪時の離陸では滑走路の手前まで行ってから出すことが多いです。これはフラップを降ろしたまま誘導路を走行すると、雪氷が付着してフラップ周辺が固着し、離陸後の飛行に影響が出ることを防ぐためです」
では、着陸の際はどうなのでしょうか。
「着陸後は通常、滑走路を離脱した際にフラップをしまいますが、雪が降っている滑走路に着陸した際などは、フラップを降ろしたまま駐機場まで進むことが一般的です。これは、フラップ付近に雪氷が付着していると、フラップ収納の際に翼やフラップを破損してしまう可能性があるためです。この場合、駐機場に到着したのち整備士が目視点検をして問題ないことを確認してから収納を行います」
新千歳空港。北海道にあることから冬は雪に見舞われる(2020年、乗りものニュース編集部撮影)。
このほか、北日本や日本海側といった雪深い地域にある空港では、とくに事前準備、上空での情報収集、進入・着陸時の判断など多くの知識と能力が求めるとも話します。
たとえば北陸地方周辺は「一発雷」と呼ばれる非常に強いエネルギーを持った雷が発生することから、雷に気を払ったルートを飛ぶようにするといいます。
また、冬型の気圧配置で日本海側に発生する雪雲の高さは、おおむね高度約3000m程度が一般的で、これは着陸の10分前程度にあたるとも。このため、着陸前にCA(客室乗務員)が実施する安全性チェックをCAが着席したままアナウンスで対応したり、15分前などに早めて実施したりするなど、パイロットが状況に応じて判断して指示を出しているとのことです。