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「230年前からある兵器」が最先端? 人工衛星の弱点をカバー はるか上空に潜む米陸軍「静かなる刺客」の合理性

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衛星依存のジレンマ

 気球が戦場に登場したのは、今から230年以上も前の1794年6月です。フランス革命戦争でフランス軍が敵陣の偵察に使ったのが始まりとされています。空から地上を偵察する手段は気球から航空機、偵察衛星へと進歩しましたが、アメリカ陸軍は再び気球に注目していることが明らかになりました。しかも、その数は一度に200~300個。現代戦でなぜ時代遅れに見える気球が必要なのでしょうか。

Large figure1 gallery8高高度気球に取り付けられた無人機。2026年6月の「ヴァリアントシールド26」演習でデモンストレーションを実施した(画像:米陸軍)

 2023年2月、アメリカ本土上空を飛行していた中国の高高度気球が発見され、F-22戦闘機によって撃墜されました。この事件は世界的なニュースとなり、気球が現代でも軍事的な情報収集に使われていることが知られるようになりました。

 しかし、気球の軍事利用に関心を持っていたのは中国だけではありません。実はアメリカ陸軍も、この事件以前から成層圏を飛行する高高度気球の研究や試験を進めていました。そして現在では実際の軍事作戦を支援する段階にまで進んでいます。

 高高度気球の高度は約18~24km。旅客機など通常の航空機が飛ぶ高度を超え、人工衛星が活動する宇宙空間との中間に位置する領域です。

 気球というと風に流されて空を漂うだけのものを想像するかもしれません。しかし、気流を上手く捕まえることで移動を制御できます。高層気流の研究は日本が先鞭をつけており、太平洋戦争中に「ふ号兵器」、いわゆる風船爆弾を実戦投入しています。現代の高高度気球は高度ごとに異なる気流を観測・予想して高度を変えながら気流に乗って作戦区域まで移動したり、位置を維持したりするホバリング能力も備えています。詳細は明らかになっていませんが、数日から数週間、場合によっては数か月にわたって展開できるとされています。

 アメリカ陸軍が気球を使おうとしている背景には、現代戦における人工衛星への依存があります。衛星通信やGPS(全地球測位システム)、偵察衛星から得られる情報など人工衛星のネットワークなくして作戦は成立しません。

 しかし、衛星システムの構築には多額の費用がかかります。また、敵の攻撃や電波妨害によって使えなくなる可能性もあります。衛星に頼るほど脆弱性も高まるというジレンマです。そこで注目されているのが高高度気球です。衛星のすべての機能を代替できるわけではありませんが、衛星が使いにくくなった場合の補完手段になるのです。

中東での実戦投入も

 10月のAUSA(アメリカ陸軍協会総会)で陸軍欧州マルチドメインコマンドの司令官スティーブン・カーペンター准将は「衛星通信が劣化するか、あるいは完全に消滅する時が来ることは誰もが知っていると思います」と述べ、成層圏に200~300個もの高高度気球を展開する構想を明らかにしました。

 また、アメリカ陸軍は2026年3月、ワシントン州の統合基地ルイス・マコード(JBLM)に陸軍高高度基礎課程(AHABC)を設立しました。研究だけでなく実際に運用できる人材の育成にも乗り出しているのです。

 高高度気球運用はすでに構想段階を過ぎ、実際に中東に展開してアメリカ中央軍(CENTCOM)の作戦を支援したことが明らかにされています。陸軍副参謀長室(G-2)戦略・変革担当は「与えられた任務に対して効果的だった」と評価したとされます。ただし、展開された時期や場所、具体的な任務は公表されていません。対イラン作戦「エピック・フューリー」への参加も示唆されていますが詳細は不明です。

 さらに気球は無人航空機の発進母機として使う構想にもつながります。アメリカ軍が進める「Launched Effects(発射効果)」は、航空機や車両、艦艇などから無人機を発進させる考え方です。高高度気球もその発進プラットフォームとなれば、成層圏から無人機を送り出すという新たな運用が考えられます。

 もちろん高高度気球は風や気象の影響を受けますし、電波妨害への対策も必要です。しかし衛星より安価です。しかも気球を発見し撃墜するのは簡単ではありません。2023年に中国の気球を撃墜するため、アメリカがU-2高高度偵察機やF-22戦闘機を投入したことからも、その対処に手間がかかることが分かります。

 現代戦というと、衛星やステルス戦闘機、極超音速兵器といった最先端の装備に目が向きがちです。しかし、戦場を支えるのは必ずしも最先端に見える装備ばかりではありません。230年以上前、気球は初めて空から戦場を見下ろしました。人工衛星が宇宙空間を覆う時代になっても、気球はずっと空に潜み続け活動を続けています。

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