戦後日本で初めて開発された国産旅客機YS-11。最初の東海道新幹線である0系とともに、昭和における高度成長期のシンボル的存在として扱われることも多い機種の、最後のオリジナルエンジン搭載機が退役目前になっています。
オリジナルエンジン搭載のYS-11最後の1機は空自所属
2020年3月21日(土)、航空自衛隊入間基地(埼玉県狭山市)に新型機が到着しました。アメリカのセスナ製「サイテーション」ビジネスジェットがベースのU-680A飛行点検機です。
飛行する航空自衛隊のYS-11FC飛行点検機。FCとは「Flight Check」の略(画像:航空自衛隊)。
U-680Aは、老朽化したYS-11FC飛行点検機の後継として2017(平成29)年に選定された機体で、3機が航空自衛隊へ納入される予定です。この新型機に更新される前任機YS-11FCは2020年3月現在、1機が現役運用されており、2020年度後半に退役するスケジュールになっています。
YS-11は、第2次世界大戦後に日本が初めて独自開発した旅客機で、1962(昭和37)年8月30日に初飛行しました。総生産数は182機、そのうち13機が航空自衛隊へ導入されています。
航空自衛隊は、最初から飛行点検機仕様で調達した1機のほかに、後年余剰化した人員輸送仕様YS-11Pの4機中2機を改造、最も多い時期で飛行点検機仕様であるYS-11FCを3機運用していました。
このほかYS-11は日本国内において、海上自衛隊や海上保安庁、国土交通省、複数の民間航空会社などで運航されていましたが、老朽化で21世紀に入り次々と姿を消し、航空自衛隊の人員輸送仕様(旅客機と同型)であるYS-11Pも、2017年5月29日をもって退役しています。
そのため現在、飛んでいるYS-11は、航空自衛隊が保有するYS-11FCと、そのほかに2種類の特殊用途機のみです。
YS-11FCを運用する飛行点検隊の任務とは
YS-11FCは、埼玉県入間基地に所在する「飛行点検隊」で使用されています。この部隊は、防衛省が管理する航空基地などに設置されている、自衛隊機や民間機の航行に使用される様々な航空保安用無線施設が問題なく稼働しているか、上空から点検するための専門部隊です。
このような任務に対応するため、YS-11FCの機内には電波の送受信装置や、各種測定装置、自動飛行点検装置などが積まれています。
YS-11FCとともに飛行点検隊が運用するU-125。今後はこの機とU-680Aの2機種態勢になる(柘植優介撮影)。
また、現在も航空自衛隊が運用中のYS-11各機のなかで、ほかの機にはないYS-11FCだけの特徴として、試作機や民間定期路線で用いられたYS-11と同じロールスロイス(RR)製の「ダート」エンジンを積んでいる点が挙げられます。
ほかの現役機はゼネラルエレクトリック(GE)製の新型に換装し、プロペラも形状の異なる3枚翼のものに変更しているため、「ダート」搭載機とはエンジン音がまったく異なります。よって、オリジナルのロールスロイス製「ダート」の音を響かせて飛ぶYS-11は、日本国内においては飛行点検隊のYS-11FCが最後になるのです。
最後まで残ったYS-11FCは、元々人員輸送仕様のYS-11Pとして1965(昭和40)年3月に引き渡された機体で、1990年代初頭に改修されて飛行点検機になりました。そのため「ダート」搭載機としては国内最長の、55年間飛んでいる機体でもあります。
飛行時間や天候、機体のコンディションも関わるため現時点では不明ですが、もしかすると2020年の入間基地航空祭でYS-11FCが最後の飛行展示をするかもしれませんね。