年々進化を続ける「GRヤリス」
トヨタの小型ハイパフォーマンスカー「GRヤリス」は、2020年のデビュー以来、毎年のように改良モデルが発表されています。さきごろ2026年3月にも通称「26式」と呼ばれる最新版が登場していますが、はたして新しいGRヤリスはどんな進化を遂げたのでしょうか。試乗でチェックしました。
「26式」に進化したトヨタ「GRヤリス」(西川昇吾撮影)
WRC(世界ラリー選手権)マシンのベース車両として生まれたGRヤリスですが、すでに6年のモデルライフが経過しようとしています。直近で大きく進化したのは、2024年の初めに登場した通称「24式」でしょう。24式GRヤリスは、機能性により特化した操作インターフェースやパワーアップしたエンジン、そしてATでありながら本格的なスポーツ走行もこなせる新開発の8速「GR-DAT」が採用されるなど、大きなアップデートが施されました。
他方、今回試乗した26式GRヤリスで最も特徴的なポイントと言えるのが、新しいステアリングです。スポーツ走行時に意図せずスイッチ類に手に触れないよう、スイッチの配置などが見直されたほか、グリップ形状の最適化や小径化が行われ、ステアリングからインフォメーションをより多く得られるようになったほか、これまで以上に素早い操作に適したものとなりました。また、電動パワーステアリングの設定も変更され、高負荷時にもしっかりとアシストされるようになっています。
なお今回試乗した「RZ “High performance”」(GR-DAT車)をはじめ、タイヤは上級グレードを中心に、新開発のブリヂストン「POTENZA RACE」が純正装着されています。本グレードの税込み価格は6速MTで503万7200円、DATで538万7200円です。
6年前とは「まるで別物」
デビュー当初の「20式」GRヤリスに乗ったときのことを思い出しながら、26式で走り出した筆者(西川昇吾:モータージャーナリスト)は、「6年前とはまるで別物に進化したなぁ」とすぐさま思いました。
ステアリングは「26式」から新形状のものに変更された(西川昇吾撮影)
今思うと、20式はハイパフォーマンスである一方、走りの質感にはどこか荒削りな感触がありましたが、26式はそういった乗り味の部分もしっかりと高められている印象です。普通に走っていて「いいクルマに乗っているなぁ」と感じられるのは、間違いなく26式です。
また、24式から変更されたインテリアや26式から採用の新しいステアリングは、ドライバーに余計な情報を与えることなく、より運転だけに集中させてくれます。パワートレインやシャシーの進化はもちろんのこと、ドライバーにストレスを感じさせないための進化も改めて実感しました。
「GRのトップモデル」はポルシェを超えられるか
ところで、26式GRヤリスに試乗したのは2026年7月下旬だったのですが、このころSNSでは、NHKで放送された特集番組『インサイドトヨタ』が大きな話題となっていました。この番組は次期「カローラ」の開発現場を取材しつつ、現在のトヨタを取り巻くさまざまな課題や実情を伝えるものでしたが、とりわけ注目を集めたのが、トヨタの開発スタッフが語った“ポルシェの凄さ”です。
ドライバーやエンジニアたちは「(ポルシェの)あのフィーリングがどうやって実現されているのか、わからない」と口をそろえていましたが、筆者も実際にポルシェを運転すると、ブレーキやステアリングをはじめ、各種の操作系統がドライバーへ伝える情報の緻密さには驚かされます。「走る、曲がる、止まるの操作が、これほどまでに高い解像度で可能なクルマを造っているメーカーはほかにない」と自信を持って言えます。
筆者は26式GRヤリスを運転しながら、番組で話題に挙がったポルシェの操作フィーリングのことを思い返し、直感的に「GRモデルは、間違いなくポルシェを意識している」と考えました。
GRブランドのモデルはヤリスに限らず年々進化していますが、ステアリングやブレーキのフィーリングは、そのたびに“ポルシェ的”なものへと近づいてきていると感じるのです。特に電動パワーステアリングのセッティングについてはその雰囲気が顕著であり、公式に発表されてない改良点も含め、ポルシェを細かく研究していることが伝わってきます。
ただ、開発陣が「わからない」と言っていたように、その仕上がりはポルシェに近づいてはいるものの「並んだ」「超えた」というまでには至っていません。この辺りは数値で表せない感覚的な領域の話ですが、トヨタはGRモデルに、この官能性を与えようとしているのだと痛感します。
その究極形となるはずなのが、2025年末に発表されたばかりのスーパースポーツカー「GR GT」でしょう。世界のスーパーカーと肩を並べる性能を有するのはもちろん、狙いのひとつは“クルマづくりの秘伝のタレ”を次の世代へ伝承する「トヨタの式年遷宮」だと発表されています。クルマと対話でき、限界域でも扱いやすいドライバーファーストなトップモデルとなることが期待できそうです。
WRC競技の最前線で戦っている本格マシンでありつつ、シリーズ最小モデルに当たるGRヤリス。その最新式の進化を検証した今回の試乗では、トヨタがベンチマークに据えているポルシェという壁の高さ、そしてGR GTが目指すであろう「濃密な対話ができる」未来のドライバーズカーの世界観にも思いを馳せることができました。
