10年余りで定着した「計画運休」 その始まりとは
台風が近づくと、鉄道各社から「計画運休」の予告が出るのが、いまではすっかり当たり前の光景になりました。ただ、この仕組みが広く知られるようになったのは、実はここ10年余りのことです。
2019年の台風15号における、JR大宮駅の計画運休の様子(画像:PIXTA)
きっかけと言えるのが、2014(平成26)年10月のJR西日本による台風19号への対応です。同社は10月12日昼、翌13日は近畿圏の24線区で午後から列車本数を減らし、16時以降は運転を見合わせると発表しました。このとき、広い範囲の在来線を事前に予告したうえで止め、大きく注目されました。
JR西日本は後の社長会見で、台風が直撃すれば複数線区で長時間の運行中止が見込まれ、駅や駅間で列車が長時間停車するおそれもあったため、早めに運休を決めたと説明しています。
その後、2018(平成30)年には台風21号や24号を受けて各地で計画運休が行われ、台風24号では首都圏のJRや私鉄にも広がりました。2019(令和元)年の台風15号では首都圏などで、続いて襲来した台風19号では首都圏と中京圏などで実施され、計画運休は次第に定着していったのです。
では、この「止める・止めない」は、誰が決めているのでしょうか。判断するのは各鉄道事業者です。気象情報や自社の運転規制基準、路線の特性などを踏まえ、相互直通や並走する事業者とも連携しながら決めています。
ここで押さえておきたいのが、「当日その場で止まる仕組み」と「前もって止めると決める判断」は別物だということです。
前者が「運転規制」です。強風時には沿線の風速計などで観測し、各社が定めた規制値に達すると列車を徐行させたり、運転を見合わせたりします。ただし、その基準は会社や区間によって一律ではありません。
たとえばJR東日本の在来線では、早めに規制する区間で風速20m/秒以上になると列車の速度を25km/hに落とし、25m/秒以上では運転を中止します。一般的な規制では、風速25m/秒以上で列車は25km/hで徐行し、風速30m/秒以上で運転中止と決めています。
雨についても規制方法は会社や区間によって異なり、単純な1時間雨量や降り始めからの合計だけで全国一律に判断しているわけではありません。
カギは「運転規制」と“2日前からの逆算”
一方で「前もって止めると決める判断」、これが計画運休です。こちらは、実際に規制値へ達してから止めるのではなく、台風などの接近前に運転への影響を予測して判断します。気象庁などの気象情報や自社の運転規制基準から、大雨や強風が長時間にわたり規制値を超えるおそれなどを見極め、駅間で列車が長時間停車したり、駅が混乱したりする事態を防ぐため、あらかじめ運休します。
2019年の台風19号における、JR横浜駅の計画運休の様子(画像:PIXTA)
国土交通省が2019年7月にまとめ、その後10月に更新した「鉄道の計画運休の実施についての取りまとめ」でも、計画運休が必要な理由として、列車の駅間停車や駅での混乱を防ぐ必要があることが挙げられています。実際、2018年の台風24号では、事前に案内していたため駅に停車した列車も乗客が少なく、大きなトラブルにならなかったとされます。
この取りまとめでは、各鉄道事業者が情報提供のタイムラインをあらかじめ作成しておくことが重要とされました。国土交通省が示したモデルケースでは、計画運休開始のおおむね48時間前に運休の可能性を知らせ、24時間前には具体的な運転計画を知らせる流れが例示されています。
台風の進路などによって計画が変わる場合もありますが、“2日前からの逆算”で情報を具体化していく一つのモデルです。
同じ取りまとめは、計画運休が果たす役割にも触れています。早期帰宅の促進、不要不急の外出の抑制、イベントの休止や早期切り上げなど、社会の安全を確保する働きです。
つまり計画運休は、単に電車を止めるだけの話ではありません。前もって知らされることで、テレワークや時差出勤に切り替えたり、外出を控えたりと、私たち利用者や企業が備えられる点にこそ大きな意味があります。
よって、台風情報や天気予報などで「運休の可能性」という言葉を見かけたら、それは行動を早めに見直すための合図と言えるでしょう。
