タワマン最寄り駅では改札に長い行列も
何年か前、川崎市のJR・東横線の武蔵小杉駅まで、毎日早朝から駅の改札前に長い行列ができる光景が世間で話題になりました。
同エリアは超高層マンション(タワマン)が次々に建設されたことで住民が急増し、駅改札のキャパシティーが通勤・通学の人の波に追いつかなかったことが原因とされます。
まだ歴史の浅いタワマンとその住民たちの思わぬ課題を突き付けた出来事でしたが、交通手段をめぐるまた別の事象が今、東京都心で見受けられるようになっています。
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コロナ禍の影響で、都内で需要が急拡大している「シェア自転車(シェアサイクル)」。
東京でエリアを増やしているサービスのひとつ、ドコモの「バイクシェア」は、行政と連携し、千代田区・港区・中央区・文京区・新宿区・江東区など11の区が「東京・自転車シェアリング」として、一度登録すれば共通のサービスを受けられる仕組みを整えました。
シェアサイクルを通勤や通学に利用する人に理由を尋ねたところ、やはり大多数の人は「新型コロナウイルスの感染を少しでも避けるため」だといいます。
感染拡大以降、電車や路線バスといった従来の交通機関も換気などの対策を徹底しています。都営バスに乗ってみると、車内のふたり掛け座席にふたり座っている場面はほとんど見なくなりました。
バスに頼りがちな湾岸エリアで需要拡大
それでも、電車に比べれば車内が狭いこともあって、密になることは避けられません。そのためか、とりわけ湾岸エリアでバス利用者の多かった地域では、シェアサイクルの利用者がどんどん増加しているようです。
利用者が特に多いエリアに至っては、通勤通学時間になると、返却された自転車をいち早く借りようと待機している人が複数いるほど。そう、知らず知らずのうちに自転車の“争奪戦”が活発になっているのです。
中でも、東京駅や銀座方面へのアクセスが都営バスのみに限られる中央区の勝どきや晴海あたりでは、需要は極めて高くなっている様子。このサービスで用いられている自転車は電動自転車です。バッテリーの残量が少なくなった場合には、スタッフが人海戦術で交換する仕組みです。
あまりに急速に需要が増えたためか、その交換も追いついていないのが現状のよう。サイクルポート(シェア自転車の貸出・返却場所)に何台も自転車があったとしても、ほとんどがバッテリー切れだったり、バッテーリー残量が少なかったりという光景も目立ちます。
筆者はこの何か月か、シェアサイクルの利用状況を調べるために都内各地のサイクルポートを回っていますが、前述の勝どきエリアは特に需要が高いことが分かります。
とりわけ晴海通り沿いのある高級タワマンのサイクルポートは、需要の高さを感じさせるスポットです。
比較的台数の多いサイクルポートにもかかわらず、朝方から日中にかけては自転車がゼロに。残っている自転車は、バッテリー交換待ちが当たり前の状況です。
勝どき橋を渡って少し進んだ銀座6丁目のサイクルポートは同規模ながら、借りられる自転車がないということはほとんどありません。
バッテリー切れや利用可能0台の課題も
たとえバッテリーが切れていても普通自転車として利用することは可能なようですが、モーターやバッテリーを搭載している分、一般的な自転車より車体はかなり重め。せっかく借りるなら、やはり電動自転車として使えるものを選びたいと思うのは当然のことです。
また、規模の小さいサイクルポートでは、そもそも自転車が0台ということも間々あります。
先日、新宿区の明治通り沿いにあるサイクルポートで、そんな事態に遭遇しました。ここ、すぐ近くにもうふたつサイクルポートがあるのですが、そちらもゼロだったので仕方なく歩く羽目になりました。
サイクルポートの位置はGoogleマップで公開されてはいるものの、利用時には万が一自転車がない場合も考えておく必要があります。
これに対して各区では需要の急増に対して自転車台数を増やす施策を行っていますので、状況が改善されるのを待ちたいところです。
もうひとつ。自転車を借りる時のトラブルとして、バッテリー切れ以外のことも想定しておきたいところです。
メンテナンスが追いついていないのかチェーンの油が切れていることもありますし、中にはブレーキが故障したままということも。自転車を借りる前、サドルをまたぐ前には十分にチェックすることが必要です。
ドコモの「バイクシェア」の場合、1回の利用料金は最初の30分が150円となっています。東京という街は、電車で移動しようとすると遠回りになってしまって面倒という地域も多いもの。
都営バスの料金210円(ICカードだと206円)よりも3割近くも安く乗れるわけで、コロナ禍でなくとも普及は進みそうなものだけに、今後のサービス向上が望まれます。
コロナでなくても普及したと言えるワケ
いろいろと課題もありますが、この自転車シェアリングは極めて先進的なサービスといえます。
最も優れている点は、前述のように「電動自転車」を導入していることでしょう。
もともと都内は、坂の多いエリアがたくさんあります。サービスが実施されている文京区や新宿区、港区は、いずれも坂ばかりという地域。湾岸でも、橋を越えて都心に入る際にはえらく坂を登らなくてはならないところもたくさんあります。
先日、港区新橋から中央区晴海まで出かける用事があったので、築地市場跡地の横に開通した築地大橋を越えたのですが、橋へと続く登り坂は電動自転車でなくては辛いものでした。
地方都市での事例を見ると、岡山市のように電動アシスト無しの自転車を導入している地域もありますが、それはほとんど平地の地域だからできるもの。東京の街は電動でなければ、とても無理です。
ちなみに、高松市では子どもを乗せることができるタイプの自転車も導入されています。東京でも導入されてほしいものです。
またGPS機能が搭載されているために盗難のリスクも低くなっています。たとえ不届きな利用者が放置したとしても、回収ができるわけです。利用時には会員登録が必要なので、放置なんてしたら後で困るのはその利用者自身になる、というわけです。
利用者にとっては、鉄道やバス路線から少し離れたところや、路線が不便なところを移動するときに、これほど便利な乗り物はありません。新宿区のように東西を横断するのは便利だけど、南北の移動は交通機関が限られているといった地域が都内には数多くありますので、やはりコロナ禍でなくとも普及は必然だったといえるでしょう。
都内では今後ますます設置が進む見通し
これまでシェアサイクルが抱える問題として、自転車を設置しているサイクルポートがなかなか増えないことが挙げられていました。サービスを導入している各地域の区役所ではサイクルポートを増やそうとはしているのですが、これが簡単ではありません。
どこの地域でも区の運営する施設や自転車置き場などはすでにほとんどが設置済み。そのため、現在では民間のマンションやオフィスビルなどのちょっとした空き地を見つけて、設置させてもらうよう依頼をして回っている状況が続いていました。
これまでは認知度も向上途中であり、なかなか増加しなかったサイクルポートですが、需要が急増していることで、ようやく増え始めることになりそうです。
これからの季節、東京の暑い夏に自転車はちょっと大変ですが、効率的に利用してみましょう。