耐震工事が完了したJR東海「名古屋工場」の内部が、報道陣へ公開されました。塗装や洗車、車両検査の設備も、新技術が投入されています。
耐震工事が3月に完了
在来線では国内初という「水性塗装ロボット」が名古屋に出現しました。JR名古屋駅の南西にある、車両の定期検査などをおこなう名古屋工場(名古屋市中川区)です。
自動ロボットで塗装を施される313系電車(乗りものニュース編集部撮影)。
名古屋工場は1924(大正13)年の開設。まもなく100年を迎える「老舗」の車両工場です。敷地面積8.9万平方メートル、JR東海の在来線では唯一の車両工場で、年間450両の車両検査を受け持っています。
このうち、車両検査や塗装・洗浄などを行う主要3棟で、耐震補強を含む建て替えが行われました。それにあわせて、車両の塗装ロボットにくわえ、洗浄ロボットなど新設備が導入されたのです。今回はそれらの稼働風景が、報道陣に公開されました。
さて、従来の鉄道の塗装には油性塗料が用いられてきました。しかしJR東海は2016年度に、新幹線で環境にやさしい水性塗料を導入開始。そして今回、在来線においても水性塗料を使っていくこととなります。それぞれ、国内では初の取り組みとのことです。
水性塗料というと雨で流れ落ちてしまうイメージがあるかもしれませんが、塗料粒子にマイナス電荷を与え、車体にプラス電荷を与えて噴霧することで、強固に接着することが可能といいます。環境への負荷を低減するだけでなく、可燃性の劇物でもある油性塗料に比べ、厳格な管理体制が要求されないというメリットもあり、現場作業員の負担も減ります。また担当者は「見た目も、水性塗料のほうがツヤが良くなる」と話します。
導入された水性塗装を行うロボットは、車両ごとにあらかじめプログラムされた動きに基づいて、ロボットアームが適切な動きで車体へ塗料を噴霧していきます。手作業だと複雑な足場を使用していた部分も容易に塗装が可能となり、作業効率や安全性が向上するといいます。
塗るのは頭だけ?
在来線の車両塗装を全自動化するといっても、実はJR東海にとっては、そこまで大がかりなことではありません。というのも、所属する在来線車両はどれも、塗装が施されているのは前面付近のみ。たとえば主力車両の通勤電車313系も、先端が白く塗られているだけで、その他側面などはステンレス車体の地の部分がそのままなのです。ちなみにオレンジ色の「ライン」は、塗装ではなくテープです。
では、最新鋭の特急用車両「HC85系」は側面にも白いペイントが続いているではないか……という声が聞こえてきそうですが、こちらの車両はまだデビューしたてで、最初の定期検査まではまだ年単位の時間があります。担当者は「どう対応していくかは別途検討していきます」としています。
洗車装置は、これまでどうしても手作業でおこなっていた前頭部などにも対応済み。自動車用のカーウォッシャーのような、両側から挟み込むような回転モップ状の器具だけでなく、屋根周りの洗浄を担うアーム式の器具も。15分ほどで一連の洗浄工程が完了します。
輪軸がうずたかく積み上がる「秘密の倉庫」
今回は、車体から取り外した台車からさらに車軸・車輪を外して検査を行う輪軸検査場も公開されました。
鉄道車両の走行を担う最も大切な部分であるため、緻密な検査を必要としますが、ここで車輪が車軸と触れる内側の部分を磨く作業も、手作業から機械作業に。また、車輪を高速回転させて問題が無いかを確認する装置は、改修で気動車の輪軸に対応可能になったそう。
気動車の輪軸は電車にくらべ、エンジン駆動に関するメカニズムがあるなど複雑であったため、これまで対応が難しかったそうです。ちなみに、7月デビュー予定のハイブリッド式新型特急車「HC85系」は、あくまでモーターで走るため、電車と同じ輪軸だそうです。
工場の奥には輪軸(車軸と車輪)の保管庫があります。270本もの輪軸を収容可能で、まるで国会図書館の書庫のように、天井いっぱいまで輪軸の棚が積み上がっている光景は圧巻。場内から保管庫の所定の場所まで、自動で運ばれていきます。
1日に検査完了できるのは2両ほどで、繁忙期は1日3両になることも。多客期に「車両の検査期限が切れて走らせられない」という事態を避けるため、約2年先まで綿密に検査計画を立てるそうです。
工場長の神田 英樹さんは「耐震工事が完了して災害に強い工場となり、環境にもやさしく、作業員が安全で働きやすいものにもなりました。これからも、在来線唯一の車両工場として、安全で快適な車両を提供していきたい」と話しました。