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エナジードリンク好きの聖地? 田園調布「どりこの坂」の名前に込められた想いとは

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「どりこの」とは何か?

 東京には、道玄坂や九段坂といったよく知られる坂から面白い由来がある坂まで、多くの坂があります。例えば、大江戸線の牛込神楽坂駅(新宿区箪笥町)近くにある袖摺坂(そですりざか)は、袖がすり合うくらいに狭いことからついたその名が付きました。

 また、東京の各地で見られるのが幽霊坂です。千代田区の神田駿河台や港区の三田など各所に見られる地名ですが、どこもかつては薄暗く気味が悪かったといわれます。不気味で幽霊が出そうだから、とりあえず幽霊坂にしておこうと安直に考える人が当時たくさんいたと考えられます。

 そのような都内の坂には、通りがかる人がいったいどのような由来なのだろうと首を傾げるの坂があります。大田区の田園調布にある「どりこの坂」です。東急東横線「多摩川駅」の線路脇から、かつての多摩川園ラケットクラブのあたりをちょうど田園調布1丁目から2丁目に沿って走る坂です。

どりこの坂の坂下の様子。坂は写真左手。(画像:(C)Google)

 いったい「どりこの」とは何なのでしょうか。周囲はお屋敷町になっており、「どりこの」という店やそのような名前の付いた名勝や奇岩もありません。

 坂の由来を知る手がかりは、坂の上下にある標識です。標識を読んでみると、

昭和の初めごろ、坂付近に「どりこの」という名の清涼飲料水を開発した医学博士が屋敷をかまえたので、誰いうとなく「どりこの坂」と呼ぶようになったといわれている。それまでは池山の坂といっていたという。

と書いてあります。

製法は門外不出だった

製法は門外不出だった

「どりこの」とは、現在も愛飲する人が多い「エナジードリンクの先駆け」ともいえる健康飲料だったのです。開発したのは、医学博士の髙橋孝太郎という人物。この博士がブドウ糖などを用いて作ったのが「どりこの」だったのです。

 名前の由来は、製法のヒントとなった論文を書いたアーノルド・ドーリックという研究者と自分の名前、それに助手の中村松雄のイニシャルを加えたものといわれています。

赤線部分がどりこの坂(画像:(C)Google)

 当初、髙橋博士が知り合いに配っていたのですがやがて製品化。それを気に入って販売契約を結んだのが当時の講談社社長・野間清治でした。

 当時、次々と人気雑誌を発行し多くの読者を抱えていた講談社は、社を挙げて「どりこの」を売り出します。雑誌に広告が入るのは当然、関係深い作家や歌手はみんな「愛飲している」と紹介しました。

 現代でいえば、SNSのインフルエンサーを使ったプロモーションの先駆けといったところでしょうか。ちなみに当時の少女向け雑誌『少女倶楽部』で、漫画「どりちゃんバンザイ」が連載されたり、「どりこの音頭」のレコードが発売されたりと現代と通じるものがあります。

「どりこの」は当時何百万本も売れましたが、問題がありました。髙橋博士は製法を門外不出としていたのです。何百万本も売れば工場を建設し、大々的に製造しようと考えるものですが、そうはせず博士が製造を一手に引き受けていたのです。そのような家内制手工業で何百万本も製造していたというから、さらに驚きです。

1970年から「幻の味」に

1970年から「幻の味」に

 戦時中の製造中断を経て講談社との販売契約も失効したことで、「どりこの」の生産本数は減少。1970(昭和45)年に博士が死去したこともあり、「幻の味」となってしまったのです。

どりこの坂の坂上の様子。左手に標識がある(画像:(C)Google)

 幻となれば、飲みたくなるのは必然。歴史に消えた「どりこの」を追ったルポライター・宮島英紀さんの労作『伝説の「どりこの」 一本の飲み物が日本人を熱狂させた』(角川書店)の中には、講談社の倉庫に長年眠っていた未開封の「どりこの」が発見される一幕があります。既に賞味期限は切れているのは当然。しかしその味を知りたかった宮島さんは、開封して飲んでいるのです(単行本では飲む姿の写真が掲載されています)。
 
 既に製造法も明らかではない「どりこの」。日本各地にはいまだ、この飲み物に由来する「どりこの饅頭」というお菓子がありますが、当然ながら「どりこの」は入っていません。当時人の姿も少ない田園調布の一角で、そのような飲み物が作られていたとは。最新のエナジードリンクを片手に、散歩するのも面白そうです。

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