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イギリス傑作機「ランカスター」出生のヒミツ 兄貴分「マンチェスター」爆撃機が消えたワケ

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第2次世界大戦中の傑作イギリス機として名高いアブロ「ランカスター」爆撃機。しかし、同機は新規開発ではなく、既存機「マンチェスター」の大幅改良によって生まれています。なぜそうなったのか、経緯を見てみます。

理想的エンジンだった「X型24気筒」

 イギリス国民から、親しみを込めて「勝利の爆撃機」とも呼ばれる4発エンジンの大型爆撃機があります。その機体の名はアブロ「ランカスター」。第2次世界大戦中盤以降、イギリス空軍に配備され、大編隊による夜間の絨毯爆撃をドイツ本土に対して実施し、同国の国力を削ぎ、イギリスを大戦の勝利に導いた機体として、称えられている飛行機です。

 しかし、傑作機「ランカスター」はまったくの新造機として誕生したわけではありません。同機は、既存機「マンチェスター」の発展改良型として生まれています。では、なぜ「マンチェスター」は「ランカスター」に取って代わられたのか、そこにはどんな事情があったのでしょうか。

Large 211108 avro 01第2次世界大戦中にイギリスで開発されたアブロ「ランカスター」爆撃機(画像:イギリス国防省)。

 そもそも、1920年代末から1930年代にかけては、世界的に航空テクノロジーが飛躍的な進歩を遂げた時期でした。たとえば「世界一速い戦闘機」が誕生した翌月には、もう「戦闘機よりも速い爆撃機」が発表される、といった有様です。

 このような状況下にあった1936(昭和11)年、イギリス空軍は、次期双発爆撃機の仕様書を国内の航空機メーカーに公布、名乗りを上げる企業を広く募集します。これに応募したのが、アブロ社とハンドレページ社で、選考の結果、前者の設計案が採用されました。

 なお、このときイギリス空軍が要求した双発爆撃機には、ロールスロイスが開発中の新型エンジン「ヴァルチャー」を使うことが前提とされていました。「ヴァルチャー」は、ロールスロイスの液冷V型12気筒エンジン「ペレグリン」を、上下向い合わせで2基結合させた、いわゆるX型24気筒エンジンで、これにより2000馬力級の出力を目指した、新時代の大馬力エンジンでした。

あまりにも違った理想と現実

「ヴァルチャー」エンジンであれば、当時の主流だった1000馬力級エンジン2基分の出力を1基で賄えます。それであれば、理論上はエンジン4発が必要な大型爆撃機であっても、エンジン2発で同等の出力を得られ、さらにエンジン・ナセル(カウル)が左右両翼にひとつずつで済むことになるので、4発機よりも空力学的に優れたデザインにまとめることができるようになります。おまけに「エンジンの数」は2基なので、4発機なら4組が必要なエンジン回りの各種補機類などが半分の2組で済み、構造の単純化とコンパクト化というメリットまで得られます。

Large 211108 avro 02液冷X型24気筒エンジンを2基装備したアブロ「マンチェスター」爆撃機(画像:イギリス帝国戦争博物館/IWM)。

 こうして、ヴァルチャーを搭載した機体はアブロ「マンチェスター」Mk.Iと命名され、1940(昭和15)年7月からイギリス空軍への納入が始まりました。ところがヴァルチャーエンジンは、理想とは裏腹にオーバーヒートと機械的故障が頻発。試作段階から改善の努力は続けられていましたが、一向に効果がありませんでした。

 そのため、「マンチェスター」が配備された第97爆撃中隊では、ヴァルチャーの不具合で稼働率が低く、飛べても不時着があまりに多いことから、隊員たちは部隊名を「第97爆撃“歩兵”中隊」と自嘲するほどでした。ちなみに本機は試作機を含めて202機が生産されたものの、そのうちの約25%が墜落事故で失われたといわれています。

 もちろん、イギリス空軍もアブロ社も、新型であるはずの「マンチェスター」が抱えたこのような欠陥に対して、手をこまねいていたわけではありません。考えられたのは航空機にとっての「心臓移植」、つまりエンジンの換装でした。試行錯誤の末、結局、スーパーマリン「スピットファイア」やホーカー「ハリケーン」といった傑作戦闘機のエンジンとして定評のあったロールスロイス「マーリン」液冷エンジンを用いて4発化するという、オーソドックスな案に落ち着きました。

 こうして完成したのが、4発エンジン爆撃機となった「マンチェスター」Mk.IIIです。

傑作機「ランカスター」の誕生

 ただ、エンジンを2発から4発にするというのは、いうほど簡単なことではありません。エンジンを増やせば空気抵抗や機体の重心バランスが変わるため、離着陸を含む飛行特性が大幅に変化します。そのため、改修によって逆に低性能になってしまったり、改修スケジュールが大幅に遅延したりする可能性もありましたが、この改修に関わったアブロ社の上級設計技師ロイ・チャドウィック氏は、自身が手掛けた設計なので、「マンチェスター」を熟知しており、たったの3週間で改修を済ませました。

 1941(昭和16)年1月9日、「マンチェスター」Mk.IIIは初飛行し、この改修が大成功だったことを知らしめます。劇的に性能が改善された同機は、改めて「ランカスター」Mk.Iの名称が付与され、制式化の後、イギリス空軍の対ドイツ戦略爆撃の主力として7377機も生産されました。

Large 211108 avro 03液冷X型24気筒エンジンを2基装備したアブロ「マンチェスター」爆撃機(画像:イギリス帝国戦争博物館/IWM)。

 こうして見てみると、「ランカスター」の兄貴分的存在といえる双発爆撃機「マンチェスター」はいかにも欠陥機のように思えますが、機体構造そのものは優れていたといえるでしょう。

 エンジンに泣かされ短命に終わったとはいえ、基本設計が良かったからこそ短期間で4発エンジン化した弟分「ランカスター」を生み出すことができたわけで、そう考えると「マンチェスター」も設計からしてダメな“欠陥機”ではなかったといえるのではないでしょうか。

 いうなれば「マンチェスター」は、傑作機「ランカスター」を生み出すための黒子的存在の飛行機といえるのかもしれません。

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