親子で楽しみたい物語をご紹介している本連載「親子のためのものがたり」。今回は「浦島太郎」を取り上げます。浦島太郎と言えば、金太郎、桃太郎と合わせて三大太郎と呼ばれているほど、日本の昔話の中でも有名どころですよね。あらためてあらすじを知ると、意外な発見があるかもしれませんよ。
「浦島太郎」を子どもに聞かせよう!
「浦島太郎」は室町時代に成立した『御伽草子』中の一編に物語として収められています。その伝説自体は日本書紀、万葉集などにも記述が残っていて、日本各地に浦島太郎に関する伝承や縁起譚があるなど、広く知られたお話です。そのため、大人になって改めて読む機会がない人も多いのではないでしょうか。よく知っているようでも、子どもに語って聞かせようとすると意外と難しいものです。一緒にあらすじを確認していきましょう。今回は楠山正雄版を参考にご紹介します。
「浦島太郎」のあらすじ
亀を助けた浦島太郎はその背に乗って竜宮へ
昔々、浦島太郎という漁師がいました。浦島は毎日釣竿を担いでは海で魚を釣って、両親を養っていました。
ある日、浦島が漁を終えた帰りに道を歩いていると、子供が五、六人で小さい亀の子を棒で突いたり、石で叩いたり散々に虐めています。浦島は見かねて、「そんな可哀想なことをするものではない」と言って止めましたが、子供たちは聞き入れようとしません。また亀の子を仰向けにひっくり返して足で蹴ったり、砂の中に埋めたりしました。
浦島はますます可哀想に思って、「じゃあ、おじさんに亀の子を売っておくれ」と言いますと子供たちは「おじさんありがとう、また買っておくれよ」と、わいわい言いながら行ってしまいました。
浦島は、甲羅からそっと出ている亀の首を優しく撫でてやって、「危ないところだった、さあもうお帰り」と言って亀を海辺まで持って行って放してやりました。亀は嬉しそうに首や手足を動かして、やがて水の中に深く沈んで行ってしまいました。
それから二、三日経って、浦島が沖で一生懸命漁をしていると、ふと後ろの方から、「浦島さん、浦島さん」と呼ぶ声がしました。振り返って見ても人影は見えませんが、いつの間にか一匹の亀が舟の側に来ていました。
「私は先日助けていただいた亀でございます。今日はそのお礼に参りました。時に浦島さん、あなたは竜宮をご覧になったことがありますか」
「いや、まだ見たことはないよ」
「ではお礼のしるしに、私が竜宮を見せてさしあげたいと思いますがいかがでしょう」
「ぜひ行ってみたいが、それは何でも海の底にあるということではないか。どうやって行くつもりだね、私にはとてもそこまで泳いでは行けないよ」
「大丈夫です、私の背中にお乗りください」
浦島は言われるままに、亀の背中に乗りました。青い水の底へ運ばれて行きますと、ふと、辺りが明るくなって白玉の様に綺麗な砂の道が続いて、立派な門や御殿が見えました。
\ココがポイント/
✅浦島太郎は子供たちに虐められていた亀を買って助けた
✅二、三日後、助けた亀が現れてお礼に竜宮へ連れて行ってくれると言った
✅亀の背に乗って海へ潜っていくと綺麗な砂の道が続いて、立派な門や御殿が見えた
竜宮の素晴らしさに浦島はすべてを忘れる
「さあ、竜宮へ参りました」亀はこう言って浦島を背中から下ろして、御殿の中へ案内しました。タイやヒラメやカレイといった、いろいろな魚の中を通っていくと、乙姫様がお迎えに出てきました。乙姫様についてさらに奥へ進むと、やがて宝石を散り嵌めた大広間に着きました。
「浦島さん、ようこそおいでくださいました。先日は亀の命をお助けくださいまして、誠にありがとうございました」乙姫様はそう言って、丁寧にお辞儀しました。やがて、珍しいご馳走が山と運ばれ、賑やかな酒盛が始まりました。歌や踊りを楽しんだ浦島は、ただもう夢を見ているようでした。
宴の後、浦島は乙姫様の案内で御殿の中を見せてもらいました。東の戸を開けると春の景色が、南の戸を開けると夏の景色が見えます。そして西の戸を開けると秋の景色が、北の戸を開けると冬の景色が広がっていました。浦島は驚くばかりでしたが、そのうち、ぼうっとしてきて、お酒に酔ったように何もかも忘れてしまいました。
\ココがポイント/
✅竜宮には乙姫様がいた
✅浦島は竜宮で夢を見ているような気持ちになる
✅そのうちに浦島はぼうっとしてきて何もかも忘れてしまう
竜宮で三年の月日が流れ、故郷が恋しくなった浦島
竜宮での毎日は楽しく、あっという間に三年の月日が経ちました。三年目の春に、浦島は久しく忘れていた故郷の夢を見ます。今さらのように「お父さんやお母さんは、今頃どうしているだろう」と思い出して、いてもたってもいられなくなってきました。その様子を見て心配した乙姫様が尋ねます。
「浦島さん、ご気分でもお悪いのですか」
「いいえ、じつは家へ帰りたくなったものですから」
「まあ、それは残念でございますこと。でもあなたのお顔を拝見いたしますと、この上引き留めても、無駄のように思われます」
こう悲しそうに言って、乙姫様は奥から綺麗な宝石で飾った箱を持ってきました。
「これは玉手箱といって、中には人間の一番大事な宝が込めてございます。これをお持ち帰りくださいまし。ですが、あなたがもう一度竜宮へ帰って来たいと思うなら、どんなことがあっても、けっしてこの箱を開けてはいけません」と、くれぐれも念をおして玉手箱を渡しました。
浦島は、「ええ、けっして開けません」と言って、玉手箱を小脇に抱えたまま竜宮の門を出ます。そこには、亀が来て待っていました。浦島が亀の背中に乗ると、亀はすぐ波を切って上がって行って、間もなく元の浜辺に着きました。
「では浦島さん、ご機嫌よろしゅう」と亀は言って、また水の中に潜って行きました。浦島はしばらく亀の行方を見送っていました。
\ココがポイント/
✅竜宮での暮らしは楽しく、あっという間に三年が過ぎた
✅三年目の春に浦島は故郷の夢を見て、帰りたくなる
✅竜宮を去る浦島に乙姫様は玉手箱を渡す
✅乙姫様は、もう一度竜宮に来たいなら絶対に箱を開けてはならないと言った
玉手箱に入っていた「一番大事な宝」とは
浦島が海辺に立ってしばらくあたりを見回していると、どこからともなく、賑やかな舟唄が聴こえました。それは夢の中で見た故郷の景色と同じでしたが、よく見るとそこらの様子がなんとなく変わっていて会う人も見知らない顔ばかり。向こうも妙な顔をしてじろじろ見ながら向こうへ行ってしまいます。
「おかしなこともあるものだ、まあ、早く家へ行ってみよう」
浦島は家の方角へ歩き出しました。ところがそこと思う辺りには草がぼうぼうと茂って、家は影も形もありません。一体お父さんやお母さんはどうなったのでしょうか。浦島は狐につままれたような、きょとんとした顔をしていました。
するとそこへお婆さんがやってきました。浦島は早速、「もしもし、お婆さん、浦島太郎の家はどこでしょう」と声をかけます。お婆さんは怪訝そうに浦島の顔を眺めながら、「へえ、浦島太郎。そんな人は聞いたことがありませんよ」と言いました。
浦島は躍起になって、「そんな筈はありません、確かにこの辺に住んでいたのです」と言いました。そう言われて、お婆さんは、「ああ、そうそう、浦島太郎さんというと、あれはもう三百年も前の人ですよ。何でも私が子供の頃に聞いた話ですがね、ある日舟に乗って釣りに出たまま帰らなかったそうで、多分竜宮へでも行ったのだろうということですよ。なにしろ大昔の話だからね」とこう言って、よぼよぼ歩いて行ってしまいました。
浦島はびっくりしてしまいました。
「竜宮にいたのはたった三年のはずなのに、それが三百年とは。すると竜宮の三年は、人間の三百年にあたるのか。それでは家もなくなるはずだし、お父さんやお母さんがいらっしゃらないのも不思議はない」
こう思うと浦島は急に悲しくなって、竜宮が恋しくてたまらなくなりました。また浜辺へ出てみましたが亀は出て来ず、竜宮へ行く手だてもありませんでした。
その時、浦島は抱えていた玉手箱に気が付きました。「そうだ、この箱を開けて見たら何かわかるかもしれない」
浦島はうっかり乙姫様に言われたことを忘れて、箱の蓋を取りました。すると紫色の雲がむくむく立ち上って、顔にかかったかと思うと箱の中には何も残っていませんでした。その代わりいつの間にか顔中にしわができて手も足も縮こまっています。水に映った影を見ると髪も髭も真っ白なお爺さんになっていました。
浦島は空になった箱の中を覗いて、「なるほど、人間の一番大事な宝というのは寿命だったのだな」と、残念そうに呟きながら、ぼんやりと昔のことを思い出していました。
(おわり)
\ココがポイント/
✅浦島が竜宮から帰るとあたりの様子が何となく変わっていた
✅お婆さんに話を聞くと浦島太郎という人が居たのは三百年前だという
✅竜宮が恋しくなって浜辺に行くが、亀は出て来なかった
✅「何かわかるかも」と玉手箱を開けると浦島はおじいさんになってしまった
✅玉手箱に入っていた宝物は人間の寿命だったのだと浦島は気付いた
子どもと「浦島太郎」を楽しむには?
助けた亀に竜宮へ連れて行ってもらい、楽しく暮らしていた浦島太郎。故郷が懐かしくなって帰ってみると、三百年の月日が流れていたとは驚きですね。だれも見たことのない竜宮の中を歩く場面は、お子さんのワクワクする気持ちをうまく引き出してあげられるとよいでしょう。
お話のあとでお子さんとおしゃべりするときには、
・助けた亀に「竜宮へ連れて行ってあげる」と言われたら、どうする?
・毎日楽しい竜宮での暮らしはあこがれる?
・玉手箱は開けない方がよかったと思う?
などと聞いてみましょう。
また、童謡の浦島太郎を歌ってあげるのも良いかもしれませんね。
まとめ
今回は「浦島太郎」のあらすじを紹介しました。亀を助けたことで別の世界に連れていかれた浦島太郎。竜宮は現実を忘れるほど楽しいことばかりの場所でしたが、その間に実はどんどん年を取っていたのですね。人間には誰しも寿命があるもの。一日一日を大切に生きることを、ぜひお子さんに教えてあげたいですね。
(文:千羽智美)
※画像はイメージです
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