戦闘機のエンジン「推力が大きければOK」ではない?
日本、イギリス、イタリアが共同開発を進める次世代戦闘機「GCAP」。新型エンジンや高性能な電子機器など、さまざまな先進技術の導入が想定されています。ならば、それぞれ最高性能の装備を作って組み合わせれば、優秀な戦闘機が完成するのでしょうか。実際には、それほど単純ではありません。開発関係者への取材からは、「電力」と「熱」をめぐる次世代戦闘機ならではの難しさが見えてきました。
ファーンボロー国際航空ショーで展示されたGCAPの実物大レプリカ(布留川 司撮影)。
戦闘機の性能を左右する重要な装備のひとつがエンジンです。大きな推力を発生できれば、加速や上昇で有利になり、戦闘機としての能力も向上します。ならばGCAPにも、できるだけ強力なエンジンを搭載すればよいと思うかもしれません。
しかし、次世代戦闘機の開発はそれほど単純ではありません。実はGCAPのエンジンには、機体を飛ばす以外にも重要な仕事があります。それが、機内に搭載された大量の電子機器を動かすための「発電」です。
現代の戦闘機には、レーダーや電子戦装置、通信装置、コンピューターなど、多数の電子機器が搭載されています。GCAPではこうした装備がさらに高性能化すると考えられており、それだけ多くの電力が必要になります。2026年7月にイギリスで開催されたファーンボロー航空ショーで、筆者が話を聞いた開発関係者の説明でも、次世代戦闘機では高機能な電子機器によって消費電力が大きくなるため、エンジンについても十分な電力を供給できるものにする必要があると説明していました。
実際、GCAPのエンジン開発に参加するイギリスのロールス・ロイスも、GCAPへと発展したイギリスの次世代戦闘機計画「テンペスト」の研究段階から、将来戦闘機では電力需要と熱負荷が「前例のないレベル」になると説明しています。そのため同社では発電機をエンジン内部に組み込む「E2SG(Embedded Electrical Starter Generator)」技術などを研究してきました。E2SGは発電機をエンジン内部に組み込む技術で、従来よりも省スペースで大きな電力を生み出すことを狙ったものです。
つまり次世代戦闘機のエンジンでは、推力だけでなく「機体へどれだけの電力を供給できるか」も重要な性能となるのです。
では、発電能力の高いエンジンを作れば問題は解決するのでしょうか。そう簡単にはいきません。電力を大量に使えば、今度は大量の「熱」を処理しなければならないからです。
「熱くなるなら冷やせばいい」では済まないワケ
高性能なパソコンほど冷却が重要になるのと同じように、戦闘機でも高性能な電子機器を多数作動させれば、それだけ熱の処理が重要になります。GCAPでは大量の電力を生み出すだけでなく、その電力を使うことで発生した熱を処理する仕組みまで考えなければなりません。
GCAPの推進システムは日英伊の三カ国が「Power & Propulsion System」というコンソーシアムを組み開発を行ないますが、発電や電力管理と並んで「熱管理」を重要な技術として位置付けています。「熱くなるなら冷やして機外へ逃がせばいい」と思うかもしれません。しかしここでもGCAPならではの事情があります。
GCAPは敵から発見されにくいステルス性を重視した戦闘機です。現代では航空機を探知する手段はレーダーだけではなく、機体が発する赤外線を捉えるIRST(赤外線捜索追尾システム)なども存在します。このため電子機器から出る熱を機外に放出すれば、それが赤外線シグネチャーを増大させ、センサーによる探知につながる可能性があり、ステルス性との両立を考慮しなければなりません。
実際、こうした熱の問題はGCAPで初めて生じたものではありません。例えばステルス戦闘機であるF-35「ライトニングII」では、機体内の燃料を電子機器などから発生する熱を受け止めるヒートシンクとして利用しています。
最新技術の「足し算」では完成しないワケ
高性能な電子装備を積めばそれだけ大量の電力が必要になり、その電力を供給するためには、エンジンにも高い発電能力が求められます。しかし、電子機器の消費電力が増えるほど発生する熱も増え、その熱を処理するにはより強力な冷却能力が必要になります。
ファーンボロー国際航空ショーを視察した小泉進次郎防衛大臣は、GCAPの実物大レプリカのコックピットにも座った(布留川 司撮影)。
ひとつの性能を上げれば、それによって別の部分に新たな要求が生まれ、ドミノ倒しのように技術要求が連鎖していくのです。これはGCAPのような次世代戦闘機の開発が簡単ではない理由のひとつです。優秀なエンジン、レーダー、電子戦装置、冷却システム、ステルス技術などを個別に開発し、最後に集めれば最高の戦闘機が完成するわけではありません。
それぞれの装備が互いに影響するため、機体全体をひとつのシステムとして成立させる「統合」が必要になります。次世代戦闘機に求められる能力を実現するには、個々の技術を進歩させるだけでなく、それらを互いに成立させながら、一機の戦闘機としてまとめ上げることも重要になります。「電力」と「熱」の問題は、その難しさを象徴する一例といえるでしょう。
最新技術を「足し算」するだけでは、次世代戦闘機にはならない。GCAPでは、それらをどう共存させるかが開発の成否を左右します。
