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日本初の公営乗合自動車「円太郎バス」がなぜか今ごろ国重文に指定されたワケ

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公営乗合自動車として現存する最古の車両

 2020年3月、とあるクラシックバスが国の重要文化財に指定されました。

 それは大正時代、日本で最初の公営乗合自動車(乗り合いバス)として都内を走った「円太郎バス」です。名前は「円太郎」と、まるで「機関車トーマス」のようにおちゃめですが、自動車としては初の快挙なのです。

2011年に江戸東京博物館で開催された都営交通100周年記念特別展「東京の交通100年博~都電・バス・地下鉄の“いま・むかし”」で展示された「円太郎バス」(画像:東京都交通局)

 国の重要文化財に指定された理由は、わが国最初の公営乗合自動車として現存する最古の車両であり、円太郎バスの唯一現存する車両で、交通史上や社会史上において貴重であるためです。

 そんな貴重な車両であれば、これまでなぜ指定されていなかったのかーーと疑問が湧きます。

 日本はひとつの国家として長い歴史を有し、さらに昔から識字率が高く、朽ちにくい和紙につづられた膨大な古文書が国中にあふれかえっています。

 そのほかにも、地方に行けば知られていない古墳や古刹(こさつ)、古民家があり、重要文化財や国宝級の指定待ちといった寺社や仏像などがまだあります。近代遺産にはなかなか順番が回ってこないのでしょうか。

産業遺産を維持する難しさ

 ということで、「円太郎バス」を国の重要文化財に指定した文化庁にその辺りを聞いたところ、近代の産業遺産を評価する流れは平成に入って必然的に起こったのだといいます。

 建造物や古文書などと異なり、自動車や機械といった産業遺産は維持費などの経済的観点から維持することが難しく、50~100年といった目安で指定しないと文化財として守ることができないのだとか。

大正時代のイメージ(画像:写真AC)

 現在、明治時代や大正時代の産業遺産にタイムリミットが迫っており、そういった意味で「円太郎バス」は廃棄される前になんとか指定が間に合ったとのことです。

「円太郎バス」が国の重要文化財に指定されたことによって、近代を再評価する流れが国内に起こるきっかけになって欲しいものです。

TT型フォードが車種に採用された理由

TT型フォードが車種に採用された理由

「円太郎バス」は、1923(大正12)年9月1日に発生した関東大震災で壊滅した路面電車に代わって、「東京市営乗合バス」(現在の都営バス)に導入されました。

スタイリッシュで機能的な現在の都営バス(画像:橘和)

 東京市営乗合バスは1924年1月18日から営業を開始し、巣鴨~東京駅間と渋谷~東京駅間を運行しました。なお東京都交通局は1月18日を、「都バスの日」に制定しています。

 車種は当時一世を風靡(ふうび)した量産型乗用自動車「T型フォード」の商業用で、主に1tトラック用として開発量産に成功した「TT型フォード」。その荷台にベンチシートを装備し、11人乗りの乗り合いバスに仕立て、計800台導入されました。

 TT型フォードが採用されたのは、比較的安価で、11人乗りというかなり小型だったためです。震災によって寸断された道路を避け、路地も小回り良く走らなければいけない事情にマッチしていたのです。

 いずれにしても、乗り心地は二の次。それだけ急ごしらえのバスで、乗り心地は実際相当悪かったのです。バスだけでなく運転手も急ごしらえで、失職した市電の運転手の中から選抜して教習した「にわか仕込み」だったため、市中での交通トラブルも少なくありませんでした。

「円太郎」の由来とは

 さてこの「円太郎バス」という名前ですが、当初からの公式名称ではありませんでした。

 先の明治時代に交通機関として利用されていた乗り合い鉄道馬車の愛称「円太郎馬車」に、形や乗り心地の悪さ、粗末さが似ていたことからいつしか庶民の間で、そう呼ばれるようになりました。

 なお「円太郎馬車」の「円太郎」は、明治時代に一世を風靡した落語家「四代目橘家圓太郎」から付けられています。

歴史のある芝居小屋のイメージ(画像:写真AC)

 四代目橘家圓太郎は滑稽な音曲噺(おんぎょくばなし。楽屋の三味線、鳴物をとり入れて演ずる落語)を得意としていました。中でも鉄道馬車の厩務員(きゅうむいん)の吹くラッパを出囃子(でばやし。演者を高座に導くための背景音楽)に使ったり、厩務員の形態模写をしたりして人気者となっていました。

 当時の落語家は現在の人気テレビタレント並みか、それ以上の影響力があったため、落語に取り上げられた庶民の文化が歴史に残ったというわけです。

都営バスのゆるキャラに打ってつけ?

都営バスのゆるキャラに打ってつけ?

 前述の通り、円太郎バスの現存する車両は1台限りで、現在のところはどこにも展示されていません。

 東京都交通局の広報に問い合わせると、現在は倉庫に静かに眠っているとのことでした。なぜ車両をもっと残さなかったのかと質問してみると、当時も現在も使用期限の終わった車両は処分する、とのことでした。

「円太郎バス」の車体寸法。全長4.63m、全幅1.57m、全高2.26m(画像:東京都交通局)

 当時の乗客も、まさかこんなガタピシ走るバスが100年後に国の重要文化財になるなんて夢にも思わなかったことでしょう。

 公開されている円太郎バスの写真を改めて見ると、なかなか女性受けしそうなおしゃれなクラシックな作りをしています。「Yentarou」と字を添えて、Tシャツなどにポップにデザインすれば人気が出るかもしれません。それこそ、「円太郎クン」という名前のゆるキャラを都営バスで展開してもよいですね。

 ということで最後に、落語と都営バスにちなんで小噺(こばなし)を。

「都営バスってのはなんでも目的地に早く着くんだってね」
「へぇ~なんで?」
「だって都バス(飛ばす)っていうじゃないですか」

 おあとがよろしいようで。

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