空母から艦載機が発進する際、カタパルトに乗せられた機体の後部には大きな“板”が立ち上がり、壁が出現します。これはどのような役割があるのでしょうか。
「ジェット・ブラスト・ディフレクター」という名前
アメリカの原子力空母から艦載機が発艦する際、カタパルトに乗せられた機体の後部に甲板から謎の板が立ち上がり、壁が出現します。これはどういった役割を持っている装備なのでしょうか。
空母から発艦しようとするアメリカ海軍の艦載機。矢印部分JBD(画像:アメリカ海軍)。
甲板上に出現するこの板は、名前を「ジェット・ブラスト・ディフレクター」といい、「JBD」とも略されます。ジェットエンジンの噴射によって発せられる爆風から、後続の艦載機や後方の甲板作業員を熱や爆風から守る働きがあります。
導入された経緯としては、1940年代後半の第二次世界大戦終結直後にさかのぼります。戦後から急速に軍用機のジェット機化が進み、空母艦載機もジェット機になっていきますが、ひとつ問題がありました。ジェットエンジンは機体後方に高熱のジェットブラスト(排気)を発生させるために、後方で待機している後続機に損傷を与えたり、甲板作業員が拭き飛ばされたりする危険性があります。
空母の甲板上という限られたスペースで、安全に艦載機を発艦するために考え出されたのがJBDで、1950年代前半に登場しました。最初は、現在のように甲板と一体型の起倒式ではなく、普段は甲板内に収納し、発艦を行うときだけ、せり上げて使うタイプでした。
起倒式になった経緯としては、艦載機のエンジンが高出力化していくなかで、さらに強烈な爆風に耐えるためという理由があります。アメリカ海軍の場合、登場当初、JBDは小型の金網状のものでしたが、強烈なジェットブラストを避けるため、機体が後方からJBDで見えなくなるほど大型化していきます。
こうなるとJBDを甲板内に収納することは困難で、普段は飛行甲板の一部として使う形となります。加えて、熱や爆風が左右から漏れるとそれも事故の元になるため、斜め上に逃がすことを目的としたJBDの形になり、現在に至ります。
さらに、1300度以上といわれるジェットエンジンが発する熱に耐えるため、1970年代からは金属製のデフレクターパネル内を海水がパイプを通して循環する冷却システムが導入されます。そして2008年からは、スペースシャトルにも使われた耐熱セラミックパネルで表面を覆ったJBDも登場しました。
しかし、こうした様々な工夫にも関わらず、熱の影響によるJBDの消耗は激しく、頻繁にメンテナンスや交換が必要なようです。
旅客機が離発着する空港にも実はある!
実はJBDは民間機が離発着する空港にも設置されています。登場はJBDの製造を行っているブラストディフレクターズによると1957年とのことで、空母とほぼ同時期に出現しました。スタッフが行き来する構造物やクルマの走る道路が隣接している場所、滑走路の先頭などに設置されています。
登場当初、旅客機用のJBDは高さ1.8~2.4mが通常でしたが、こちらも空母艦載機と同じく、機体の大型化やエンジン出力向上などにより大型化していくことになり、現在は2倍の高さのJBDが使用されています。
形状は空母用と同じく、斜めに倒れた状態のもののほか、湾曲状になったものや、金網状で垂直に立っているものなど、使う場所などによって様々な形があります。
タイのバンコク空港に置かれている旅客機用のジェット・ブラスト・ディフレクター(画像:ブラストディフレクターズ)。
なお使用されている素材に関しては、ブラストディフレクターズによると、ジェットブラストの近くでも問題ない、耐熱性の高い溶融亜鉛メッキ鋼板のほか、ステンレス、カーボン、アルミニウム、ポリカーボネートなど、こちらも使う場所によって様々なようです。