TBSから独立して7カ月。フリーアナウンサーの宇垣美里さんが、さまざまな顔を見せています。10月末に行われた「池袋ハロウィンコスプレフェスタ2019」では“銀髪ケモ耳”の人狼コスプレで注目を浴びました。コスプレ界のカリスマ・えなこさんも、
「初めてお会いしたのですが、ストロベリーパニックの静馬様を知った時と同じ衝撃が走って宇垣様…ってなってた…麗しい」
と、ツイッターで絶賛。また「レノアビーズ メンズセレクション」のCMでは、かれんで色っぽい先輩社員役を演じています。
かと思えば、10月30日放送の「太川蛭子の旅バラ」(テレビ東京系)にマドンナ役で登場。蛭子能収さんに鋭いツッコミを入れるなど、バラエティータレントとしての適性を発揮しました。
自我の強さが放つ魅力と存在価値
とまあ、いろいろ活躍中なのですが、意外なのは“本業”が目立っていないこと。田中みな実さんや加藤綾子さん、小川彩佳さん、有働由美子さんらがそれぞれ、古巣や他局でMCやキャスターをしているのとは対照的です。そこには恐らく、宇垣さんの独立をめぐる経緯やその後の言動も関係しているのでしょう。
一説には、局アナ時代、ジャニーズタレントとの熱愛報道でレギュラー番組を降板させられた際、それを直前に伝えられたことに納得できず、その場でコーヒーを流しにぶちまけたという一件などが尾を引いているとも。7月12日放送の「ダウンタウンなう」(フジテレビ系)では、「この話が外に出ている時点で(TBSの)民度が知れる」と発言しました。
こうしたことが、一部のメディアで言われている「扱いづらいアナ」という印象をテレビ業界全体に広めてしまっているのでは、というわけです。
しかし、そこにこそ、彼女の魅力や存在価値があるともいえます。本人もそれが分かっているようで「週刊プレイボーイ」のインタビューでは、こんなことを言っています。
「アナウンサーという仕事に関しても、もちろん大好きな職業なんですけど、それを選ぶには私は自我が強すぎるなって思っています(中略)『はい、わかりました~』って全部受け入れていたら、魂が死ぬって思っているんです」
また、大好きだという「カードキャプターさくら」について「私の精神、そして愛のカタチはこの作品によって形作られたといっても過言ではない」(週刊文春)と語りました。子どもの頃から「いわゆる女性が戦うアニメが好きだったんですよ」と言う彼女はまさに“戦闘系”女子アナ。戦場も戦い方も、自分で決めたい人なのです。
ここじゃないどこかを夢見て生きる
ちなみに中学時代、吹奏楽部に入った彼女は顧問から、「主役か、脇役、監督に脚本家。あなたはどれになりたいの?」と聞かれ、「誰よりも印象に残る悪役で」と答えたそうです。「ダウンタウンなう」での振る舞いも、ヒールをちょっと演じてみたというところかもしれません。
そういう意味では、キャスターやMCより、コメンテーター向きといえます。それこそ、小泉進次郎さんと滝川クリステルさんが結婚した際には、
「けんかしたらすごそう」
と、コメントして話題になりました。
しかも、彼女の戦場はテレビだけにとどまりません。もともと、独立しても仕事がなければ、パン屋でも営業職でも何でもやるつもりだったといいます。「私にとって仕事は『生きる意味』でもある」(JJ)と言うほどなので、結婚して専業主婦にという展開は当分なさそうですが、フリーアナらしさに縛られるつもりもないようです。
だからこそ、コスプレやエッセーといった活動にも力を入れているのでしょう。彼女は中学時代、図書室の本を全部読もうとしたほどの読書家で、文才にも並々ならぬものがあります。「私には私の地獄がある」「自分で楽しくしなきゃ死ぬ」などの発言で闇っぽいと評される一面も、エッセーにはこんなふうにつづられています。
「回遊魚のように、止まったらそこで息ができなくなって死んでしまう気がして、いつもここじゃないどこかを夢見て生きている」(クイックジャパン)
この感覚、分かるという人も多いのではないでしょうか。自分が本当に楽しめることを目指してさまよう日々。彼女の戦いは自分の居場所を見つけるためのものであり、今どきの女性の生き方を代弁しているようにも思えます。
そんな宇垣さんは、これからもさまざまな顔を見せていくことでしょう。そう、彼女は日々をちょっとでも楽しくするために、衣装だけでなく人生そのものをコスプレするのです。
作家・芸能評論家 宝泉薫