海峡や沿岸の埋立地に架かる橋は、吊り橋がよく採用されています。その理由はどこにあるのでしょうか。
ケーブルで支えるからこその特徴が
九州と本州を結ぶ新たな道路「下関北九州道路」の計画が進んでいます。関門海峡には新たに巨大な吊り橋が作られる予定です。
海峡や沿岸の埋立地などへクルマで渡る道路を作る場合、巨大な橋をかけるかトンネルを通すしかありません。よほど海峡の環境が過酷ではなければ、橋を通すケースが多いですが、橋の中でも使われるケースが多いタイプが「吊り橋」です。吊り橋はなぜ海をまたぐ橋としてよく使われるのでしょうか。
中央支間で世界2位の明石海峡大橋(画像:本四高速)。
吊り橋の歴史は古く、人類の文明が生まれた頃には存在していたのだそう。金属製の吊り橋が登場したのは、引っ張りに強い鉄鋼素材が開発された18世紀以降で、現在のような長大な吊り橋は1883年に完成したアメリカのブルックリンブリッジが最初と言われています。
ブルックリンブリッジに代表される長大な吊り橋は、橋脚から天高く突き出た主塔を有する構造が多いですが、この橋脚そのものが橋を支えているわけではありません。主塔と主塔のあいだに渡されたメインケーブルと、そこから垂らされたハンガーロープで橋を吊っています。さらに、橋を吊るメインケーブルは、橋の両端の地上に設置された巨大なアンカーレイジというもので繋ぎ止められており、その張力で橋の形を維持します。
ではなぜ、海峡などに吊り橋がかけられるのか、理由のひとつとしてケーブルからの吊る力によって支えられているため、橋脚を少なくして、支間(橋脚と橋脚のあいだ)を長大にすることができるからです。
船舶との事故を避けるためにも吊り橋は適任!
日本で一番長い橋は東京湾アクアラインのアクアブリッジで、長さは4425mになりますが、42基もの橋脚で橋を支えています。対して、橋の長さでは3911mと及ばない吊り橋の明石海峡大橋は、主塔が2基しかありません。なお、同橋の中央支間長(塔と塔の距離)は1991mで、これは世界2位の長さとなります。
なぜ橋脚を少なくするかというと、海峡などでは、橋を通す全ての海域で水深が一定でないケースも存在するからです。水深の深い場所に橋脚を作ろうとするほど余計にコストがかかってしまいます。
加えて海峡の場合、潮流と周辺を航行する船の多さなども吊り橋が採用される大きな理由となっています。潮流が速い場合、船舶があらぬ方法へと流される可能性も高くなります。こうした場所に橋脚の多い橋を建造すると、それだけ船舶が橋脚にぶつかる可能性も高くなります。また、橋脚で海峡がふさがれてしまうと、多くの船舶で混雑するほか、船幅が広い船は通れない可能性も出てきてしまいます。
大鳴門橋が架かる鳴門海峡や、明石海峡大橋が架かる明石海峡などは、凄まじい流れの潮流になることがあるため、あえて吊り橋を採用しているのです。
渦でお馴染みの鳴門海峡に架かる大鳴門橋(画像:写真AC)。
ちなみに、首都高のレインボーブリッジは吊り橋ですが、横浜ベイブリッジは、吊り橋のように見えて「斜張橋(しゃちょうきょう)」と呼ばれ、厳密には吊り橋と区別されています。
※一部修正しました(7月15日12時10分)。