JR吾妻線の廃線跡を自転車型トロッコで走る「アガッタン」
鉄道はクルマと違い、自らの手で運転できる機会はほとんどありません。しかし、実際の鉄道車両を用いた運転体験会や、廃線跡などを軌道トロッコや自転車型トロッコで走る体験型施設が全国各地に展開しています。
アガッタンで通過する「樽沢トンネル」(遠藤イヅル撮影)
そのひとつが、群馬県吾妻郡東吾妻町の「吾妻峡レールバイク アガッタン」です。渋川駅(群馬県渋川市)から大前駅(群馬県嬬恋村)を結ぶJR吾妻線の旧線区間を、自転車を使用した足こぎトロッコ「レールバイク」で走ることができます。
吾妻線は廃線ではなく現在も営業中ですが、八ッ場(やんば)ダム建設に伴い、岩島駅〜長野原草津口駅間の一部がダム湖湖底に沈んでしまうため、新線への切換工事が2014年に行われました。アガッタンは、この旧線のうち約2.4kmを利用した「新感覚のレールアトラクション」として、2020年に開業しました。
アガッタンでは、「渓谷コース」を乗車できます。この区間が風光明媚な国指定名勝「吾妻峡」を眺めながら走れることから名付けられています。コースには現役時代とは異なる独自駅「雁ヶ沢(がんがさわ)」と「吾妻峡八ッ場(あがつまきょうやんば)」の2駅を新たに設けています。なお過去には、「田園コース」も設定されていました。
便数は最大で1日5往復。筆者が2026年のゴールデンウィークに乗車した際は、雁ヶ沢駅発のちょうど良い時間の予約が受付終了だったので、吾妻峡八ッ場駅から雁ヶ沢駅へと向かう「上り」である11:25分発の「4便」を選択しました。
出発時間の15分前までに受付しなかった場合は予約キャンセルとなってしまうので、筆者は30分ほど前に駅に着くようにしました。出発時間が近づいてきたので、ヘルメットをかぶって駅前のテント内で待機します。すると駅の向こうからバイクを改造したトロッコを先頭に、自転車型トロッコの列がやってきました。駅に到着すると、スタッフが素早くその場で方向転換を行い、乗車準備を整えてくれます。
そしていよいよ乗車。この時乗ったのは、最後尾から2番目のトロッコでした。トロッコは自転車の間に補助シートを備えており、手荷物をその下に収納できます。自転車は電動アシストタイプで、アシスト量などは設定済みです。
「日本一短かったトンネル」をトロッコで通過!
発車時刻を迎え、最前列の先導車が出発。前車が発車したので足に力を入れて漕ぎ出すと、トロッコはスムーズに動き出しました。車間距離は任意ですが、20mほどあけて進んでいきます。 発車すると径の大きな右カーブを進みます。雁ヶ沢駅へは下り勾配が続くので、漕ぐ力もあまり必要ありません。
架線柱もそのまま残る(遠藤イヅル撮影)
切り通しを抜けると、前方にトンネルが現れます。全長432mの「道陸神トンネル」です。トンネルの中にはイルミネーションが施されており、幻想的な雰囲気に包まれています。なお「道陸神」とは、道路の悪霊を防いで旅人を守護する神、とのこと。
そして次はアガッタンの目玉であり、大きな楽しみの一つである「樽沢トンネル」を通ります。鉄道ファンの中には、「あの樽沢トンネル!」と反応した人もいることでしょう。全長わずか7.2m「日本一短いトンネル」として知られたトンネルです。速度が遅い自転車型トロッコでも、あっという間に通過してしまいました。
吾妻線名物でもあった樽沢トンネルを、自らが運転した乗りもので通れるのですから、とても貴重な体験といえます。なお現在、現役の「JRおよび鉄道路線で日本一短いトンネル」の座は、これまた全長8.7mしかないJR呉線の「川尻トンネル」に譲り渡しています。
長さ104mの松谷トンネルを抜けると、ゆるいS字カーブに入ります。廃線区間といえども、レールや枕木に大きな傷みは見られず、頭上には架線も張られたまま(場所によっては、ちょっと垂れちゃっていますが)。線路脇には「距離標」や「制限速度標識」、さらには「高崎鉄道管理局」と記された看板も残っており、まるで現役路線を走っているようです。
左手に建つ「十王堂」という小さなお堂を過ぎると、コース内唯一の踏切「松谷上組踏切」を迎えます。ただし鉄道と違って車道側が優先。踏切手前で必ず一時停止を行い、左右を確認してから進みます。
その後、線路上からは見えないものの煉瓦積みの橋脚を持つ「平沢橋梁」、続いて「第2松谷橋梁」「第1松谷橋梁」を渡ると、左手には巨大な2本の導水管、右手には1931(昭和4)年に群馬水電が建設した松谷発電所(現:東京電力ホールディングス松谷発電所)を見ることができます。
すると間も無く「もうすぐ終点 ブレーキ準備」のサインが現れ、「上り」の終点、雁ヶ沢駅に到着。指示に従ってトロッコを停車させ、下車します。徒歩数分のところに建つアガッタンの雁ヶ沢駅側受付に向かい、ヘルメットを返却して終了です。
レールの継ぎ目を通過するたびに「ガタン、ゴトン」と足元から音が響く中、爽やかな風を受けての乗車はとても気持ちいいものでした。なお、雁ヶ沢駅からスタートの場合は、吾妻峡八ッ場駅に向かって上記と逆順で景色を楽しめます。
予約はとにかく早い方がいい!?
アガッタンへのアクセスは、クルマがメインとなります。雁ヶ沢駅から乗車する場合は、アガッタンの受付がある「吾妻峡周辺地域振興センター」に無料駐車場が約15台分用意されています。前述の通り、雁ヶ沢駅までは受付から徒歩で数分かかります。
美しく水を湛える八ッ場ダム。湛水面積304ヘクタール、総貯水容量1億750万立方メートル、有効貯水容量9000万立方メートル(遠藤イヅル撮影)
一方の吾妻峡八ッ場駅は、2020年3月に完成した八ッ場ダムの堤体直下にあるため、八ッ場ダムの駐車場にクルマを停め、ダムのエレベーターで下に降りて駅に向かって受付を行います。こちらは駅と受付が同一です。
アガッタンへの乗車は予約が優先。予約は片道のみです。往復する場合は片道ずつの予約が必要ですが、吾妻峡沿いに遊歩道が約2.5km整備されているので、「片道は歩いて帰る」ことも可能。おおむね40分ほどの散策です。なお筆者訪問時には、雁ヶ沢駅〜吾妻峡八ッ場駅の間をシャトルバス(有料)が運行されていたので、吾妻峡八ッ場駅へ戻る際は、このバスを利用しました。
予約は専用予約サイトまたは電話にて。3か月先の月末まで予約ができますが、電話の場合、休業日は対応していません。季節や曜日によって1日あたりの便数も変動しますので、休業日ともども、アガッタンの公式ホームページで必ず確認を行ってください。
トロッコの運転は必ず2名1組で自転車を漕ぎます。身長130cm以上あれば運転できますが、漕ぐのが2名とも中学生未満のペアはNGです。乗車料金は、筆者が乗った「3人乗り電動アシスト自転車型トロッコ」で片道3000円、往復だと5000円(どちらも1台あたり)です。
補助シートを使えば3人乗りも可能。4人乗りタイプも用意されており、こちらは片道3500円/往復6000円(同)です。料金は当日の受付時、現金で支払います。
記事を書いている7月下旬の時点で、夏休み期間の予約はかなり埋まっています。とくに雁ヶ沢駅発の「下り」は人気が高く、時間的にちょうど良い10:45分発の便は高確率で受付を終了しています。しかし雁ヶ沢駅15:45発の最終便や、吾妻峡八ッ場駅発の「上り」便全般、さらに8月下旬は上り・下りともに予約が比較的空いているようです。早めの行動が吉なのは間違いありません。
2026年におけるアガッタンの営業は、12月上旬までとアナウンスされていますので、夏休みが終わってから訪ねてみるのもよいでしょう。秋の紅葉シーズンもきっと素晴らしい渓谷美を堪能できるはずです。
