ボーイングの新鋭戦闘機、F-15EX「イーグルII」をめぐり、ボーイングがファンボロー航空ショーで珍しい展示方法を用いました。
ミサイルマシマシはまるでハリネズミ F-15EX
ボーイングの新鋭戦闘機、F-15EX「イーグルII」は、現在米国内で量産機配備に向けた試験が続いています。そのようななか2024年7月に行われた英国ファンボロー(ファーンボロー)航空ショーでは、EXと銘打った看板を、ほぼ同規格のカタール空軍F-15QAの脇に立てて展示するという、ちょっと紛らわしい方法でアピールが行われました。
しかも、展示場所は米国防省所管の機体と柵1枚を隔てて隣という、いわば“官庁公認”の状態。しかも露出方法も異例です。このような演出をなぜ行ったのでしょうか。
ファンボロー航空ショーで展示飛行を行ったF-15QA(相良静造撮影)。
F-15EXは、航空自衛隊のF-15J、DJなど、それまでのF-15シリーズの中身を一新し、操縦系統に電気信号を用いてパイロットの操作を機体に伝える「フライ・バイ・ワイヤ」を取り入れています。兵装も、それまで使われなかった左右主翼の外側パイロン(兵器吊り下げ架)を開放し、空対空ミサイルを搭載できるようになりました。これはQAも同じで、ミサイル搭載数はなんと12発。フル装備の状態は、まるでハリネズミのように尖ったシルエットになりました。
同ショーでボーイングは、F-15QA(QA535)を地上展示。この機はハリネズミのような重装備に加え、左右の主翼下と胴体脇に密着する燃料タンクも加えるという重装備でした。さらに飛行展示も行われ、ショー初日に飛んだF-15QA(QA538)は燃料タンクこそ付けませんでしたが、ミサイルを12発搭載したまま急上昇や90度の水平旋回、水平飛行で機体を横に回転させる素早い動きなどを見せたのです。
ただ、この航空ショーでの披露方法が、さらに異例なのはここからです。
「全部のせ」だけにとどまらないF-15最新型の見せ方
ファンボロー航空ショーの2日目には、別のF-15 QA(QA536)が、ミサイルも燃料タンクも搭載しない、いわゆる「クリーン形態」で登場しました。ここでは前日のフル武装したQAと同じように急上昇や急旋回を繰り返しています。まるで、ミサイルを外部に吊り下げようとしまいと、パワフルぶりに違いはないとアピールしているかのようでした。
ボーイングがF-15 QAを用いて、こうした異例の演出を行った背景には、ロシアによるウクライナ侵攻により欧州に生まれた強い警戒感に商機と見出したためと、筆者は推測しています。
自国の確固たる防衛の構築には、ステルス性能こそF-35に適わないもののミサイル搭載数は上回り、パワフルぶりも負けないF-15EXが適していると、ほぼ仕様が同じF-15 QAを用いながらボーイングはアピールしたのです。
今回のショーでボーイングは、民間機部門においてテスト機カラーの「777X」「737MAX10」のふたつの最新鋭機の出展を自粛しています。そのような、民間機部門のアピール低下をカバーするために、F-15EXをアピールしたい考えもあったのでしょう。F-15EX・QAを少なくとも3機を持ち込んだのも、その表れと見てよいでしょう。
なお、実際、ボーイング関係者はショー期間中、筆者の取材に対して「F-15EXに焦点を当てて展示した」と話していました。今回のユニークな展示方法は、明らかな狙いがあったと見られます。