出産後、いよいよ赤ちゃんとの新生活が始まる……と思った矢先に「毎日イライラが止まらない」「細かいことが気になってしまう」といった精神的な不調、いわゆる「ガルガル期」に陥ったことのあるママは少なくないようです。中には「夫に赤ちゃんを触られるのが嫌で仕方なかった」など不安定な状態を経験したママもいるようですが、産後の「ガルガル期」はなぜ起こってしまうのでしょうか。産婦人科専門医の本多釈人さんに聞きました。
「完璧なママ」を目指さないこと
Q.産後のママに起こることのある、いわゆる「ガルガル期」とは何ですか。
本多さん「『ガルガル期』とは、産後のホルモンバランスの乱れにより、精神状態が不安定になる時期のことです。出産、慣れない育児なども加わって起こるもので、いわゆる『マタニティーブルー』の一種であるともいわれています。ママが赤ちゃんを守ろうとする防衛本能が強く働くことが原因で、産後の女性なら誰にでも起こり得るものです。医学用語では、産後のこの時期を特に『産褥(じょく)期』といいます。なお、『ガルガル期』は医学用語ではありません。
症状としては、『ささいなことでイライラしてしまう』『警戒心が強くなり、感情がコントロールできなくなってしまうことがある』『必要以上に攻撃的な態度を取ってしまう』などが挙げられます。
ガルガル期は産後間もない時期から始まり、早くて1〜3カ月程度で落ち着くといわれていますが、個人差があり、半年以上続く人もいます。特に、授乳期間中はホルモンバランスに左右されやすく、イライラのピークを迎えるママが多くみられるようです」
Q.「ガルガル期」に陥りやすいママの特徴はありますか。
本多さん「先述の通り、ガルガル期は産後の女性なら誰にでも起こり得ますが、中でも陥りやすいと考えられるママの特徴として、次の2点が挙げられます」
【完璧主義な人】
頑張り屋で完璧主義な人ほど「一人でうまく育児をしよう」と考えがちになるので、ガルガル期に陥りやすいと思われます。しかし、子どもを一人で見ることは、赤ちゃんにとってもママにとっても、よいことは何もありません。もし、周りに頼る人がいない場合は、ベビーシッターなど子育てのプロに相談するのも一つの手です。
【疲れがたまっている人】
寝不足やワンオペ育児などで疲れがたまっているケースも、ガルガル期に陥りやすいと考えられます。産後は、頻回授乳や夜泣きなどで寝不足になっている人も多いはずです。昼間、赤ちゃんが寝るタイミングで一緒に睡眠を取るように心がけてみましょう。
Q.もし、ママ本人や周囲が「ガルガル期が始まったかも…」と思ったとき、どうすればいいですか。
本多さん「第一に、『周りの人に頼る』ことを意識してください。育児は、可能な限り周囲の人の助けを得ながら行っていく方が、ママと赤ちゃん双方にとっていいことが多いものです。まずは、家族やパートナーに頼ってみましょう。『人に頼ることは悪いことではない』と気付くことが第一歩です。
赤ちゃんと2人きりの時間を長く過ごしているうちに、イライラが止まらなくなったり、涙が出てきたりしたら、それは疲れやストレスによって心身が疲弊しているサインです。パートナーや家族に赤ちゃんを預けて、趣味の時間を過ごしたり、友人と話したりするなど、自分の好きなことをする時間をつくって気分転換することも重要です。
そして、『完璧なママ』を目指さないことです。ママがいつも神経質な状態でいると、その気持ちは赤ちゃんにも伝わってしまい、双方にとってよくありません。『手抜きできることはできるだけそうする』と意識することで、きっと肩の力が抜けるでしょう。
また、自分がガルガル期であることを周囲に伝えるのもいい方法です。パートナーや家族などの身近な存在には、イライラからつい当たってしまったり、きつい言葉を言ってしまったりしやすいものですが、今、自分がガルガル期であることを含め、『◯◯をされると不安になる』『□□なことが嫌だ』など、今の自分の気持ちを素直に伝え、共有していくことが大事です。周囲に気持ちを理解してもらえると安心につながり、症状が軽快することもあるでしょう」
周囲の人も「ガルガル期」について学ぼう
Q.その他、「ガルガル期」に関して、産婦人科医の立場からアドバイスをお願いします。
本多さん「パートナーなど周囲の人が、『優しかったママの態度が急に変わってしまった』と感じたときは、『産後のガルガル期かも?』と理解してあげることが大事です。周囲の人もガルガル期のことをしっかり学び、ママのいつもとは違う言動・様子を理解して寄り添ってあげましょう。『どう対処すればいいのか分からない』と、ママと距離を取って仕事や自分のことを勝手に頑張るのでは逆効果です。ママの気持ちと状態を理解していること、力になりたいと思っていることを言葉で伝え、『どんな気持ち?』『何をしてほしい?』『何をされたら嫌?』などをよく話して、積極的に自分からママと関わるようにしましょう。
そして、ママが疲弊している状態を少しでも察知したら、一人で気分転換できる時間を取れるよう配慮することです。パパ一人で赤ちゃんを見るのが難しいなら、積極的にベビーシッターなどを活用してみてください。
ガルガル期は産後直後から起こり得ますが、『いつかは終わりを迎えるもの』ということをママ本人も周囲の人も理解することが大事です。ママ自身のせいではなく『ホルモンのせい』であり、どうしようもないことを理解しましょう。
また、中には『ガルガル期だと思っていたら、実は“産後うつ”だった』というケースもあります。少しでも『おかしいな』と思ったら、近くのメンタルクリニックや、出産した病院または近くの産婦人科、自治体の助産師など、専門家に相談してください」
オトナンサー編集部