卓球女子・元日本代表の福原愛さん夫妻の話題がメディアをにぎわせています。結婚前からラブラブな様子が報道されていた夫婦だけに、夫の「モラハラ疑惑」と愛さんの「不倫疑惑」は刺激が強いニュースです。
このニュースが出てからというもの、私の元に「“モラハラ夫”って本当にそんなにいるものですか?」「うちの夫のケースもモラハラになりますか?」という問い合わせが多く寄せられています。そこで今回は「モラハラ夫」の現実をご紹介しましょう。
「学歴」で見下す夫
モラハラ行為をする夫は家庭内でしか、その“顔”を見せていないケースが圧倒的多数です。表の顔を知っている人がその言動を知ると「まさか、そんなことをあの人が?」と驚くことがよくあります。
仲が良かった義理の両親に妻が「ある日、夫にこんなことを言われた」とモラハラ話をしたら、「あんなに優しい○○がそんなことを言うわけがないわ。もし本当なら、あなたが何かしたのでしょう」と言われ、一気に義父母と距離ができてしまったという話も聞きます。親やきょうだいもそんな姿を見たことがない、社会的には普通の人、しかし、実態は…というケースです。
2つの事例を見てみましょう。
佳代さん(仮名、36歳)は30歳のとき、3つ年下の夫と結婚しました。共通の趣味であるサーフィンがきっかけで知り合い、順調な交際期間を経て、お互いの友達とも仲良くなります。家に友人を招いて、パーティーをすることもしばしば。
2人の子宝に恵まれ、お互いの両親とも円満で都内に家も購入。長い休みには家族旅行も欠かさない、いわゆる、「周囲もうらやむ幸せ家族」に見えました。しかし、実際は夫にばかにされ続ける毎日でした。
高学歴の夫は、専門学校卒の佳代さんを最初から見下していたようです。「佳代は本当にばかだな」「何でそんなことも知らないの?」「これ常識でしょ」という上から目線の言葉を結婚前から言われていました。しかし、佳代さんは「彼は頭がいい。年下だけど頼りになる」と逆に良い印象を持っていたのです。
結婚後、夫の高飛車態度はますますエスカレート。特に、子どもが生まれてからは佳代さんの意見は全て却下。子育てに関して、一切意見を言えない状態でした。
例えば、「地元のお友達と伸び伸び遊ばせたいから、お受験をさせる必要はない」と思っていた佳代さん。しかし、受験させる派の夫は「佳代みたいな何も分かっていない大人になったら、結衣(仮名、3歳)が損する。おまえはたまたま、俺と結婚できたからいいけど、普通は高学歴同士が結婚するものだし」と言い放ちます。佳代さんは全く反論できませんでした。
モラハラ夫たちの共通点は、パートナーの人格を否定しているという自覚が全くないことです。今どき、職場で言えばパワハラだと訴えられるような威圧的なせりふを日常的に家庭で口にします。全てにおいて否定され続けた佳代さんはいつしか、「自分は価値のない人間なんだ」と思うようになりました。
ある日、佳代さんの友人が「旦那にね、『おまえ、ばかじゃないの?』って言われて、めちゃくちゃ腹が立って家出しようかと思った」と話しました。「えー、うちなんてしょっちゅうだよ」と話す佳代さんに友人は「その状態はおかしい」と指摘したのです。
「あなた、腹は立たないの?」と問われ、「自分がばかだからしょうがないとのみ込んでいる」と告げると、友人は「それって、モラハラ洗脳じゃない? このままだと、うつ病になるよ」。佳代さんはその後、私の運営する恋人・夫婦仲相談所に来ました。
佳代さんは美容師の資格を持っていましたが、現在は専業主婦。自分は稼いでもいないし、社会の役にも立っていない。何の価値もない、夫の付属品のような存在だと感じていたといいます。子育てに関しても「夫に言われるがまま、子どもの世話をしている」という感覚。
私は「今はまだ耐えられているけど、爆発するときが近づいている」とアドバイスしました。子どもは、父親が母親を見下しているのを見て成長していきます。「『そんなもんか』と疑わずに成長したらどうしますか?」と。
子どもが家を離れると、夫婦2人きりの張り詰めた日々を送ることになるので、いざというときのために自立の準備をしておくこと。そして、夫に「ばか」「何も知らない」と否定されて傷ついていると伝えるよう告げました。佳代さんはそれを実行し、夫に「ばかと言わないでほしい」と伝えましたが、夫は全く相手にせず、態度は変わらないそうです。
夫の言葉に立ち直ることができず…
早百合さん(仮名、45歳)は50歳の夫、22歳、20歳の息子2人、18歳の娘の5人家族です。共働きのほぼワンオペで子どもたちを育ててきました。
結婚前から、夫はあまりしゃべるタイプではなかったそうですが、子どもが生まれてからはそれが加速し、早百合さんが何を言っても、ほぼ無言。子どもに関わる重要な決定を求めたときでも「いいんじゃない」とどうでもいいような態度。しつこく聞くと「うるさい!」と怒鳴る。「何を考えているのかいまだに分からない」と早百合さんは言います。
そんな夫ですが性欲はあるそうで、2週間に1度、必ず金曜か土曜の夜に早百合さんを求めてきます。ムードも何もなく無言で腕を引っ張る、それが合図です。早百合さんも義務的に応じていましたが、最近はホルモンバランスも崩れつつある年頃なので、つらいときは断るようにしました。
ある日の夜、腕を引っ張られたときに「体がだるいから無理」と断ると、夫は「このメス豚!」と怒ったというのです。あまりのショックに、早百合さんはしばらく涙が止まらず、「長い人生、そんなひどい言葉を言われたのは初めて」と立ち直れませんでした。
現在、早百合さんは「子どもたちが巣立った後に離婚して自由になろう」と、節約と貯金に努めています。無料の離婚相談にも行ったそうです。無視、いきなりキレる、性処理の対象にする(愛のない営みを強要)、傷つく言葉を投げる――これらが日常的に続くのはモラハラの域です。
「嫌なものは嫌」と言える自分に
モラハラ夫たちはなぜ、そのような態度を取るのか。多くの妻は「自分が○○だから」と自分自身に理由を付け、自らを責めます。それが自分の精神を安定させて守るすべでもあるのですが、モラハラ夫の態度に妻の心中は関係ありません。
モラハラをする側は「そういう言動をしてもいい相手」とパートナーを見下し、そうした態度を取っています。下に見ていることにも気付いていません。どんな人もさげすまれたり、否定的な言動をされたり、無視されたりして平気なわけがありません。それがたとえ、結婚相手や恋人だったとしても嫌なものは嫌です。
一般社会で、周囲の人にそのような言動をする人がいたらドン引きでしょう。それが結婚相手やパートナーだからOKということは決してないのです。現在の2人の状態に苦しさを感じているのなら、関係を一度見直してください。自分の態度や相手へのアプローチの変化によって相手の態度が変わるのなら改善傾向です。
しかし、もし、離婚を考えるなら気を付けなければなりません。DVと違って、モラハラは目に見えにくいものです。離婚を申し立てたときにもめることも視野に入れ、言動を録音したり、記録を取ったりして、しっかりと証拠を残すようにしてください。私はモラハラが原因で離婚を希望する人たちに弁護士を幾度となく紹介していますが、夫側から出てくるのは次のような言い訳です。
「あんなの、どこの夫婦でも言い合う言葉だ」
「安心して本音が言える相手だから、本音を言っているだけだ」
「10年以上一緒に暮らしているんだから、気軽に何を言ってもいいでしょう」
「ジョークで言っているのが分からないのか」
「私が悪いからしょうがない」と思っている妻の皆さん、愛情表現やジョークと、モラハラ発言の境目が分からない夫たちがいることに気付いてください。「嫌なものは嫌」と言える自分になるために何を始めればいいかを考え、思考停止状態から抜け出してください。
福原愛さん夫妻がどんな結論を出すのかは分かりませんが、全ての夫婦やカップルがお互いに安心して暮らせることを願います。
「恋人・夫婦仲相談所」所長 三松真由美
