一般道のなかでたまに遭遇する「やけに立派な区間」。そうした場所はもともと有料道路だった可能性があります。昔も今も非常に“使える”ルートとして機能しつつ、有料時代の痕跡が急速に失われてしまった道路を振り返ります。
有料時代の恩恵を今に伝える?「もと有料道路」5路線
一般道を走っていて、ある地点から歩道が明確に分離されたり、立体交差が連続したりして、「ずいぶん立派な道路だな」と思ったことないでしょうか。また急に拡大した道幅がすぐに元通りになったり、中途半端なサイズの駐車帯が路肩に現れたりと、不自然に感じる道路の作りを見かけることもあります。
国道254号「富士見川越バイパス」。かつては有料道路だった(乗りものニュース編集部撮影)。
じつはこうした道路は、もともと「有料道路だった」可能性があります。首都圏から気軽にドライブできる範囲にある、そうした“もと有料道路”を5つ、ご紹介しましょう。
八王子バイパス
国道16号を町田市から八王子方面に北上し、相模原市の元橋本交差点から先は、路肩から歩道が消え、立派な中央分離帯を持つ片側2車線の道路となります。ここはかつてNEXCO中日本が管理していた有料道路「八王子バイパス」だった区間です。
この高規格区間は京王線をくぐった先、八王子市の北野町南交差点まで続き、この間に信号はありません。他の道路との流出入は十分な減速車線、加速車線を持つ相原、鑓水、片倉、中谷戸、打越の各ICが担います。またこれらICの案内看板には、かつて高速道路と同等の「緑地に白文字」が用いられていました。
無料開放は2015年10月で、これにともない看板類も青地のものに置き換えられています。
富士見川越バイパス
埼玉県にある国道254号「富士見川越バイパス」は、国道463号「浦和所沢バイパス」と、国道16号「川越バイパス」とを結ぶ重要な軸として機能しています。
この富士見川越バイパスは1981年、「富士見川越有料道路」として開通しました。
西側に並行する国道254号の現道は、東武東上線西側の高台を通る旧川越街道を改良したもので、道幅が狭い上、市街地を通ることから脇道との交差点も多く、いまも渋滞が頻発しています。そこで東武東上線の東側、新河岸川沿いで主に農地として利用されていた低湿地を貫く形のバイパスが、有料道路として整備されたのです。無料開放は2009年8月でした。
かつての料金所は、2015年に開業した大型ショッピングモール「ららぽーと富士見」のすぐ北側にあたる本線上に設けられていましたが、地元のクルマの多くは市街地を回り込む形で料金所を迂回して通行していました。
三才山トンネル
長野県松本市の東側には、霧ヶ峰から聖高原へと続く山塊が南北に横たわります。そのほぼ中央にある美ヶ原高原の北側を直線的に貫くのが、国道254号「三才山(みさやま)トンネル」です。開通は1976年、有料道路として整備されました。同トンネルを含む国道254号は、松本市と東信地方の上田市、東御市を短絡するルートとして機能しています。
三才山トンネル。無料化後、交通量がさらに増えている(乗りものニュース編集部撮影)。
このトンネルの開通以前、松本方面と上田方面を結ぶルートとしては北側の青木峠、地蔵峠を越える国道143号が担っていましたが、幅員も狭く、大型車の通行は困難でした。より近隣にある保福寺峠を越える県道も、険しい山々を抜けるため時間がかかります。事実上、三才山ルートの代替路はなく、長野県の東西交通、さらには中京地域と北関東とを結ぶ重要な交通路として、開通当初より昼夜を問わず多くのクルマが行き交いました。
こうしたことから、2006年に予定された無料開放に向け収支は順調でしたが、1994年に新たに開通した松本トンネル有料道路とのプール制をとり、2021年まで料金徴収が延長されます。その後、1998年の長野オリンピックを巡る紆余曲折を経て、最終的には計画が見直され、2020年8月をもって無料開放されました。
鬼怒川バイパス
栃木県の国道121号「鬼怒川バイパス」は、鬼怒川の左岸に広がる鬼怒川温泉郷を通り抜ける国道121号現道の状況を改善するため、1992年に対岸の右岸に開通した道路です。
このうち鬼怒川トンネルを挟む1.7kmについては「鬼怒川有料道路」として整備され、「シルクウェイ」の通称も与えられました。無料開放は当初予定どおり、開通から30年後の2022年10月でした。
有料道路時代には、今市方面から北上すると、青看板で「鬼怒川有料道路」の案内が出てくるものの、どこからが有料道路なのか土地鑑のないドライバーにはわかりづらく、見通しのよくない左カーブを抜けるといきなり「鬼怒川有料道路」と書かれたゲート型の大看板が現れ、すぐ300m先に料金所という“だまし討ち”のような構造が特徴でした。
熊谷東松山道路
埼玉県東松山市の関越道 東松山ICと、熊谷市を南北に直結する県道が「熊谷東松山道路」です。熊谷市から北は、国道407号を通っての群馬県太田市、国道17号「上武道路」を通っての同伊勢崎市など、北関東の工業集積地と関越道を結ぶ重要な路線でもあります。
熊谷東松山道路は中央分離帯もしっかりした4車線の高スペック道路だ(乗りものニュース編集部撮影)。
この熊谷東松山道路のうち、滑川町森林公園南口交差点から熊谷市万吉交差点までの区間は「熊谷東松山有料道路」として、開通した1974年から無料開放される2004年まで、料金を徴収していました。
道路は基本的に片側2車線で、他の多くの道路と信号機のある交差点で平面交差しますが、歩道はきちんと区分されています。
なおこの熊谷東松山道路が結ぶ南北軸は、現在では国道407号、大里比企広域農道(みどりの道)が並行して走り、それぞれが関越道渋滞時の抜け道としても機能しています。
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以上、首都圏からドライブしやすい範囲の“もと有料道路”をご案内しました。こうした道路は、無料開放直後には料金所跡などが残っていますが、時間の経過とともに、そうした痕跡は消えていくのが常です。興味がある方は、そうした遺構を探してみてはいかがでしょうか。