子育てをする親を悩ませる「わが子の叱り方」。子を叱ることの難しさを実感している親は多いと思いますが、中には「叱らない」「怒らない」子育てを実践している親もいるようです。ネット上では「子どもを叱らずにいるとどう育つんだろう」「全く叱らない、怒らないってアリなの?」といった声もあるようで、さまざまな意見や疑問を持つ親がいることがうかがえます。
「叱らない親」「怒らない親」に育てられた子どもは、どのように成長するのでしょうか。子育てアドバイザーの佐藤めぐみさんに見解を聞きました。
「大目に見る」のか、「感情的な穏やかさをキープする」のか
Q.そもそも、子育てにおいて、親はなぜ子どもを「叱る」「怒る」のだと思われますか。
佐藤さん「親はなぜ子どもを叱るのか、怒るのか。これはどちらにおいても、目の前の子どもの行動に満足がいっていないからです。しかし広辞苑で調べてみると、『叱る』と『怒る』には違いがあることが分かります。『叱る』とは『(目下の者に対して)声をあらだてて欠点をとがめること』、『怒る』とは『激して気があらだつこと』と書いてあります。
子育てにおいても、この両者はよく比較されることがありますが、そこでも違いが見られ、『叱る』はより望ましい行動に導くという指導の色味が強いですが、『怒る』はただ親が子どもへの不満を感情的にぶつけているに過ぎません。目の前のよくない状況を改善、解決したいという思いは同じであっても、行われていることは違うわけです」
Q.「叱らない」「怒らない」親に育てられた子どもは、どのように成長すると思われますか。
佐藤さん「『叱らない』『怒らない』という子育てが、もし、子どもがよくない行動を取ったときにも“大目に見る”というやり方であれば、多くの場合、成長とともに親が手に負えなくなっていきます。
小さいうちは、たとえ好き放題やったとしても、親が『まぁ何とかなる』と思える範囲で収まるかもしれませんが、4~5歳にもなれば行動範囲が広がり、できることも増えてきますから、好き放題のままだと親が完全に振り回されてしまうのです。その段階で、『我慢が苦手』とか『気持ちの抑制ができない』などの悩みが増え、家庭の中で“王子さま化”、“王女さま化”してしまうことも少なくありません。
一方で、『叱らない』『怒らない』という子育てが、“親が感情を荒げない”という意味でなされているのならば、子どもは親から傷つく言葉を言われることもありませんし、怖い思いもしないので、それはメリットといえます。
このように、『叱らない』『怒らない』が、“何でも大目に見ること”を指すのか、“感情的な穏やかさをキープすること”を指すのかで、メリット/デメリットは変わってくると思います。感情を荒らげずに、でも伝えるべきことは伝えられているのではれば、メリットばかりといえるでしょう」
「叱らない」「怒らない」子育て、アリ? ナシ?
Q.「叱らない」「怒らない」子育ては、アリだと思いますか。それともナシだと思いますか。
佐藤さん「『怒る』というのは、親が自分の感情を制御できない場面で起こるので、その視点で見れば『怒らない子育て』はアリです。感情をぶつけたとしても、基本的には現場の改善にはならず、多くの場合、子どもに反抗され改悪してしまいます。さらには、子どもに対し、『困ったときは相手に怒鳴り散らせばいい』という誤った手本を示していることになります。
次に『叱らない子育て』について、単純にアリかナシかとは言い難く、その中身によってどちらにもなり得ると思います。もし、『叱る』が辞書的に『声をあらだてて』なされるのであれば、『怒る』と何ら変わりません。多くの人が『叱らない方がいいよね』となるのは、『叱ること=強い言動』というイメージがあるからです。
しかしそれは、感情があらわなのがよくないのであって、淡々と子どもを導く叱り方であれば必要なことです。子どもが自然に世の中のルールを学ぶかといえば、そんなことはありません。誰かが教えてあげなければ学べないこともたくさんあります。それを叱りながら伝えていくのであれば、叱らない子育てだと学ぶべきことが学べないので、この解釈では『叱らない子育て』は“ナシ”になるかと思います」
Q.「叱る/叱らない」「怒る/怒らない」についてどうすべきか、どうバランスを取るべきかなど、悩む親も少なくないようです。
佐藤さん「『叱る/叱らない』『怒る/怒らない』は、個々人で言葉の意味の捉え方が違うものなので、その言葉だけで『叱った方がいいのか、叱らない方がいいのか』という問答をしてしまうと、誤解を招いてしまいます。
大事なのは、子どもを導けているかです。ここに親の感情が伴うと、つい余計なことを言ってしまったり、子どもが反抗したりと、『導き』から程遠くなってしまいます。子どもに『何がよくて、何がダメなのか』ということを、感情抜きで伝えるのはとても難しいものですが、目指す方向性はここにあります。そう考えると、叱るべきか、叱らぬべきかで迷う以上に、親自身の気持ちのコントロールをどうやりくりしていくかが、バランスを取る上での一番のポイントといえるかもしれません」
オトナンサー編集部