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シーズン8突入で人気続行も ドラマ版『孤独のグルメ』が古参ファンから支持されにくい本当の理由

アーバン ライフ メトロ - URBAN LIFE METRO - ULM

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主演の松重さんから飛び出た意外な発言

 テレビドラマの人気シリーズ『孤独のグルメ』(テレビ東京系)。その主演を務める松重豊さんが10月4日(日)放送のインターネットテレビ番組『7.2 新しい別の窓 #31』(ABEMA)で語った内容が、ちょっとした話題を呼びました。

2018年4月からテレビ東京系で放送された『孤独のグルメSeason7』(画像:テレビ東京、KADOKAWA)

『孤独のグルメ』は人気の高いドラマですが、松重さんはなぜかピンと来ておらず、

「ただ、俺がひとりで食っているだけで、誰が見るの? どこが面白いの? お客さんが楽しめるはずないって思って。何年かたって、お前こんな番組やってたねって笑い話になると思っていた」

と言うのです。

 さらに、

「食べているだけで面白いって言われるのはいまだに心外です。どこを面白いって言っていただけているのか、自分では分かってないんです」

とも語っています。

 現在『孤独のグルメ』が代表作とされている松重さんですが、実は三谷幸喜さんが主宰する劇団「東京サンシャインボーイズ」や、蜷川幸雄さんの「蜷川スタジオ」などを経て芸を磨いた人です。演技に対してストイックだからこそ、このような言葉が出るのでしょう。

テレビから消えた「ハードボイルドな哀愁」

 ただ、原作漫画『孤独のグルメ』に長らく親しんできた読者は、ドラマに対してやはり疑問を感じているでしょう。なぜなら、原作に描かれているような「ハードボイルドな哀愁」がテレビでは排除されているからです。

2000年に発売された文庫版『孤独のグルメ』(画像:扶桑社)

 率直に言うと、実在する店舗でロケを行っているためか、ネガティブなことが描かれていないのです。作品の「名物」として知られるアームロックは放送されましたが、それ以上はありませんでした。

 例えば原作の第14話「東京都中央区銀座のハヤシライス(の消滅)とビーフステーキ」では、6年ぶりに訪れようとしたハヤシライスの店が無くなってしまい、悩んだ末に高級そうなステーキレストランに入るも、まったくおいしくなさそうな描写で終わります。

 第18話「東京都渋谷区渋谷百軒店の大盛り焼きそばと餃子」では、訪れた店がライスを提供していなかったために、渇望する悲しさが描かれています。

 要は「叙情的に満足感を描くことが多い」ドラマに対して、原作の井の頭五郎(主人公)はハードボイルドにおいしいものを食べようとしては、失敗しているのです。

原作の連載が始まったのは1994年6月から

原作の連載が始まったのは1994年6月から

 原作とドラマの違いを考えるには、まず作品の歴史を語らなくてはなりません。

 原作が始まったのは、1994(平成6)年6月。連載雑誌は、扶桑社(港区芝浦)が発行していた月刊誌『PANjA(パンジャ)』でした。同誌は週刊誌『SPA!』の2代目編集長だった渡邊直樹さんが編集長を退任後、新たに創刊した雑誌でした。

『孤独のグルメ』が連載されていた月刊誌『PANjA』(画像:扶桑社)

『SPA!』は、1988(昭和63)年6月に「週刊サンケイ」がリニューアルして誕生した雑誌で、流行語「オヤジギャル」を生み出した中尊寺ゆつこさんや宅八郎さんなどを起用し、新聞社系週刊誌にはない独特のテイストを持ったカルチャー誌として部数を伸ばしていました。

 そのテイストを濃厚にした雑誌『PANjA』で『孤独のグルメ』の連載が始まったのは、1994年10月号です。しかし、連載はまったくと言ってよいほど話題になりませんでした。なぜなら、掲載誌そのものが売れていなかったからです。

『PANjA』はさまざま路線変更を行うも部数は伸びず、1996年6月号で休刊。翌年の1997年に『孤独のグルメ』は単行本として発売されましたが、まったく話題になることはありませんでした。

人気に火が付き始めたのは2001年頃

 知る人ぞ知る作品扱いになりそうだった『孤独のグルメ』がにわかに注目されるようになったのは、2001年頃からです。モデルとなっている店を訪ねたり、作品中のちょっとズレた面白さを取り上げたりする人がインターネット上で見られるようになったのです。

 個人で雑貨商を営む井の頭五郎には、どこか社会に背を向けたような昏(くら)さがあります。その生きざまが食事の描写にも表れているわけですが、そんな「ハードボイルドな哀愁」が一周回ってコミカルに読み解かれるようになりました。

 中でも、セリフにまで独特のセンスでツッコミをいれて人気になったのが漫画レビューサイト『BLACK徒然草』です。このサイトを運営するじゃまおくんさんは、『孤独のグルメ』が支持を集めた理由をこう述べています。

現在も運営を続ける漫画レビューサイト『BLACK徒然草』(画像:BLACK徒然草)

「ひとりメシにフォーカスしたマンガって、あまりなかったんです。グルメマンガの方程式は、料理人同士が対決して優劣を競うものだった。(中略)ひとりで美味しいか不味いか微妙なものを食べて、自分なりに答えを見つけて、納得して終わる、というマンガがなくて。それを実はみんな求めていたんじゃないでしょうか」(『テレビブロス』2010年12月11日号)

 ひとりで食事をする楽しさは、今ではよく知られるようになりました。またそれをテーマにする漫画も増えました。結局のところ、作品に時代が追いついてきたということでしょう『PANjA』編集部には、やはり先見の明があったのです。

作品の行間からにじむ都会人の悲哀

作品の行間からにじむ都会人の悲哀

 そして作画に谷口ジローさんを選んだことも、作品に独特の雰囲気を作り出しました。

 谷口さんは21世紀に入ってから「芸術家肌の漫画家」として評価されるようになりましたが、元々は本人自体が「ハードボイルドが空回りしてコミカルになっているような人」です。『週刊プレイボーイ』1982年3月23日号では、大友克洋さんやかわぐちかいじさんと並んで、ラブコメ全盛期にロマンと冒険の「男の世界」を描く漫画家として紹介されています。

 しかし谷口さんだけ「作者は読者の前に姿を現すべきではない」と渋り、「私生活をアバかれるのはイヤだ」と顔写真を拒否したと雑誌には書かれています。いったい、いつ信条を変えたのでしょうか。

 また関川夏央さんとコンビを組んだ初期の名作である『無防備都市』のプロフィルには、「10年間のヒッピー生活」「東南アジアで密輸をやってシンガポール警察に追われる」なんて書いてあるのです。

 関川さんと組んだ代表作『事件屋稼業』(1979~1980年)は、主人公がハードボイルドを気取る私立探偵。しかし実際には離婚した妻に未練タラタラで、娘の養育費に生活費にキュウキュウ。集まってくるのも悪徳刑事やどうしようもない人ばかり。

 事件はドラマのようにハードボイルドに解決しても、日々の現実はきつい。それでも、理想の自分を目指して生きているという作品です。テーマが探偵か食事かの違いだけで、『事件屋稼業』は『孤独のグルメ』につながっているのは明らかでしょう。

東京の中にある孤独イメージ(画像:写真AC)

 繰り返しになりますが、ドラマの『孤独のグルメ』がどんなに人気になっても、原作に長らく親しんできた読者が違和感を持つのは、東京とは殺伐とした出来事が必然的に起こる場所――といった、きれいごとでは片づけられない大都市の要素や、そこに住む人たちの「ハードボイルドな哀愁」を排除しているからではないでしょうか。

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