正月を迎える準備で忙しくなる時季です。玄関先に飾られる正月飾りの中でも、特に華やかなものとして「門松」をイメージする人も多いと思いますが、ネット上では、「そもそもなぜ置くの?」「いつまで飾っておけばいいか分からない」「喪中だけど飾ってもいいの?」など、その意味や飾り方に関する疑問の声も見られます。
門松の意味や由来、正式な飾り方について、和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。
年神様のための目印
Q.まず、門松の意味や由来を教えてください。
齊木さん「門松は、年神様(としがみさま)が迷わずに家へ来ていただくための目印となり、神域である『依り代(よりしろ)』になるという意味があります。平安時代、一年で最初の『子(ね)』の日である『初子(はつね)』に外出してうたげをする際、松の小さな木を根から引き抜いて持ち帰り、玄関に植えたのが由来とされています。
現在の門松は主に松と竹、そして、梅からできています。松は『神様が宿る木』であると考えられていること、竹は長寿を願うものとして縁起がよいこと、梅は春に先駆けて『初めに咲く花』であり、紅白でおめでたい意味があることから、年神様を迎えるのにふさわしいとされているためです」
Q.門松に使われる竹はなぜ「3本」なのですか。
齊木さん「日本では陰陽道(おんみょうどう)の考え方から、奇数は縁起のよいものとされてきました。門松の竹の『3本』は2で割り切れない縁起のよい数であることに加え、3本それぞれの長さの比率は7:5:3で、同じく2では割り切れない縁起物の比率になっています。
また、門松の裾の『荒縄』を巻く回数も、下が7回、中が5回、上が3回と決まっています。最も長い竹と7回巻いた荒縄は『男性』を、最も短い竹と3回巻いた荒縄は『女性』を、そして、中間の長さの竹と5回巻いた荒縄は『男女の仲を取り持つ』という意味を表しています。つまり、円満の意味を込めて3本の竹を飾るようになったのです」
Q.門松の正式な飾り方を教えてください。
齊木さん「門松は玄関の門の前に飾るのが正式です。外からの邪気や魔を防ぎ、年神様が降りてくるにふさわしい家の状態をつくるためなので、外と内を隔てる境界の部分に飾りましょう。方角に決まりはなく、家の外に向けて正面に飾ります。
期間は『正月事始め』の12月13日から12月28日までに飾るのが好ましいです。12月29日は『二重苦』と読めるため、また、31日は年神様を迎えるにあたり一夜だけ飾る『一夜飾り』となって葬式を連想させるため、さらに、30日は旧暦の大みそかで、やはり『一夜飾り』となるため、いずれも好ましくありません」
Q.喪中の場合でも、門松を飾ってよいのでしょうか。
齊木さん「飾るのを控えた方がよいです。正月飾り(しめ縄や門松、鏡餅)は神道の習慣であり、神道の忌明けとなる『五十日祭』以降は飾っても問題ないという意見もありますが、一方で『喪中の一年は喪に服すべき』と考える人も多いです。そのため、家の外には正月飾りを飾らない方がよいといわれています」
Q.飾り終えた門松は、どうすればよいのでしょうか。
齊木さん「しめ縄飾りなども含めた正月飾りは、年神様が家におられる『松の内』を過ぎる、1月8日から15日の間に片付けるとよいとされています。年神様は、神社の境内で正月飾りを火にくべて焼き払う行事『どんど焼き』(『どんと焼き』などとも)の火祭りの煙に乗って天に帰るとされているので、飾り終えた門松はどんど焼きへ持っていき、おたき上げをしてもらいましょう。
神社へ持っていけない場合は、一般ごみとして出すことも可能です。ただし、その場合は細かくして塩で清め、丁寧に新聞紙などで包み、その上でごみに出す、という手順できちんと清め、処分するまで丁寧に扱いましょう」
Q.門松における、地域性の違いはありますか。
齊木さん「関東での基本の形は、短めに切った松を3本の竹の足元に生け込み、菰(こも)で包む形です。竹の切り口は『寸胴(ずんどう)』という垂直に切ったものが主流とされていました。関西では、長めの松を3本の竹の足元に生け込み、笹(ささ)や葉牡丹(はぼたん)などを配して足元を竹でまきます。竹の切り口は『そぎ』といい、斜めに切ったものが主流とされています。
地域の風習を重んじながら、新たな年に願いを込めた正月飾りを選んでみてはいかがでしょうか」
オトナンサー編集部