海上自衛隊が「新型FFM」と称し、もがみ型護衛艦の“次”に建造するフネの派生型が、海外の展示会で出品されました。日本政府と三菱重工業が輸出を念頭に置きながら構想する「新型FFMファミリー」の全貌が具体化してきています。
新型FFMの輸出バージョンを披露
防衛装備庁と三菱重工業は2023年11月7日から9日まで、オーストラリアのICYシドニーで開催された海洋防衛の総合イベント「INDO PACIFIC 2023」で、新型水上戦闘艦「FFM-AAW」の模型展示を行いました。
この艦は、海上自衛隊が「新型FFM」と称し、もがみ型護衛艦の“次”に建造するフネの派生型ということができます。
もがみ型護衛艦「もがみ」(画像:海上自衛隊)。
海上自衛隊が整備を進めているもがみ型護衛艦には、諸外国で同程度サイズの艦艇に付与される「FF(フリゲート)」に加え、機雷の「Mine」や多機能性を意味する「Multi-purpose」から「M」を明記した新たな艦種記号が与えられており、2018(平成30)年度予算から調達が開始されたため「30FFM」とも呼ばれています。
もがみ型は当初、22隻の建造が計画されていました。しかし防衛省はもがみ型の建造を12隻で終了し、新型護衛艦の建造を決定。FFM-AAWはその新型護衛艦の設計を基に、三菱重工業が諸外国に提案している艦ということになります。
FFM-AAWはステルス性能を追及した船体の設計や、やはりステルス性能を追及するために採用された「ユニコーン」(一角獣)と呼ばれる形状のマストも、もがみ型を踏襲しています。
しかしもがみ型の基準排水量が3900トンであったのに対し、新型護衛艦の基準排水量は4880トン前後にまで増加。また全長も、もがみ型の133.0mから約142mへと延長されています。
駆逐艦を意味する「DD」の艦種記号を持つ汎用護衛艦むらさめ型の基準排水量は4550トン、たかなみ型艦の基準排水量は4650トンなので、新型護衛艦は艦種こそフリゲート(FFM)ですが、汎用護衛艦(DD)を上回る大型艦になります。
武装はもがみ型とどう違う?
新型護衛艦の推進方式はもがみ型と同様、低速航行時に2基のディーゼル・エンジンを使用し、高速航行時にはガスタービン・エンジンを使用する「CODAG」(COmbined Diesel And Gas turbine)を採用。最大速度はやはりもがみ型と同様、時速30ノット以上(約56km/h)になると見られています。
搭載する兵装は62口径(127mm)5インチ砲と短距離艦対空ミサイルの「SeaRAM」のランチャー、17式艦対艦誘導弾(対艦ミサイル)の4連装発射筒2基、324mm3連装短魚雷発射管、MK.41 VLS(垂直発射装置)で、この構成はもがみ型と同じ(1~6番艦のVLSは後日装備)です。しかし「セル」と呼ばれる、VLSに収納されたミサイルの発射筒を兼ねた保管容器の数が、もがみ型の16セルから32セルへと倍増しています。
Mk41は中射程艦対空ミサイルの「スタンダード」や「シースパロー」、シースパローの発展型なども発射できますが、海上自衛隊はセル数が少ないもがみ型のVLSにはミサイルの先端に魚雷を搭載した武器で、通常の魚雷に比べて遠距離に位置する潜水艦を攻撃できる「07式垂直発射魚雷投射ロケット」のみを搭載し、中射程艦対空ミサイルを搭載する予定はありません。
新型FFMの装備イメージ(画像:防衛省)。
FFM-AAWの「AAW」はAnti Air Warfareすなわち「対空戦」を意味しており、FFM-AAWと新型護衛艦はVLSのセル数を増やして中射程艦対空ミサイルを搭載することで、もがみ型に比べて大幅に対空戦能力を強化することができます。
前に述べたように防衛省はもがみ型の建造を12隻で終了し、新型護衛艦の建造を計画しています。防衛省はもがみ型の補填として、新型護衛艦10隻の建造を予定していましたが、のちに12隻へ増やしています。
「いかようにもできますよ!?」派生いろいろ新型FFM
もがみ型は1年度に2隻というハイペースで建造されていますが、新型護衛艦の建造ペースはさらに速く、2024年度からの5年間で12隻の建造を計画。2025(令和6)年度予算の概算要求には2隻の建造費1747億円が計上されています。
もがみ型を開発した三菱重工業は同型の建造途上の段階から、FFM/もがみ型の基本設計を使用してファミリー化を図る将来型多用途フリゲート「FMF」(Future Multi-mission Frigate)構想を発表していました。
FFM-AAWの模型そのものは今回のINDO PACIFIC 2023で初めて公開されましたが、コンセプトは2019年11月に千葉市の幕張メッセで開催された防衛関連総合イベント「DSEI JAPAN 2019」で、FMFファミリーの一つとして発表されていたものです。
三菱重工業は当時、FFM-AAWを構想した理由として、将来海上自衛隊が汎用護衛艦(DD)などの後継を必要とした時、開発期間を短縮し、かつ開発コストを低減するためと説明していました。その考え方の正しさは、新型護衛艦の整備計画で実証されたと言えるでしょう。
さらに三菱重工業はFMFファミリーとして、FFM/もがみ型の基本設計を基に、胴体を短縮したOPV(哨戒艦)型と沿岸警備隊型も構想しており、DSEI JAPAN 2019でその模型を展示しています。
ベトナム国際ディフェンスエキポ2022で展示された「ユニコーン」マストのカットモデル(竹内 修撮影)。
防衛装備品の輸出を司る防衛装備庁は、2022年 12月にベトナムの首都ハノイで開催された防衛装備展示会「ベトナム国際ディフェンスエキスポ2022」などで、もがみ型/FFMのプロモーション活動を実施するなど、輸出へ向けた動きを示しています。FFM- AAWやFFMの胴体短縮型もまた、有力な輸出商品になり得るポテンシャルはあると筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。