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蚊取り線香を入れる「蚊遣り豚」、そもそもなぜ「豚」なの? 調べると諸説あるようで…

オトナンサー

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萬古焼きの「蚊遣り豚」(萬古陶磁器振興協同組合連合会提供)
萬古焼きの「蚊遣り豚」(萬古陶磁器振興協同組合連合会提供)

 夏に悩まされる「蚊」を退治する蚊取り線香を入れる器として、口をぽっかりと開けた「豚」の形の陶磁器を見たことはないでしょうか。「蚊遣り豚(かやりぶた)」と呼ばれるもので、電子蚊取り器の普及であまり見かけなくなったものの、現在も製造している窯元があります。この「蚊遣り豚」、なぜ他の動物ではなく、「豚」なのでしょうか。

「火伏せの神」説から「養豚場発祥」説まで

 まず、蚊遣り豚の産地として知られる萬古(ばんこ)焼きの窯元でつくる「萬古陶磁器振興協同組合連合会」(三重県四日市市)の広報担当者に聞きました。

Q.萬古焼きの蚊遣り豚は、どれくらい生産されているのでしょうか。シェアは。

広報担当者「以前は10社ほどが手掛けていて、萬古焼き全体では年十数万個生産していたようですが、最近は2、3社に減っています。それでも、シェアは恐らく全国一だと思います」

Q.なぜ、萬古焼きで蚊遣り豚を作っているのでしょうか。

広報担当者「ゾウなど動物の焼き物を作るのが得意な窯元が多く、ノベルティーものなどをいろいろ作っている中で出てきたと思われます」

Q.なぜ、蚊遣りが「豚」なのでしょうか。

広報担当者「いろいろな説があります。一つは、蚊遣りは火を使うため危険なので『火伏せ(火よけ)の神』であるイノシシを模して、それが豚になったという説。あるいは、容器が元々、徳利(とっくり)形で、それが変化して豚のようになったという説。さらに『豚の皮膚は厚いので、豚は蚊に刺されないだろうから』と豚の形にしたという説もあります。ただ、はっきりとしたことは分かりません」

 萬古焼きなど三重県北勢地域の特産品を展示販売している「じばさん三重名品館」(四日市市)には、体長1.8メートルという巨大な「日本一の蚊遣り豚」が展示されています。これを作る際、中心になったという水谷製陶所(同市)の水谷満さんにも聞きました。

Q.巨大な蚊遣り豚を作った経緯を教えてください。

水谷さん「元々は公園に飾るモニュメントとして、『四日市らしいものを作ろう』という話が持ち上がり、萬古焼きが生産量日本一の蚊遣り豚を題材に選びました。1993年に、萬古焼きの仲間十数人の力を借りて作り、四日市で一番大きいメーカーさんの窯をお借りして、焼き上げました」

Q.蚊遣りがなぜ「豚」なのでしょうか。

水谷さん「諸説ありますが、一つは、イノシシが『火伏せの神』だったのでイノシシの形になり、それが豚に変わっていったという説。もう一つは、養豚場で、つぼにわらを入れて燃やし、蚊を追い払っていたことから、豚の形になったのではと聞いたこともあります」

「江戸時代の照明器具」説も

 次に、江戸時代の「蚊遣り豚」とみられる器を収蔵しているという「新宿歴史博物館」(東京都新宿区)の学芸員に聞きました。

Q.蚊遣り豚が見つかった遺跡について教えてください。

学芸員「『内藤町遺跡』といって、新宿御苑の北部にあたり、江戸時代の譜代大名だった内藤家の中屋敷跡です。1989年、道路整備に伴う発掘調査の中で、蚊遣り豚も見つかりました」

Q.徳利を横にしたような形の陶器ですが、なぜ、蚊遣り豚だと分かったのでしょうか。

学芸員「形から類推しました。江戸時代の川柳などに『蚊遣り豚』の語句があり、これではないかと類推しました」

Q.いつごろ作られたものでしょうか。

学芸員「はっきりしたことはいえませんが、江戸時代後期と考えられています。その時代にはまだ、蚊取り線香はなく、かやの枝やわら、ヨモギ、枯れ葉、おがくず、もみ殻、米ぬかなどを蚊遣り豚に入れ、いぶして使っていたと思われます」

Q.なぜ「豚」なのでしょうか。

学芸員「なぜ、豚なのかははっきりしていませんが、江戸時代に『瓦灯(がとう)』という、徳利を太くしたような形の照明器具があり、それを横にして、目と耳を付けると豚のようになったともいわれています」

 姿を見る機会が減ってしまった蚊遣り豚ですが、電子蚊取り器でも「豚」が活躍しています。アース製薬(東京都千代田区)経営戦略部の油野秀敏さんに聞きました。

Q.豚形のノーマットを発売した時期と経緯を教えてください。

油野さん「当初は白い豚の形で、1999年に発売しました。萬古焼きで巨大な蚊遣り豚を作るという話があり(先述の「日本一の蚊遣り豚」)、当社から巨大な蚊取り線香を提供し、それがきっかけになったと聞いています。ただ、現在は白ではなく、黒豚をイメージした『アースノーマット蚊とり黒ブタ』だけを販売しています」

Q.なぜ「黒豚」になったのですか。

油野さん「当初は白い豚の製品だけでしたが、会社の仲間と商品アイデアを話し合う中で、『豚は白以外もいるよね、そういえば、最近は黒豚もよく聞くよね』という話が出ました。当時は薩摩の黒豚が流行し始めた時期で、帰宅してすぐ、白豚のノーマットを黒のペンキで塗り直してみました。翌日、当時の開発責任者に見せたところ、即採用となって商品化につながり、ロングセラーとなりました。近年は年間約20万個出荷しています」

 なぜ「豚」かという疑問に対しての決定的な答えは得られませんでしたが、萬古焼きの水谷さんによると、由緒正しそうな印象があるためか、「火伏せの神」説をまず話して、ほかにも説があることを説明することが多いそうです。

 今年はコロナ禍で、換気の大切さが叫ばれています。火の元に注意しつつ、蚊遣り豚で蚊取り線香をくゆらせてみてはいかがでしょうか。

オトナンサー編集部

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