「試験や受験で緊張して実力を十分発揮できない」「人前で話すと緊張する」。このように、緊張しやすい人、緊張が苦手な人は少なくありません。緊張をコントロールして、パフォーマンスをアップさせるにはどうしたらいいのでしょうか。
今回は、ベストセラー作家で京都光華女子大学キャリア形成学科客員教授の和田裕美さんに「緊張を乗り切る方法」について伺いました。和田さんは、日本ブリタニカ在籍中に世界2位の営業成績を収めた営業のカリスマとしても知られています。近著に「いざという時に結果を出す本番力」(ポプラ社)があります。
頭が真っ白になるとどうなるの
「日本人の男性はシャイすぎる。何を考えているか分からない」。和田さんは米国人の友人にこのように言われて「私も分からない」と笑って返したことがあるそうです。日本人は、根っこに流れる文化的な価値観が違うことに気付かなければいけません。
「私たち日本人はもともと、自己主張して前に出ることよりも謙虚でいることに美徳を感じやすい民族です。同じ日本人でも、堂々と意見を言える人がいるじゃないかと思いますよね。政治家なら『それが仕事』です。しかし、テレビで討論できる人などを見て『でしゃばりすぎ…』などと嫌悪感を覚えることがあります」(和田さん)
「前に出ることの価値が低いこと、前に出ている人を否定しやすい価値観を持っていること。その両方を持ち合わせていることが本番に弱い大きな原因です。前に出て反論できる人は『嫌われる勇気』があります。だから本番に強いのです」
人前だとかなり緊張してしまう人や極端に人に気を使ってしまう人は本番に弱い傾向にあると、和田さんは指摘します。うまく乗り切るには、「メンタル」と「フィジカル」の両方からアプローチすることが大切です。私たちが普段、無意識に使っている考え方を「意識的に前向きな言葉に変えていくこと」が最初のステップになります。
自律訓練法を覚えよう
「失敗したらどうしよう」「練習していないからヤバイ」「俺、本番に弱いんだよ」――。このようなネガティブな言葉が量産されていくと恐怖が大きくなり、動けなくなります。まずは、深呼吸をして冷静になることを心がけましょう。
自律訓練法という、リラックスして集中できる方法があります。1932年、ドイツのシュルツ博士が開発し、日本でも広く使われています。あがる、手が震える、声が上ずる、汗をかく、赤くなるなどの「対人恐怖症」が軽減されるなどの効果があると言われています。できるだけ静かで明るすぎない場所で練習しましょう。
次の順で練習してみてください。
最初に服を緩め、両腕を軽く伸ばし、両足は少し開いてあおむけに寝ます。
(1)軽く目を閉じて、ゆっくりと腹式呼吸をする。呼吸のリズムが一定してきます。
(2)息を吐くときに「気持ちが落ち着いている」と頭の中で唱えます。
次に、ゆっくりと四肢の重感練習を行います。
(1)「右手が重たい」→「左手が重たい」→「右足が重たい」→「左足が重たい」
(2)息を吐くときに合わせて頭の中で唱えます。3回ずつ繰り返します。
今度は四肢の温感練習を行います。
(1)「右手が温かい」→「左手が温かい」→「右足が温かい」→「左足が温かい」
(2)手足の重感、温感を抱くことができたら、同じ要領で唱えます。
練習が一通り終わったら、両手を握り、少しずつ力を入れて、両腕を5~10回強く屈伸してから、大きく背伸びをします。最後に数回深呼吸をして目を開きます。
自分専用の魔法の呪文をつくろう
筆者が世界的なコンサルティング会社に勤務しているとき、自律訓練法はプレゼンスキルアップの有効なテクニックとして考えられていました。その会社では、この一連の手順を踏んだ後に「魔法の言葉」を唱えます。「魔法の言葉」とは自分を奮い立たせる言葉で、自己暗示をかけることが目的です。筆者は「絶対に大丈夫だ!」と心の中で唱えるようにしていました。
和田さんにも「自分だけの呪文」があるそうです。それは、講演前に唱える呪文(マントラ)で、人が周りにいないときは小声でぶつぶつと10回、人がいるときには心の中で唱えます。
「今日、私がお会いする人たちは私の話を聞いて幸せになってくれます。落ち込んでいた人は元気になって、元気だった人はもっと元気になって、最後は皆さん、笑顔になってくださいます。私にはそれができると信じています」
この方法は間違いなく効果がある手法です。話し方、あがりは簡単には修正できませんが、トレーニングである程度のコントロールは可能になると思います。治すのではなく、“コントロール”するように心がけるといいでしょう。
コラムニスト、著述家、明治大学サービス創新研究所客員研究員 尾藤克之