コロナで注目された地元商圏内
新型コロナウイルスの感染拡大によってインバウンドや大都市圏からの観光客が激減し、ウィズコロナの新しい生活様式の中で、レジャー・観光産業は新しいビジネススキーム(計画)を模索している状況です。
そのような中、星野リゾート(長野県軽井沢町)の代表である星野佳路氏は「マイクロツーリズム」を提唱しています。
マイクロツーリズムとは1~2時間圏の地元商圏内への観光のことで、コロナ禍では居住する都道府県内で観光するということになるでしょう。
小商圏でマーケットが減少する分、キメの細かい対応でリピーターを稼ぐ考えです。
7月から政府の「Go Toトラベルキャンペーン」が実施されていますが、遠距離への観光は感染拡大のリスクがあるため、まずは小商圏から観光を喚起していくことが順当と考える地方自治体は少なくありません。
地方自治体の中では県民や市民を対象に、独自に地域内の宿泊施設利用の費用補助を行ったり、飲食施設・土産物屋のクーポン券を配布したりして、地元での観光を喚起しようとする取り組みが見られました。
また、Go Toトラベルから除外された東京都ではホテルで都民割を打ち出したり、都民を対象にさまざまな特典を用意したりする動きが見られました。
ここにきてオーバーツーリズム(観光客、特にインバウンドの急増によるゴミのポイ捨てなどの地域の弊害)が表立って言われ始め、地元への観光回帰が強調されていますが、では、コロナ収束後もこのような観光スタイルは持続するのでしょうか。
近隣地を楽しむことのメリット
わが国ではコロナ以前は大都市圏やインバウンドが観光プロモーションの中心となっていました。
確かにインバウンドは、レジャー・観光施設の利用者の1割にも満たない場合が多いのですが、人口減少社会でシュリンク(収縮)が予想される国内マーケットに対して伸びしろのあるマーケットであり、国内産業の数少ない成長エンジンとなっています。
また、消費単価が大きいということもあり、インバウンドの富裕層をターゲットにする観光施設は少なくありません。
国内の観光マーケットはアクティブシニアがけん引していますが、地方においては高齢化が進展しており、レジャー・観光への参加回数は減少していくと予想されます。
さらに若い世代になるほど余暇に割けるストックが少ないとか、自家用車を持っていないとか、そもそも既存のレジャー・観光スタイルに当てはまらないとか、レジャー・観光産業にとって不透明な要素が多くなってきます。
事業効率を考えればコロナ収束後には大都市圏やインバウンドマーケットに戻ることは当然と言えば当然かもしれません。
しかし、コロナ禍で模索された地元マーケット回帰の取り組みは何かしらの形で持続してもらえればと思います。
今回のコロナ禍で窮地に陥ったレジャー・観光施設に対し、多くの一般の人が少しずつでも救いの手を差し伸べました。
その中には、近くで事情をよく知っている地元の人が多く含まれています。地元の人とつながっているということは、さまざまな局面で重要な意味を持ちます。
飛行機代の代わりに高級ホテル
近年、ホテルや旅館などの観光施設は富裕層のインバウンドを意識するあまり高級路線になっており、地元マーケットとは乖離(かいり)している感があります。
コロナ禍では地元向けプランとして割安プランを設けたり、テイクアウトをするところが見られましたが、コロナ収束後も地元感謝デーや地元イベントへの出店など、イベント的な取り組みでも積極的に地域と連携していくことが望まれます。
2020年の夏、ウィズコロナの観光スタイルとして「ステイケーション」が注目されました。
ステイケーションとは「ステイ」と「バケーション」からなる造語。海外や遠方で休暇を過ごすのではなく、自宅や近場で過ごすという意味で、イギリスでブレグジット(EU離脱)が発表された直後にポンドが暴落し、家の近くでぜいたくする休暇を取る人が増えたことから生まれた言葉です。
飛行機代などが掛からない分、近場のゴージャスなホテルに宿泊したりしてぜいたくすることなどがそれに当たります。生活のダウンサイジングはリーマン・ショック(2008年)後の日本の巣ごもり消費にも通じるところがあるでしょう。
この夏休みは都内のホテルでステイケーションする人が見られました。都内のホテルでさまざまな割引プランが打ち出されたことも背景にあります。
「ホテルニューオータニ」(千代田区紀尾井町)では都民還元キャンペーン「STAY TOKYO+EAT TOKYO~食べて泊まって、東京で過ごす夏~」で、6連泊で室料半額にミールクーポンが付く破格のプランを実施しています。
こんなお得な機会も今だけですので、いつもはあまり利用しないようなラグジュアリーなホテルに泊まり、リッチな食事やホテルからの夜景、ゆったりした時間を楽しむステイケーションもたまには良いのではないでしょうか。
ホテルの滞在そのものを目的に
ここ数年、インバウンドの急増と東京オリンピックの開催をにらんで都内は空前のホテル開発ラッシュになっており、次々に新たなホテルが開発されました。
以前はホテルといえば、
・リゾートホテル
・シティホテル
・ビジネスホテル
・カプセルホテル
などのカテゴリーにくくられていましたが、多くのホテルが開発されたことにより、
・ラグジュアリーホテル
・ブティックホテル
・都市型旅館
・ライフスタイルホテル
・コンパクトホテル
など、多様なカテゴリーが導入されました。
注目されるのは「ライフスタイルホテル」の増加です。
ライフスタイルホテルとはデザイン性の高い小~中規模のホテルで、パーソナライズされたサービスとテーマ性のある体験要素が特徴となっています。
2014年に日本初のライフスタイルホテルとしてハイアット ホテルズ アンド リゾーツ(アメリカ)の「アンダーズ東京」(港区虎ノ門)が上陸し、マリオット・インターナショナル(同)の「モクシー東京錦糸町」(墨田区江東橋)、旧渋谷パルコ跡地に建った「hotel koe tokyo」(渋谷区宇田川町)が話題になりました。
ライフスタイルホテルはホテルを旅行の滞在基地とするのではなく、ホテルで過ごすこと自体が目的となっており、時間消費型の業態と言えます。
その他にも都内には無印良品ブランドの「MUJI HOTEL GINZA」(中央区銀座)、お茶をテーマにした「ホテル1899東京」(港区新橋)、現代アートの収蔵庫が併設している「KAIKA 東京」(墨田区本所)など、次々にユニークな新しいホテルがオープンしています。
ゴージャスなホテルステイを楽しむのもよいですが、このようなホテルで今までにない体験をするのも面白いでしょう。
未知のエリアの開拓にも絶好機
さらに注目されるのが、今までは絶対に情報番組や情報誌で取り扱われなかったエリアに新しいおしゃれなホテルが生まれていることです。
2020年1月にオープンした「LANDABOUT(ランダバウト)」(台東区根岸)は、鶯谷という立地に位置しています。
鶯谷というとラブホテル街というイメージがありますが、例えば近隣にある山谷はインバウンドのバックパッカーがベッドハウスをゲストハウス代わりに使用したことがきっかけでイメージがよくなっており、若い世代の中ではこのようなエリアを興味深く捉える人が増えています。
ホテルのロビーには周辺が散策できる地図が掲示されており、あまり知られていないディープな街中を散策する楽しみもあります。
あらためて近場のホテルでさまざまな体験を楽しんでみてはいかがでしょうか。