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鉄道と「女性芸能人」のコラボCMが当たりまえになった時代的背景

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CM流しても利用者増につながりにくいのになぜ

 国鉄から分割民営化したJRはそれぞれ地域によって管轄する会社が異なるものの、全国に路線網を有しています。そのため、JR各社は利用者の需要増を喚起する必要があり、民営化を機にCMを制作。JR各社は利用者を増やす取り組みを始めました。

女優の石橋静河さんをフィーチャーした、JR東日本「行くぜ、東北。」のホームページ(画像:JR東日本)

 JR各社のCMには印象深いシリーズが多くありますが、なかでもJR東海「シンデレラ・エクスプレス」のCMは当時から話題を集め、最近はSNSで再評価される兆しが出ています。JR東海の「シンデレラ・エクスプレス」は、東海道新幹線の新たな需要を掘り起こすことにつながりました。

 そういう意味で、利用を促す目的のCMに分類できます。同じく箱根へと誘う小田急ロマンスカーのCMも、利用者の掘り起こしに主眼が置かれているといえるでしょう。

 利用促進や販売促進を目的としたCMは、鉄道会社の専売特許ではありません。むしろ、ほかの企業とは異なり、鉄道会社はCMを流しても利用者増につながりにくいという事情があります。

 なぜなら、一般的に鉄道の利用者はその沿線に用事があるときにしか列車に乗らないからです。CMを見たからといって、その鉄道会社が運行する列車に乗ろうという気持ちになる人は多くありません。

 それにも関わらず、鉄道会社は盛んにCMを流しています。テレビCMには、企業価値の向上と沿線ブランドを高めるといった効果があるからです。

分岐点は東京を巡る「Find my Tokyo」

分岐点は東京を巡る「Find my Tokyo」

 鉄道会社は鉄道事業だけを行っているわけではありません。ターミナル駅に百貨店やスーパーを併設し、駅ナカでもレストランやカフェ、売店のスペースを貸し出すなどの賃貸事業を営んでいます。それらの収益も鉄道会社を支えています。

 沿線価値を向上させることは、その沿線にある街の魅力が増すことを意味します。昨今、人口減少によって鉄道の利用者は頭打ちになりつつあります。当然ながら、鉄道による運輸収入の増大は期待薄です。

 鉄道会社が運転士や駅員といった人を雇い、線路や車両を維持するためには売り上げを伸ばさなければなりません。副業で得た収益すべてが鉄道事業の経営資源に回るわけではありませんが、駅ビルの運営といった副業で稼ぐことで、鉄道会社は鉄道本体の事業を維持することができるのです。

 そして、沿線開発で自社の沿線が魅力ある街になれば多くの人が住んだり、遊びに来たりします。居住者や来街者が増えれば、それは回り回って鉄道の売り上げを増やすことにもつながります。

そうした効果を期待して、鉄道会社は日頃から沿線価値の向上に取り組んでいます。そして、CMはそうした沿線の魅力を伝える手段になっているのです。

 利用促進ではなく、沿線の魅力を伝える鉄道会社のCMは昔からありました。しかし、大きなターニングポイントになったのが東京地下鉄(東京メトロ。台東区東上野)の「Find my Tokyo」シリーズのCMです。

石原さとみさんが出演する「Find my Tokyo.」のCM「雑司が谷_ひと工夫が散りばめられた街」篇(画像:東京地下鉄)

 過去「Find my Tokyo」のCMには、宮崎あおいさん、新垣結衣さん、武井咲さん、堀北真希さんといった今をときめく女優が出演していました。現在のCMでは、石原さとみさんが出演中です。

「Find my Tokyo」シリーズのCMには好感度・人気ともに高い女優が出演していますが、これには東京メトロの沿線に「目立った観光地がない」という事情があります。東京メトロの路線の多くは東京23区内にとどまっており、長距離利用をする乗客はいません。運賃で稼ぐことには限界があるのです。

沿線価値を高めようという意図

沿線価値を高めようという意図

「Find My Tokyo」は全作で沿線の日常風景を描き、東京をふらっと散歩するようなストーリーが共通しています。そして、日々の生活感を伝えることで沿線の魅力を再発見してもらい、そこから沿線価値を高めようという意図を含んでいます。

「Find my Tokyo」を機に、鉄道会社はCMに有名な芸能人を起用する傾向を強くしています。

相模鉄道のCMのメイキングの様子(画像:相鉄ホールディングス)

 沿線価値の向上という意味では、相模鉄道のCMが記憶に新しいところです。相模鉄道は2019年11月30日(土)から東京への直通運転を開始。それを記念したCMを制作しました。同CMには、俳優の染谷将太さんと女優の二階堂ふみさんが出演しています。

 それまで鉄道会社は男性の職場とされてきましたが、最近では女性の運転士・駅員も増えています。また、通勤で電車を利用する女性も当たり前のように目にするようになりました。そうした鉄道シーンで女性が増えたことを背景に、鉄道会社のCMには女性の起用が目立っています。

鉄道会社のCMは「沿線の時代を写す鏡」

 一例を挙げると、JR東日本は木村文乃さんや松岡茉優さん、京王電鉄は広末涼子さん、西武鉄道は土屋太鳳さんを起用。JR東日本は「行くぜ、東北」キャンペーンの一環ですから、沿線価値の向上というよりは利用者の掘り起こしという趣が強いでしょう。

女優の土屋太鳳さんをフィーチャーした、西武鉄道「新型特急Laviewで行こう!」のホームページ(画像:西武鉄道)

 また京王には高尾山、西武には秩父といった観光地があるので、観光による誘客という目的を含んでいます。しかし両社のCMは、ともに自社沿線の価値向上を意識したつくりになっています。

 鉄道会社が沿線価値の向上に取り組むようになったことで、鉄道会社のテレビCMは今までとは一味違う内容になりつつあります。鉄道会社のCMは「沿線の時代を写す鏡」になっているといえそうです。

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