空港で飛行機は、指定された滑走路や駐機場まで、航空管制官の指示のもと、誘導路という専用の道を通って向かいます。このとき、パイロットはどこを通って向かえば良いかわからなくなることもあるのです。
ピーク時は超複雑!? 誘導路の“交通の流れ”
一般的な空港において、飛行機は旅客を乗せた後、ターミナルビルから「誘導路」と呼ばれる空港内の道路を走行し、滑走路まで向かいます。
この道には「A(アルファ)」「B1(ブラボーワン)」といった具合に、アルファベットまたはアルファベットと数字の組み合わせでそれぞれ名前が付けられています。
JALとANAの飛行機(乗りものニュース編集部撮影)。
ターミナルビル周辺の駐機場があるエリア(エプロン)は、飛行機だけでなく地上作業のための人や車両の通行も前提としているため、航空管制官が安全への責任を負うことはありません。パイロットは航空管制官の指示を受けますが、危険があれば航空法71条の2「操縦者の見張り義務」に従い自ら停止する義務を負っています。
対し誘導路は、原則として飛行機専用の道路となっており、航空管制官による許可がなくては、飛行機はもちろん、人や車両も入れません。ここでは管制官がその責任のもと、どこを曲がるか、どこで止まるかなど、交通状況を見ながら1機1機の動きをコントロールしていきます。
飛行機が動き出してから滑走路に到達するまでの時間は、スムーズにいけば、大きい空港で約30分、小さい空港で約15分かかるというのがおおよその相場です。ただ混雑する時間帯には、もっと時間がかかります。
そういったときには、停止や曲がる回数が増えるほか、たとえばターミナルから滑走路まで距離がある場合、その飛行機の前に割り込ませる飛行機がいるなど、“交通の流れ”も複雑になります。
機内の窓から眺めているだけでは分かりませんが、こういった状況下においては、実は、パイロットが誘導路で“迷子”になるケースもあるのです。
プロのパイロットが迷子になるケースとは
成田空港や羽田空港の俯瞰図や航空写真をみると一目瞭然ですが、大きな空港では、誘導路の本数も多く、形状が複雑です。これにともなって、滑走路と誘導路の名前と方向が表示された案内標識や路面標示も無数に存在します。そうなるとその空港の景色に慣れていないパイロットから見ると、「どっちがA誘導路でどっちがB誘導路か、判別が付かない」ことも。
地上走行時において、航空管制官は「Taxi via A, B, B1(A誘導路、B誘導路、B1誘導路経由で地上走行せよ)」と定型の指示用語を使用するのが原則です。
ただこれはパイロットの目線から見ると、右折なのか左折なのか、何本目の交差点を曲がればいいのかなど、カーナビのようなきめ細かい指示がタイミングよく出されるようなこともなく、目的の駐機場や滑走路までたどり着かなければならない――ということになります。
離陸した飛行機から見た成田空港(乗りものニュース編集部撮影)。
先述した“迷子”ケースが発生した結果生じるトラブルとしては、航空管制官が指示した誘導路と違う誘導路に入る「誘導路誤進入」があげられるでしょう。国土交通省が毎年発表する「空港の安全に関わる情報」によると、令和元年度は無許可・誤進入の報告が27件あり、うち19件が誘導路で生じています。報告に上がっていない軽微なものも含めれば、類似事例は年間で100件以上発生しているでしょう。特にこういったトラブルは大空港で、とりわけ視界の悪い夜間帯に発生しやすい傾向にあります。
件数は多いとはいえ、上空や滑走路上とは異なり、道に迷っても止まればぶつかることはありませんので、安全運航は担保されています。ちなみに、航空管制官はあらかじめ間違えやすい場所、飛行機が集中する場所を把握しており、誤進入や突然停止することも計算に入れ、もしそうなっても影響を最小限にする第二の手を用意の上で、それぞれの飛行機に指示を出しています。また、そのようなケースを重点的に監視することでトラブルの先読みを欠かしません。
“迷子”となってしまった当該便は、当初予定していた時間より遅延することもありますが、これは、なによりも当該機、そしてその周辺の便に乗るすべての乗客と乗員の安全を最優先とした結果ともいうことができるでしょう。
※一部修正しました(7月15日9時02分)。