日本各地で運航される高速船「ジェットフォイル」は元々、アメリカが軍事用に開発した船種です。どのくらい速いのか、東海汽船の高速船に乗ってみました。
東京~下田で海路vs陸路
東海汽船は2024年11月18日(月)と翌19日(火)に、東京の竹芝客船ターミナルと伊豆の下田港を高速ジェット船(ジェットフォイル)で結ぶトライアル運航を実施します。これにより東京~下田間は2時間10分で結ばれる予定です。
東海汽船のジェットフォイル「セブンアイランド大漁」(安藤昌季撮影)。
筆者(安藤昌季:乗りものライター)の予測と前置きしますが、両港間の距離は155.8kmなので、平均速度は38.8ノット(約71.9km/h)でしょうか。鉄道の東京~伊豆急下田間は167.2kmで、最速の特急「サフィール踊り子1号」でも所要2時間29分ですから、「特急よりも速い船」となるわけです。
これほど高速な理由は、ジェットフォイルが1960年代に、アメリカの航空機メーカー「ボーイング」によって開発された船種で、軍事目的だったということもあります。実際1977(昭和52)年に、アメリカ・西ドイツ・イタリアの共同開発で、ペガサス級ミサイル艇として実用化されています。
ボーイングは1974(昭和49)年、「ボーイング929-100型」として民間旅客用も開発し、1977年に佐渡汽船が日本で最初に導入しました。その後、川崎重工業にライセンスが提供され、国内で建造されています。
動力はガスタービンであり、高圧の水流で推進力を得るウォータージェット推進です。船体が水に浮かんでいるのは停止時と低速時だけで、速度が上がると船体が浮かび上がり、水中翼に揚力が発生し始めます。最終的には船体が浮上して高速航行するため、さながら「海上を走るジェット機」です。
筆者は2024年11月8日(金)、東京~伊豆大島航路と伊豆大島~熱海航路でジェットフォイルに乗船。平日の朝8時半に東京を出航する便でしたが、座席定員254名の「セブンアイランド大漁」は乗船率90%を超えており、3+6+3列の1階席と、2+5+2列の2階席がほぼ満席でした。
航空機さながら シートベルト着用サイン
この日は貨客船「さるびあ丸」が運休だったため、普段は伊豆大島行きのところ、当日は利島、新島、式根島を経由して、神津島までジェット船で運航されました。総トン数165トンの小さな船体で、竹芝客船ターミナルの停泊時でも小刻みに揺れました。
座席は進行方向に向けられたクロスシート。コンセントやリクライニング機能はありませんが、バケットシートで、体を包み込むような着座感です。付帯サービスは背面テーブルと網袋、窓側のみ座席上の荷物棚です。
なお、大型荷物スペースやサーフボード置き場もあり、離島への輸送にも配慮されています。船内にはモニターも備わり、船内案内や島の観光情報を流していました。着席すると「シートベルトをお締めください」と、放送とモニターで案内。天井には航空機と同じシートベルト着用サインもありました。
さらに船内放送で「シートベルトが締められているかどうか、確認させて頂きます。確認が終わらなければ出航しません」と案内され、係員が車内を巡回。船なのに航空機感がありました。
乗船率は90%超えと盛況(安藤昌季撮影)。
確認後はすぐに出航しました。貨客船の2倍の速度を発揮するだけあり、レインボーブリッジがすぐに過ぎ去ります。動き出して驚いたのは揺れが少ないこと。船体が浮遊する効果を実感しました。そして、大きなガスタービンのエンジン音にも驚かされます。
シートベルト着用サインが消えたので、船内を見て回りました。1階には自動販売機コーナーと、航空機のようなコンパクトなトイレ、2階にも同じトイレがあります。毛布の貸し出しも行っていました。
快調に東京湾を進んでいましたが、車内放送で「本日は海面状況が悪く、利島には寄港しません」との案内が流れます。筆者は利島で下船予定だったので、慌ててインターネットで運航状況を確認すると、途中の伊豆大島から東京に戻る便は全て満席でした。
日帰りの予定が、現地宿泊も覚悟する状況となってしまいました。乗組員に相談し、大島~熱海間の高速ジェット船を急遽ネット予約して、熱海に出ることにしました。予約時には東京湾を出ていましたが、大島到着までネットが使用できたのは幸いでした。
熱海港へは国内最新のジェットフォイル
大島で熱海行きの船を待っていたところ、東海汽船から筆者のスマートフォンに電話があり、「東京行きに1席だけキャンセルが出ましたが、乗船されますか。される場合は、手数料なしで熱海行きの予約から変更できます」とのこと。きめ細かなサービスに感心しました。
しかしながら下田に用事があったので、大島を15時30分に出る熱海行きに乗船することにしました。
当日の熱海行きは2020年に投入された、国内最新のジェットフォイル「セブンアイランド結」でした。デザイナー・野老朝雄氏が外観デザインを手がけ、紺の船体に白で描かれた、丸に「結」のエンブレムがオシャレです。
総トン数は176トン。ジェットフォイルで初めてバリアフリーに配慮しており、2階に車いす対応トイレを備えます。また車いすが回転できるスペースを設けたり、船内階段に昇降用チェアーを備えたりしています。それ以外の部分は、朝に乗船した「大漁」とほぼ変わりませんが、車いす対応席には壁面コンセントが備わっていました。
大島~熱海間のジェットフォイル「セブンアイランド結」は、最高44.6ノットで航行した(安藤昌季撮影)。
「結」は15時30分、大島の元町港を出港。乗船率は40%ほどでした。こちらもシートベルトの確認がありました。出航後でもネットが使えるのは、東京からの航路と同じでしたので、アプリを使って速度を測ってみました。
38ノット(約70km/h)程度と、やや控えめの速度。船内放送で「大型海洋生物の生息海域なので速度を抑えます」との案内が流れ納得しました。付近にはジンベエザメやクジラが生息するようで、生態系への配慮が感じられます。しばらくして「大型海洋生物の生息海域を越えたので速度を上げます」との案内がありスピードアップ。アプリによると、最高44.6ノット(約83km/h)でした。
熱海港到着前になると、常連と思しき乗客が下船口に行列を作っていました。時刻は16時15分。熱海港には熱海駅行きの連絡バスが待機し、乗客の大半が乗り込んでいきました。