航空自衛隊の第302飛行隊が創設50年を迎え、その一環としてステルス戦闘機F-35Aに記念塗装を施しました。ただ、派手な塗装をすればステルス性は損なわれると聞きます。大丈夫なのでしょうか。
空自初の色付きF-35Aが誕生!
青森県三沢基地に所属する第302飛行隊は、F-35A「ライトニングII」を運用する航空自衛隊の飛行隊です。この部隊はもともと、1974年にF-4EJ「ファントムII」戦闘機を装備する飛行隊として千歳基地で創隊され、今年(2024年)、部隊創隊50周年の節目を迎えました。
そこで製作されたのが、現有のF-35の69-8702号機(702号機)をドレスアップした記念塗装機です。702号機には特別デザインの文字やイラストがいくつも描かれましたが、中でも一番の特徴は垂直尾翼にあしらわれたフルカラーの尾白鷲マークでしょう。
第302飛行隊が2019年まで運用していたF-4EJ/EJ改「ファントムII」では、このフルカラーの尾白鷲マークがすべての機体に常時ペイントされており、自衛隊ファンの間では「オジロワシのファントム」として有名でした。しかし、現在のF-35になってからはそのマークも小さくなり、視認性を下げるために色もグレー系に統一されたロービジ(低視認性)塗装へと変更されています。
第302飛行隊50周年を記念したF-35Aの記念塗装機(布留川 司撮影)。
すでに5年近く途絶えていた「ファントムII」時代の「オジロワシ」が復活したことは、飛行隊OBを始めとした関係者、そして航空ファンらを喜ばせるサプライズとなりましたが、F-35のようなステルス機でこのような派手な塗装は珍しいケースといえます。
なぜなら、ステルス機は相手のレーダーに捉えられないように、機体形状がレーダー電波を別方向に反射させる独特の形状をしており、その表面や機体内部は電波を吸収するRAMと呼ばれる電波吸収材が使われています。そのため、通常の塗装を行うと、塗料の部分が電波を反射してしまいステルス性が損なわれる可能性があるのです。実際、F-35は2024年現在、世界中で約1000機が配備されていますが、色付き塗装機は飛行隊の隊長機や訓練部隊などの一部に限定されています。
今回の第302飛行隊の702号機の場合は、記念塗装を施して性能に影響はあったのでしょうか。塗装作業を担当したパイロットに直接聞いてみました。
ステルス機への塗装 秘訣は塗料
今回の702号機の塗装作業は飛行隊のパイロットと、機体を管理する検査隊の整備員が共同で行ったそうです。作業を担当した飛行隊のパイロットは次のように説明してくれました。
「F-35Aはステルス機であるため、機体に使用する塗料はステルス性に大きな影響を与えない特別なものを使用しています。そのため、塗料そのものの入手にとても苦労しました。塗装作業については従来のスペシャルマーキング機と同じやり方で、まずプロジェクターで図柄を機体に投影し、それを元にテープを貼ってマスキング。あとは塗装面を脱脂したのち、刷毛(ハケ)とローラーを使って手作業で塗りました」(塗装作業担当パイロット)。
2024年9月18日に三沢基地内で行われた第302飛行隊の創隊50周年式典での参加者による集合写真(布留川 司撮影)。
ちなみに、記念塗装機の作業では、ステルス性といった技術的な問題よりも、塗装という物理的な作業で苦労が多かったようです。
「F-35Aは近くで見ると意外と大きく、塗装面も想像以上に大きかったので作業は手間と時間が掛かりました。また、オジロワシの図柄を塗る垂直尾翼は外側に傾いているため、その周りに安全な足場を作る必要があって苦労しましたね」(塗装作業担当パイロット)。
「オジロワシ」は期間限定 ずっと残せない理由は?
見事な「オジロワシ」の図柄によって、飛行隊を代表するシンボル的な機体となった702号機。しかし、この記念塗装は期間限定であり、いつかは見られなくなる模様です。
「特別な塗料を使用しているとはいえ、記念塗装機は通常の機体と比べると目立ちます。そのため、この塗装が施されている間は通常の訓練に限って使用することになります」(塗装作業担当パイロット)。
記念塗装機の作業を監督した第302飛行隊のパイロット。作業は他のパイロットや検査隊の整備員も協力して複数人で行われた。パイロットの左肩には創隊50周年を記念する記念ワッペンが付いている(布留川 司撮影)。
ステルス機の「見えにくい」という効果は、レーダーだけでなく、目視や光学(画像)センサーに対しても考慮されています。多くのステルス機が単色でロージビ塗装に統一されているのはこのためです。702号機の記念塗装はレーダーに対するステルス性に影響がないとしても、色付きの塗装によって目視では目を引く存在であり、このままの状態で任務に使うことはできません。
なお、目立ち過ぎるというのはF-35のようなステルス機に限った問題ではなく、航空自衛隊のF-15「イーグル」戦闘機やF-2戦闘機でも同様で、それらの記念塗装機も同様な理由によって訓練での使用はかなり限られます。
だからこそ、記念塗装機は期間限定の特別なものであり、短い場合は数か月ほどで塗装が落とされて元の状態に戻されてしまうのです。
F-35のカラー塗装は世界的に見ても珍しく、しかも702号機の場合は第302飛行隊にとって往年のF-4「ファントムII」の運用時期を思い出させる特別な存在だといえるでしょう。しかし、航空自衛隊の飛行隊として日々の任務を行うには、それをずっと維持するのは難しいようです。