たとえ大口径砲を搭載していても、砲塔を装備していても、それだけでは戦車には分類されません。戦車に間違われやすい、似たような外観ながら戦車ではない戦闘車両を5種類集めてみました。
戦車車体を流用していても戦車にあらず
戦車は全周(360度)旋回できる砲塔に高威力な砲を搭載し、厚い装甲、高い悪路走破性を持っているのが特徴です。そのため、大威力な砲を装備していても砲塔がなかったり、砲塔を装備していても防御力が銃弾を防ぐ程度で、砲弾の直撃には耐えられないレベルだったりするものは、戦車とは呼ばれません。
戦車のようなのに戦車には分類されない車種を5つまとめてみました。
駆逐戦車
駆逐戦車は、「戦車」を「駆逐」する、すなわち「戦車を倒す」ための「車両」です。そのため、同じ車体サイズの戦車と比べるとより強力な主砲を装備していることが多いです。
ドイツが作った2種類の駆逐戦車、「ヤークトパンター」(手前)と「ヘッツァー」(奥)。両車とも戦車車体に密閉式戦闘室を設け、主砲を搭載している(柘植優介撮影)。
基本的に、駆逐戦車は砲塔がなく車体に主砲を直付けしています。天井も含めて装甲板で囲われていますが、前面装甲以外は銃弾や爆風に耐えられる程度に留められています。
アメリカの駆逐戦車だけは全周旋回できる砲塔を有し、そこに主砲を搭載しています。そのため一見すると戦車によく似ているものの、こちらは砲塔上面が開放式のため頭上からの攻撃には脆弱です。
駆逐戦車は、戦車車体を流用したものが多く、エンジンや変速機、履帯(いわゆるキャタピラ)やサスペンションなどが、ベースになった戦車と同じであるものが多く見られます。
自走砲
自走砲は「自走」できる「野砲」という意味で、砲兵が使うりゅう弾砲やカノン砲などを車両に載せたものです。
自走砲の役割は、戦車のように最前線で直接撃ち合うのではなく、離れた場所から砲撃支援するもので、砲弾を遠くまで高精度で飛ばせるよう砲身は長く、なおかつ高角度に向けられるのが特徴です。また戦車ほど機動性が要求されないため、悪路走破性はそれほど高くなく、最高速度も遅いです。
大口径砲搭載でも装甲が薄いなら戦車にあらず
戦車は、敵戦車の砲弾が直撃しても耐えられるよう、厚い装甲を持っています。そのため、たとえ強力な砲を装備していたとしても、装甲が薄ければ戦車ではありません。
対戦車自走砲
対戦車自走砲は、その名のとおり「自走」できる「対戦車砲」です。対戦車砲とは戦車を撃破できる大砲のことで、それを車台に載せて自走化しただけのものであるため、攻撃力はさておき、装甲は薄く、小銃弾や爆風を防ぐ程度の防御力しかありません。
「マルダーIII」対戦車自走砲。「ヘッツァー」と似た足回りだが、オープントップ式戦闘室に戦車砲を装備しているのが特徴(柘植優介撮影)。
ベース車体には戦車以外の戦闘車両が流用され、応急的な作りであるものが多く見られます。また仮に戦車車体を流用していたとしても、おもに旧式戦車の再利用で、機動性は第一線の戦車に劣ることが多いです。
歩兵戦闘車
歩兵戦闘車は、一見すると装軌式、いわゆるキャタピラ式の足回りを持つ装甲車体に砲塔を搭載しているため戦車のように見えます。しかし、名前のとおり「歩兵」を運ぶための「戦闘車両」であり、車内に兵員室を設けているのが特徴です。また収容した歩兵の乗降用に、ほとんどの車体は車体後部に大型扉があり、エンジンは車体前部に搭載していることが多いです。
車体上部に装備した砲塔には機関砲や低反動砲を積んでいますが、これらは歩兵の火力支援用のため、戦車の前面装甲を貫くほどの威力はありません。そのため一部の歩兵戦闘車は、このほかに対戦車ミサイルを装備しています。また防御力も戦車と比べると劣っており、基本的には機関砲や爆風に耐えられる程度です。
戦車を撃破できても車輪駆動なら戦車にあらず
戦車砲に比肩する強力な砲を全周旋回砲塔に搭載していても、足回りが車輪だと戦車には分類されません。
戦闘偵察車・偵察戦闘車
国によって呼び方が変わるのが、戦闘偵察車、もしくは偵察戦闘車で、陸上自衛隊の16式機動戦闘車がこのジャンルに含まれます。
陸上自衛隊が導入を進めている16式機動戦闘車。戦車と同じ105mm砲を搭載するが、タイヤ駆動なのが特徴(柘植優介撮影)。
戦車のように全周旋回可能な砲塔を装備し、戦車に対抗可能な大口径砲を搭載しているのが特徴です。しかし、駆動方式はタイヤ、いわゆる装輪式で、そこから「装輪戦車」と呼ばれることもあります。
装輪式のため、舗装路では市販車と同じように走ることができますが、悪路では戦車よりも機動性が劣るのが難点です。また戦車ほど車体を重くできないため、装甲が薄く防御力も戦車と比べて劣ります。