毎年恒例の「カフェカブミーティング in 青山」が今年も開かれました。全国から多数の個性的な「カブ」が集まるこのイベント、今回は10月20日にエントリーしたマシンの中から一際輝いていたマシンを紹介します。
ホンダ青山ビルで開かれるのは最後に
東京都港区にあるホンダウェルカムプラザ青山で、2024年10月19日(土)と20日(日)の2日間にわたって「第27回カフェカブミーティング in 青山」が開催されました。このイベントは、全国から「カブ主」と呼ばれるホンダ「スーパーカブ」オーナーがホンダ本社ビル1階にあるショールームに集まり、無料提供されるコーヒーを楽しみながら自慢の愛車を披露し交流を図るというものです。
そんな「スーパーカブ」を愛するファンが一堂に会するイベントのため、他ではなかなか見ることができない個性豊かな「スーパーカブ」を何台も見つけることができました。
ビンテージルックに美しくカスタムされた「スーパーカブ」(山崎 龍撮影)。
そもそも「カフェカブミーティング in 青山」は、1997年に第1回が開催され、以降、年1回のペースで毎年秋に開催されています。会場キャパシティの関係から参加台数に限りがあるため、エントリーは抽選方式で行われ、今年は両日で合計500台の参加がありました。ちなみに19日と20日、どちらの開催日もプログラム内容に変わりはありません。
なお、会場となったホンダウェルカムプラザ青山のあるホンダ青山ビルは、老朽化のため2025年春からの建て替え工事が決定しています(完成は2030年度予定)。そうしたことから現在のホンダウェルカムプラザ青山で開催される「カフェカブミーティング in 青山」は今回が最後となります。
知る人ぞ知るベロセット「LE」とホンダの繋がり
さて、「スーパーカブ」と言えば高い信頼性と耐久性、そしてシンプルな構造が特徴のミニバイクです。裏を返せばアマチュアでもカスタムしやすいオートバイと言えるでしょう。
だからこそ、個性的なカスタムカブが数多く集まるのですが、来場者の多くの目を集めていたのが1940年代のイギリス製バイク、ベロセット「LE」を模した「スーパーカブ」でした。かつて「LE」はイギリス警察にも多数が採用されたこともあって、オーナーは「スコットランドヤード」の通称で知られるロンドン警視庁の警察官のコスプレをしていました。
オーナーの説明によると、ベロセット「LE」を模したのには、いまから80年ほど前の故事が大きく関係しているといいます。
ホンダウェルカムプラザ青山に展示されたイベント開催記念の「スーパーカブ110」。バックのパネルは第1回~第26回までの「カフェカブミーティング in 青山」の写真をコラージュしたもの(山崎 龍撮影)。
時計の針は戦後間もない時期にさかのぼります。当時、ベロセットの輸入代理店を営んでいた「野村モータース」社長の野村順亮(のむら・のぶあき)さんは、水平対抗2気筒エンジンを搭載した画期的コミューターの「LE」を輸入しました。そうしたら、ホンダから「購入したい」との申し出があったそうです。
ホンダが「LE」を手に入れようとしていた理由が「いいバイクを作る参考車にする」にあることを知った野村さんは、予約金を返金し、無償で寄贈しました。これに感激した本田宗一郎さんは、野村さんをホンダ埼玉工場(当時)に招いて自ら案内し、盛大なお礼の宴を開いたといいます。さらに、後日販売を開始した「ドリームE」型の最初期型を記者会見でお披露目したあと、そのまま「野村モータース」に寄贈したとのこと。
このことを鑑みると、「スーパーカブ」を含むホンダのバイクにベロセット「LE」が何かしらの影響を与えたことは事実でしょう。こうした故事からオーナーは「LE」を模した「スーパーカブ」を製作したのだとか。カスタムバイクとしての完成度もさることながら、こうした歴史的なエピソードをテーマしたところに、先人への畏敬の念とロマンを感じました。
イタリアンスクーターに負けない質感を求めて
一方、「カブ主」の投票で選ぶコンテストで最多得票を得て1位に輝いたのが、プラスチック製のボディをアルミ叩き出しで作り直した「ジョルカブ」です。
このバイクはレトロ調のデザインで人気を博していたスクーター「ジョルノ」に、「スーパーカブ」のメカニズムを移植した車両で、外観はスクーターそのものですが、立派な「スーパーカブ」ファミリーの一員です。「ジョルカブ」はベルトドライブの一般的なスクーターとは異なり、「スーパーカブ」と同じくシフトペダルを用いた自動遠心クラッチによるロータリー式4段マニュアルを搭載しています。
アルミパネルの叩き出しで外装を作り直した「ジョルカブ」。スクーター「ジョルノ」に、「スーパーカブ」のメカニズムを移植した車両で、金属製のボディ、MT操作ということで言えば「ベスパ」や「ランブレッタ」などのイタリアンスクーターとの共通性がある(山崎 龍撮影)。
マニュアル操作が必要なスクーターと言えば、「ベスパ」や「ランブレッタ」などをイメージする人が多いと思いでしょうが、これらのイタリア製スクーターのボディは質感の高いスチール製。そこでオーナーは、ジョルノに「ベスパ」や「ランブレッタ」にも負けない質感と高級感を与えるべく、基本となるデザインはそのままに外装をアルミ製で作り直したそうです。
製作はプロの板金職人よる手作りとのことで、カタチにするには相当な手間と時間、そして費用がかかったことがうかがい知れます。
なお、この2台以外にも個性的でユニークな「スーパーカブ」が多数展示されており、集まった「カブ主」のみなさんは仲間同士で交流を深め、思い思いに休日を楽しんでいました。