沖縄本土復帰50周年を記念して制作されたNHKの連続テレビ小説(朝ドラ)「ちむどんどん」が放送中です。
本作は、沖縄本島北部に位置するやんばる地域を舞台に、古里の沖縄料理に夢をかけるヒロインと、強い絆で結ばれた家族の、本土復帰から50年の歩みを描いています。
幼い頃に父親を亡くし、貧しくも母親や個性豊かな兄妹たちと支え合いながら明るく生きるヒロイン・暢子を俳優の黒島結菜さんが好演しています。
デビュー当時から“NHK常連”俳優に
沖縄県糸満市出身の黒島さんは、2011年に母親からの勧めで地元企業、ウィルコム沖縄のイメージガールコンテストで「沖縄美少女図鑑」を受賞しました。「沖縄美少女図鑑」は、黒島さんが所属する事務所の先輩俳優の二階堂ふみさんを輩出した地元のフリーペーパーです。黒島さんも同誌に掲載された写真がきっかけで、芸能界入りを果たしました。
翌年から地元の高校に通いながら本格的に芸能活動をスタートさせ、NHK Eテレの教養バラエティー番組「テストの花道」にレギュラー出演しました。その後はクラレ「ミラバケッソ」やアサヒ飲料「カルピスウォーター」などのCM出演で注目を浴びる一方、俳優業にも力を入れていきます。
特筆すべきは、黒島さんがNHK常連の俳優であるということ。前述した「テストの花道」を皮切りに、2015年は「マッサン」と「花燃ゆ」で朝ドラ、大河ドラマに連続で出演。
さらに、同年、NHK広島のスペシャルドラマ「戦後70年 一番電車が走った」でドラマ初主演を飾り、「いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜」(19年)、「スカーレット」(20年)など、NHK制作番組に多数出演してきました。そんな黒島さんの朝ドラヒロイン抜てきは必然だったといえるでしょう。
しかし、黒島さんがヒロインに選ばれたのは単にNHKの常連だからというわけではありません。今回、黒島さんはオーディションではなく、キャスティングでの起用となりました。
制作統括の小林大児チーフプロデューサーはその理由について、「透明感に、りりしさ、たくましさを併せ持ち、シリアスもコミカルも表現できる素晴らしい俳優さんです。沖縄出身でもある黒島さんの他にヒロインは考えられませんでした」と語っています。
90年代少女漫画のヒロインを彷彿とさせる芝居
その言葉通り、黒島さんは誰もが応援したくなる“王道ヒロイン”ぶりをこれまで発揮してきました。くっきりとした顔立ちと黒髮のショート、またはセミロングヘアが印象的で、どこかボーイッシュなイメージがあります。
また学生時代から運動神経が抜群のスポーツ少女だったそうです。戦国時代にタイムスリップし、一目惚れした若君を守るために足軽となって奮闘する女子高生を演じたドラマ「アシガール」や、日本初のオリンピック選手・金栗四三(中村勘九郎さん)と出会い、スポーツに目覚める女学生に扮した「いだてん」でも身軽な動きを披露し、唯一無二の存在感を放ちました。
そんな“フレッシュ”という言葉が誰よりも似合う黒島さんですが、はじける笑顔、天真らんまんな性格の裏に隠された芯の強さをのぞかせる芝居も魅力的。コメディエンヌとしての才能を発揮する一方で、シリアスな場面では即座に表情を引き締め、まっすぐな芝居で空気を一変させる力も持ち合わせています。
「いだてん」では、四三の不当解雇に対する抵抗運動を牽引したり、女子がスポーツに取り組むことを否定的に捉える父親との駆けっこ競争に挑んだりと、不条理に立ち向かう強さを見せつけました。
自分の納得できないことに対しては、正々堂々と立ち向かう。そんな竹の割ったような気持ちのいい性格のキャラクターに黒島さんはハマるのです。だからこそ、黒島さんには年齢・性別問わず、幅広い層から自分の子供や孫、友達、あるいは好きなアイドルを見守るような眼差しが向けられるのでしょう。
「スカーレット」で、ヒロインの喜美子(戸田恵梨香さん)とその夫・八郎(松下洸平さん)との間に波乱をもたらす役を演じた時でさえも、そこに嫌味は一切なく、純粋でまっすぐな性格の魅力あるキャラクターに仕上げていました。
今回演じるヒロインの暢子も愛されキャラである一方、どこか非常識で突っ走るところがあり、視聴者をモヤモヤさせる行動を取ることも。
例えば、第32話にてレストランで働き始めたばかりの暢子がオーナーに食ってかかる場面は視聴者を唖然とさせました。でも、カラッとした沖縄の気候みたいな黒島さんが演じていると、「暢子、それはダメだよ!」「もう少し頑張ってみようよ!」と画面に向かってツッコミを入れたり、応援したりしながら見守り続けようと思えてくるのです。その姿はどこか、「花より男子」や「ママレード・ボーイ」などに代表される90年代の少女漫画のヒロインをほうふつとさせます。
「ちむどんどん」は“東京・鶴見編”に突入しています。トラブル続きで毎話放送後に賛否両論が巻き起こる本作ですが、朝ドラヒロインという大役に挑む黒島さんの勇姿を最後まで見届けてみてはいかがでしょうか。
ライター 苫とり子