俳優の伊藤沙莉さんが主演を務めるNHK連続テレビ小説「虎に翼」。7月3日に放送された第68回で描かれた「生理休暇」にまつわるシーンが注目を集めました。劇中では、1947(昭和22)年に「生理休暇」が労働基準法に盛り込まれたことが紹介されますが、伊藤さん演じる主人公・寅子が生理による体調不良に見舞われながらも「これだから女は」と言われたくないがために、痛みに耐えながら働く姿が描かれました。
放送後、このシーンについてSNSでは「生理休暇ってそんな昔からあったの!?」「制定されたのが77年前だったとは」「生理休暇って労働基準法で決められてるんだ」といった驚きの声のほか、「全然浸透してない」「今も休みづらい風潮がある日本って…」など、昔から変わらない“取得のしづらさ”を嘆く声も聞かれました。
なぜ、生理休暇はこれほどまでに“取りづらい”のか……その背景や実情について、社会保険労務士の木村政美さんに見解を聞きました。
「男性上司に申請しにくい」「休むと給料が減る」
Q.まず、「生理休暇」について教えてください。
木村さん「『生理休暇』は、生理中に発生する腹痛や頭痛、倦怠(けんたい)感などの体調不良によって、仕事に就くことが著しく困難な場合、正社員、パート、アルバイトなどの雇用形態や従事する職種を問わず、誰でも請求することができる法定休暇制度です。
生理休暇は1日、半日、1時間ごとの取得が可能で、症状の程度や期間に個人差があるため、取得日数の上限はありません。従って、企業側は従業員が生理休暇を請求した場合、拒否したり、日数を限定したりすることはできないとされています。
なお、生理休暇中の給与については、法律上の定めがないので、有給か無給か、有給の場合はその金額などを企業の判断で決めることができますが、決定事項は就業規則への明記が必要です」
Q.働く女性の中には、生理休暇について「取得しづらい」「知っているけど取得したことがない」「浸透していない」と感じている人が少なくないようですが、これについてどう思われますか。
木村さん「厚生労働省が発表した『令和2年度雇用均等基本調査』によると、女性労働者のうち生理休暇を請求した割合は、1997(平成9)年度は3.3%、2004(平成16)年度は1.6%、2020(令和2)年度は0.9%と、かなり低い水準で推移しています。
生理休暇を取らない主な理由としては、『上司(特に男性上司)に申請しにくい』『職場が人員不足で休みにくい』『(生理休暇が無給の場合)休むと給料が減る、もしくは生理休暇のために年次有給休暇を取りたくない』『休むことで人事評価が下がる』などがありますが、中には生理休暇の制度があることを知らない従業員や企業も存在します。
また、生理休暇を取得する要件として『仕事に就くことが著しく困難な状態』であることが必要なため、単に『生理中である』ことだけで取得はできません。症状の程度を会社に伝えるのに、医師の診断書は必要なく自己申告で可能ですが、生理休暇を取る際に感じる諸々の気まずさや仕事面での影響を考えると、症状が重い場合でも鎮痛剤など薬の服用で対処している人が多いでしょう。
さらに、女性の社会進出が進み、性別による職業の区別がなくなりつつあることが、女性だけを対象とした休暇の取りづらさにつながり、生理休暇の取得率をさらに押し下げる要因になっています。なお、生理中の症状を我慢して働き続けることによる問題点は、仕事に対するパフォーマンスが下がることで、組織の生産性の低下につながりやすくなる点だと考えられます」
ネーミングを変え、男女問わず取得できる休暇に
Q.今後、生理休暇の取得率が「上がる」ことはあると思われますか。
木村さん「企業が自社の現状を把握し、改善しない限りは、生理休暇の取得率が上がることはないと思われます。その根本的な原因は、『男性従業員や管理職者に生理に対する理解がないため、生理であることを知られたくない』『会社もしくは職場が人手不足のため休暇を取りにくい』『働き方について“長い時間働くこと=会社への貢献度が高い”との考え方がある』などで、多くの企業に共通しています。
対処法の一例としては、まず、女性の生理について男性従業員に意識改革を促すとともに、生理の症状には個人差があり、就業がつらい女性がいることを女性従業員にも理解してもらう場を設けることが挙げられます。また、体調不良を我慢して働くことで仕事の質が下がり、職場の生産性が低下するのを防ぐため、生理に限らず、男性も女性も体調不良の場合に取得できる休暇を設けることです。『生理休暇』のネーミングを変えるとともに、有給扱いにすれば従業員にとって使いやすい制度になるでしょう。
そして、従業員が休暇を取得しても組織の生産性が上がるような働き方を構築することです。逆に労働時間が長く、生理休暇、年次有給休暇などの取得がしづらいといった企業は、人材の確保に苦労するなど、これからの企業経営にマイナスになることを留意する必要があります」
オトナンサー編集部