路線バスだけで東京~大阪間を乗り継ぐと、どのようなルートが考えられるのでしょうか。バスが1日1本しかない区間や、徒歩での長距離移動を強いられる区間など、「難関」は至るところにあります。
東京駅からバス3本乗り継ぎで都内越え
路線バスだけで東京駅から大阪駅まで乗り継いで移動すると、どのような行程が考えられるでしょうか。今回は、筆者(宮武和多哉:旅行・乗り物ライター)が2008(平成20)年ごろから実際に路線バスで日本列島を縦断した際の乗車区間をもとに、その後に廃止された区間は別ルートを提示するなどのアレンジを加え、2019年10月現在の乗り継ぎルート例を紹介します。
なお、このルートは有料道路を走らない路線に限定しています。以下、それぞれのバス路線はバス事業者名またはバス愛称名、系統名または路線愛称(存在しない場合もあり)、乗車区間の順に記載します。
東京都~神奈川県
・東急バス「東98」:東京駅丸の内南口~赤羽橋駅前
・都営バス「反94」:赤羽橋駅前~五反田駅
・東急バス「反01」:五反田駅~川崎駅ラゾーナ広場
東京駅丸の内南口に停まる東急バス「東98」(2019年10月、乗りものニュース編集部撮影)。
東京駅を出発するトップバッターとなるのは、東急バス「東98」。東京都内はこの路線と、五反田駅から川崎駅までを結ぶ東急バス「反01」を活用することで、難なく抜けることができます。「東98」のルートから五反田駅に出るには、たとえば「東98」が経由する目黒駅から、五反田駅まで1.5kmほどを歩いてしまうというのも一手です。
東京から箱根まで1日で行ける!
神奈川県内も、順調にバスを乗り継ぐことができます。
神奈川県~静岡県
・横浜市営バス「7」:川崎駅西口~横浜駅前
・神奈中バス「横43」:横浜駅東口~戸塚駅東口
(戸塚駅東口~戸塚バスセンター間、徒歩およそ200m)
・神奈中バス「戸60」:戸塚バスセンター~立場ターミナル
・神奈中バス「湘07」:立場ターミナル~湘南台駅東口
・神奈中バス「湘11」:湘南台駅西口~茅ヶ崎駅
・神奈中バス「茅06」:茅ヶ崎駅~平塚駅北口
・神奈中バス「平32」:平塚駅北口~二宮駅南口
・神奈中バス「二46」:二宮駅北口~国府津駅
・箱根登山バス:国府津駅~小田原駅東口
・伊豆箱根バス「Z」:小田原駅東口~元箱根港
・東海バス「N65」:元箱根港~三島駅(南口)
川崎駅から横浜駅を経て、神奈中バスの拠点のひとつである戸塚バスセンターに出ます。そこから藤沢、辻堂とJR東海道本線に沿う形で乗り継ぐことも可能ですが、内陸の湘南台駅へ出ると、茅ヶ崎駅まで直通するバスがあるので便利です。また平塚駅からは、小田原駅までの直通バスもあるものの、本数は休日の早朝1本のみと極めて少ないので、地道に乗り継ぐのが現実的でしょう。
元箱根港バス停。ここから三島駅へ出られる(2010年9月、宮武和多哉撮影)。
上記ルートであれば、うまく乗り継げば東京駅から元箱根港まで1日で向かうことができます。ちなみに、東京駅から多摩方面へ向かい、神奈川県相模原市、山梨県道志村、そして富士五湖周辺から御殿場、箱根へと乗り継ぐ大迂回も可能で、筆者も過去にこのルート選択しましたが、現在は最低でも3日を要します。
いずれにしても、静岡まではバスを乗り継いで来られますが、この先で最大の難関が待ち構えています。
ついに途切れるバス 由緒ある峠を徒歩で抜ける
静岡県内はバス路線が途切れるため、1日で抜けることができません。このため、静岡市の中心部を境に、東部と西部にわけて紹介します。
静岡県(東部)
・伊豆箱根バス「沼51」三島駅南口~沼津駅南口
・富士急シティバス「東田子浦駅線」:沼津駅南口~東田子浦駅
・富士急静岡バス:東田子浦駅~吉原中央駅
・富士急静岡バス「大月線」:吉原中央駅~富士宮駅
・山梨交通:富士宮駅~蒲原病院
・静岡市自主運行バス「由比・蒲原病院線」:蒲原病院~由比駅
・ゆいバス:由比駅~倉沢漁業事務所
(倉沢漁業事務所~さった間、徒歩およそ4km)
・しずてつジャストライン「三保山の手線」:さった~清水駅前
・しずてつジャストライン「北街道線」:清水駅前~新静岡
沼津駅から先は2019年現在、減便や廃止が相次いでいます。かつて筆者が乗車した富士急静岡バス「根方線」の東吉原~富士駅間や、「興津線」の富士駅~蒲原病院間が2019年10月のダイヤ改正で廃止となったほか、蒲原病院~由比駅間も静岡市の「自主運行バス」に転換するなどしており、コースが大きく変わっています。
そして、東京から乗り継いできた路線バスが、ついに途切れる区間も。ゆいバスの倉沢漁業事務所から、薩埵(さった)峠を隔てた約4kmの区間は、旧東海道を歩いての移動です。峠の坂を上り切ると眼下には駿河湾が広がり、歌川広重の浮世絵にも描かれた絶景が広がります。
さらに坂を下り、街道沿いの寺院や石灯籠に沿って歩くと、しずてつジャストラインの「さった」バス停です。しかし、ここには平日朝1本しかバスが停車しないので、先を急ぐ場合は、目の前の興津川に架かる橋を渡って500mほど歩き、新浦安橋バス停を利用しましょう。こちらは1時間に1、2本は運行されています。
路線バスが途切れる区間は薩埵峠を徒歩で越える(2016年8月、宮武和多哉撮影)。
静岡県(西部)~愛知県
・しずてつジャストライン「中部国道線」:新静岡~藤枝駅前
・しずてつジャストライン「藤枝相良線」:藤枝駅南口~相良営業所
・しずてつジャストライン「相良浜岡線」:相良営業所~浜岡営業所
・しずてつジャストライン「掛川大東浜岡線」:浜岡営業所~大東支所
・秋葉バスサービス「秋葉中遠線」:大東支所~掛川市大須賀支所
・遠鉄バス「90」:掛川市大須賀支所~浜松駅
・遠鉄バス「10」:浜松駅~湖西市役所
・コーちゃんバス「白須賀鷲津線」:湖西市役所~境宿西
(県境越え〈境宿西~一里山〉、徒歩0.2Km)
静岡市からは藤枝市、牧之原市、掛川市と、順調にバスを乗り継ぐことができます。しずてつジャストラインの親会社である静岡鉄道が、この地域を横断する駿遠線(1970年全廃)を運行していた名残といえるかもしれません。
浜松市内では2019年10月、遠鉄バスの市北部区間がいっせいに廃止され、筆者がかつて行った愛知県新城市方面への乗り継ぎができなくなりました。このため、静岡県湖西市が運営するコーちゃんバスの境宿西バス停から、愛知県内の豊鉄バス「二川線」一里山バス停まで、200mほどの徒歩連絡が生じています。
名古屋のど真ん中でも難関が!
愛知県内では、JR東海道本線沿いから離れます。
愛知県~三重県
名鉄バス。赤池駅前にて(2015年7月、宮武和多哉撮影)。
・豊鉄バス「二川線」:一里山~豊橋駅前
・豊鉄バス「新豊線」:豊橋駅前~新城市民病院
・豊鉄バス「田口新城線」:新城市民病院~田口
・おでかけ北設「稲武線」:田口~稲武
・とよたおいでんバス「稲武・足助線」:稲武~足助
・名鉄バス「矢並線」:足助~豊田市(東口)
・名鉄バス「星ヶ丘・豊田線」:豊田市(西口)~赤池駅
・名鉄バス「豊明団地線」:赤池駅~地下鉄徳重
・名古屋市交通局「新瑞12」:地下鉄徳重~新瑞橋
・名古屋市交通局「栄20」:新瑞橋~栄
・名古屋市交通局「名駅16」:栄~笹島町
(笹島町~名鉄バスセンター間は徒歩すぐ)
・三重交通「50」:名鉄バスセンター~桑名駅前
豊橋から名古屋にかけては、JR東海道本線、名鉄名古屋本線に沿うバス路線がつながっていないため、山間部へ回り込むことになります。豊田市から名古屋市内へは順調に乗り継ぐことが可能です。しかし、ここで思わぬ難関が立ちはだかります。
名古屋から三重県の桑名方面に抜けるただ1系統の路線バス、三重交通の「50」系統は、ほとんどが名古屋市内の「かの里」バス停止まりで、桑名駅前まで直通するのは名鉄バスセンター21時40分発の1本、片方向のみです。かつては近鉄名古屋線やJR関西本線に対抗すべく1時間に2、3本が桑名駅前まで走っていましたが、周辺路線も含めて急速に姿を消しつつあります。
三重県内を南下するのが「正解」
愛知県から先は、JR東海道本線沿いに岐阜県を経て滋賀県へ抜ける、あるいは三重県北部から旧東海道に沿う形で滋賀県へ抜けるルートも考えられますが、いずれにしても滋賀県内でバスが途切れます。大阪へ向かうなら、三重県内を南下し、奈良県へ出るのが「正解」です。
三重県~奈良県
津市の椋本バス停付近。三重交通の路線バスやコミュニティバスが発着する(2018年12月、宮武和多哉撮影)。
・八風バス「梅戸線」:桑名駅前~伊坂台
・四日市市自主運行バス「山城富洲原線」:伊坂台3丁目~山城駅前
・三岐鉄道バス「山之一色線」:山城駅前~近鉄四日市駅前
・三重交通「53」:近鉄四日市~平田町駅
・三重交通「71」:平田町駅~亀山駅前
・三重交通「55」:亀山駅前~椋本
・三重交通「52」:椋本~津駅前
・三重交通「15」:津駅前~榊原車庫
・三重交通「15」:榊原車庫~榊原温泉口駅
・津市コミュニティバス「家城ル~ト」:榊原温泉口駅~一志病院
・津市コミュニティバス「川上ル~ト」:一志病院~伊勢奥津駅前
・三重交通「31」:奥津駅前~飯垣内
・三重交通「31」:飯垣内~名張駅前(西口)
・三重交通「71」:名張駅前(西口)~上野市駅
・三重交通「52」:上野市駅~月瀬橋
四日市市から津市の榊原車庫までは、どの路線も1時間あたり1本から3本は確保されていますが、榊原車庫~榊原温泉口間は平日2本のみです。榊原温泉口から先は、峠道と小さな宿場町を交互に縫うように名張、上野を経由し、梅園や温泉で有名な奈良市の月ヶ瀬地区へ抜けていきます。月ヶ瀬地区では、次に乗車する奈良市街方面からのバスと運行区間が一部重複していますので、集落の中心部に近い月瀬橋などで降りるとよいでしょう。
時代劇の舞台から新興住宅地まで 車窓が楽しい奈良県内
東京からバス乗り継ぎの旅もいよいよ終盤です。奈良県から大阪府内へ向かいます。
奈良県~大阪府
・奈良交通「94」:月瀬橋~近鉄奈良駅
・奈良交通「48」:近鉄奈良駅~学園前駅(南)
・奈良交通「急行129」:学園前駅(北)~学研北生駒駅
・奈良交通「188」:学研北生駒駅~生駒駅北口
・奈良交通「79」:生駒駅南口~田原台1丁目
奈良市月ヶ瀬地区からのバスは、時代劇で有名な「柳生の里」を抜けて奈良市街地へ。近鉄奈良駅と学園前駅を結ぶ奈良交通の48系統は、住宅街のなかの峠越え路線で、狭い道路をすれ違うバスの運転手どうしが無線で連絡を取り合う様は必見です。
生駒駅北口に停まる奈良交通のバス(2019年11月、宮武和多哉撮影)。
奈良市北部から生駒市北部にかけては、2006(平成18)年に近鉄けいはんな線が開業するなど、近年になり開発が進んだ地域です。しかし、周辺の団地に住む人の通勤の足となっていた生駒駅行きのバスは、大きく本数を減らし、現在は平日8本、土日6本のみとなっています。
生駒駅からは北へ、生駒山地に広がる住宅街、田原台に向かいます。バスの乗り継ぎ地点である田原台1丁目は、大阪府四条畷市に属しており、近くを流れる天野川が奈良との府県境です。田原台1丁目から、七夕伝説に関わりがあるとされるこの川に沿って、京阪電鉄の交野市駅方面へ向かうバスに乗り継ぐこともできますが、土日休2本のみの運行なので、本数のある四条畷市コミュニティバスでJR四条畷駅へ向かうのがよいでしょう。
ゴールの大阪駅で待っている「パラダイス」
大阪駅までは、もうひと息です。
大阪府内
四条畷駅のバス乗り場に到着した四条畷市コミュニティバス。京阪バスが自社の車両で受託運行している(2019年11月、宮武和多哉撮影)。
・四条畷市コミュニティバス「田原4A」:田原台1丁目~四条畷駅
・京阪バス「37」:四条畷駅~寝屋川市駅(東口)
・京阪バス「1」:寝屋川市駅(西口)~京阪本通
(京阪本通~守口車庫前間、徒歩およそ0.6km)
・大阪シティバス「34」:守口車庫前~大阪駅前
四条畷駅からは、乗り継ぎに苦労することなく大阪市内へ向かうことができるでしょう。最後に乗車する大阪シティバス34号系統は、平日朝に1、2分おきという運行頻度を誇る、国内有数の黒字路線です。
高架下の大阪駅前バス降車場は、そこから2歩で立ち飲み屋街に入れるという、大人のパラダイスが広がっています。名店「松葉」で串カツとビールを味わうもよし、「大阪屋」でもつ煮込みとハイボールを味わうもよし。東京~大阪間のバス乗り継ぎを振り返ってみましょう。
※ ※ ※
今回示したルートを旅する場合、最低でも足かけ10日は必要です。地域によってはルートの選択肢が複数ありますが、全国的に路線バスは年々縮小の一途をたどり、挙げていったコースの中にも現状で危機に瀕している路線もあります。壮大な「路線バス乗り継ぎの旅」を経験するなら、まさに「いましかない」のではないでしょうか。鉄道では味わえない景色や、バスを必要とする人々の暮らしが見えるかもしれません。